韓国の「人口問題」、日本以上の深刻さが韓国経済に落とす暗い影
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2021年04月06日 (火)
出川 展恒 解説委員
▼そして、最も注目されたのが、3つ目の訪問国イランです。
王外相は、ザリーフ外相との会談で、両国が今後25年にわたって、経済、エネルギー、政治、安全保障、インフラ整備、情報通信など広い分野で協力を進めてゆくことを謳った「包括的協力計画」に署名しました。
その詳しい内容は公表されていませんが、中国は、イランのエネルギー部門やインフラ整備に、総額4000億ドル、日本円でおよそ44兆円を投資する。
かわりに、イランは、中国に対し、原油を市場価格よりも安く輸出することなどが盛り込まれていると報道されています。
イランにとって中国は、最大の貿易相手国で、原油の輸出先であるのに対し、中国にとってイランは、重要な原油の輸入元、そして、中国製品の市場であり、まさに、「ウィンウィン」の関係です。
とくに、アメリカの制裁によって、国家収入の柱とも言える原油の輸出ができなくなっていたイランにとって、今回の「協力計画」は、まさに「渡りに船」です。
計画には、兵器を共同開発することなど、軍事面の協力も含まれると伝えられ、バイデン大統領は、アメリカと対立するイランと中国が、こうした協力関係を結ぶことに、強い懸念を示しています。
王外相は、ロウハニ大統領とも会談し、アメリカによる制裁とイランによる合意違反の応酬で、存続が危ぶまれている「イラン核合意」について話し合いました。
この中で、王外相は、「中国は一貫して核合意を支持しており、アメリカによる制裁には反対する」と強調したうえで、核合意を復活させるためには、まず、アメリカが制裁を解除すべきだとするイランの主張を全面的に支持する姿勢を示しました。
バイデン大統領は、核合意に復帰する考えを表明しているものの、そのためには、まず、イランが、核合意への違反行為をやめて、完全に守ることが前提だと主張し、平行線が続いています。
そして、核合意の復活をめざす関係国の協議が、6日、日本時間の今夜、オーストリアのウイーンで始まりました。アメリカとイラン、双方の代表が参加するのは、アメリカが3年前に核合意から離脱して以来、初めてのことです。
双方が直接顔を合わせる協議は予定されず、仲介役のEUを通した間接的な話し合いとなりますが、事態打開の糸口になるかどうか、たいへん注目されます。
核合意に署名した主要6か国のうち、イギリス、フランス、ドイツは、中立的な姿勢です。
そして、中国が、ロシアとともに、イランの主張を明確に支持しています。
中国との「包括的協力計画」という多額の投資や原油輸出の機会、いわば、アメリカの制裁を〝無力化”する武器を得たイランは、これまでよりも、強い姿勢で協議に臨むものと見られます。
バイデン政権が核合意に復帰するのは、いっそう難しくなったという見方が出ています。
■今、中国は、アメリカが中東地域への関与を減らしている空白を埋める形で、この地域への影響力を拡大しています。その目標と戦略は、次のようなものです。
▼人権問題などをめぐって中国への批判を強めるアメリカや同盟国による「中国包囲網」に対抗する。
▼エネルギー資源を確保し、貿易や投資など経済協力を進める。
▼独自に開発した新型コロナウイルスのワクチンを各国に提供し、影響力を強める。そして、
▼サウジアラビアとイランのように、互いに対立する国々の双方と「二国間関係」を積み重ねるやり方です。
ただし、この中国の外交は、ひたすら自国の利益を追い求めるもので、中東全体の平和と安定を目指そうという意思は窺えません。
この地域が抱える、さまざまな紛争を解決するのは、ますます難しくなると考えられます。
イランの核開発問題が解決されず、ペルシャ湾岸の緊張が長期にわたって続けば、この地域にエネルギーの大部分を依存する日本は、大きなリスクを抱えることになります。
そうした観点からも、中国による外交攻勢が、中東地域のパワーバランスやエネルギー需給にどんな影響をもたらすかを、注意深く観察する必要があると思います。
(出川 展恒 解説委員)
韓国の文大統領は、わが国を「重要な隣国」と指摘した。
これまで重視してきた反日的な姿勢を弱め、対日関係の修復を目指さなければならないほど、文氏の経済運営は厳しい局面を迎えつつあるようだ。
その裏には、日本以上に深刻な韓国の人口問題が垣間見える。(法政大学大学院教授 真壁昭夫)
● 統計開始以来初めて 韓国の人口が減少へ 韓国統計庁が公表した2020年の韓国の人口統計(速報値)によると、出生数27万2400人に対して、死亡者数は30万5100人。2020年、1970年の統計開始以来初めて、韓国の人口が減少に転じた。
人口減少の要因となっているのは、合計特殊出生率(女性1人が一生に生む子どもの推計数)の低下だ。
また、コロナショックによる経済格差の深刻化や経済の二極分化(K字型の景気回復)への懸念もその要因になり得る。
それに加えて、韓国の株価や不動産価格の調整も人口の減少に拍車をかける恐れがある。
長期的な視点で考えると、
韓国の人口はこのまま減少傾向をたどる可能性があり、わが国以上に厳しい人口問題に直面するとみる経済の専門家もいる。
● 鮮明化する韓国の 出生率の低下傾向 データの推移を確認すると、文在寅(ムン・ジェイン)大統領の政権発足後、時間の経過とともに出生率は低下している。
文氏の経済政策などが出生率低下にどう影響したか冷静な分析が求められるが、文政権が人々にゆとりある暮らしを提供することが難しい状況が続きそうだ。
韓国の人口問題の現状を把握するために、まずは時系列でデータを確認していこう。
2001~2005年までの5年間、および2006~2010年までの5年間、それぞれの韓国の平均出生率は「1.19」だった。
2011~2015年までの5年間の平均出生率は「1.23」に上昇した。
しかし、2016~2020年までの5年間の平均出生率は「0.99」へと低下した。
文政権が発足して以降の出生率は、2017年が「1.05」、2018年が「0.98」、2019年が「0.92」、2020年が「0.84」だ。
わが国の出生率(2019年で1.36)と比べても、韓国の出生率低下のペースは深刻となっている。
それに加えて、韓国では高齢化問題も深刻だ。
「高齢化社会」(人口の7%が65歳以上)から「高齢社会」(人口の14%が65歳以上)への移行に要した期間は、わが国で24年だった。
それに対して韓国は18年と、急速に高齢化が進んでいる。
韓国の出生率低下は、高齢化も加速させているのだ。
韓国では高齢者の生活環境が厳しい。OECD(経済協力開発機構)のデータによると、2018年、韓国の66歳以上の世代の相対的貧困率(所得が中央値の半分に満たない人の割合)は、43.4%だった。
同年のデータが取得できるOECD加盟国の中で、その水準は最高だ。
韓国において出生率の低下が加速化していること、そして、高齢者がゆとりある生活を目指すことが難しいことが、以上のデータから確認できる。
そのため、若年層など現役世代は将来への不安、予備的動機(将来の予期せぬ事態に備えて、予備的に貨幣を保有すること)を強める傾向にあると考えられる。
子どもを育てつつ自らのキャリアを追求することが難しいと感じる若年層も増えているようだ。
文政権下では、そうした社会心理は一段と強くなり、その結果として出生率が低下し、人口の減少と高齢化に拍車がかかっているようにみえる。
● 韓国の少子化と 人口減少の背景 米国を中心に世界的な低金利環境が続くとの見方は多い中、文政権の不動産政策は、マンションなど住宅価格の上昇を食い止めることができていない。
短期的に、首都圏の住宅価格はさらに上昇する可能性がある。
また、文政権は、規制の強化に加えて、首都圏を中心に住宅供給を増やしているが、その政策は首都圏への人口集中加速をサポートし、住宅価格にはさらなる上昇圧力がかかりやすい。
文政権はシニア世代からの支持の獲得を目指して、高齢者の短期雇用を強化した。
高齢者の生活を支えるためであるが、こうした文政権の雇用政策も将来への不安を高める要因となっている。
北朝鮮との融和政策に関しても、朝鮮動乱によって家族離散に直面した世代からの支持を得る狙いがあるようだが、
高齢者や労働組合など、すでに資産や職を持つ層を重視した政策が進められた結果、若年層の雇用や所得機会の向上が難しくなっている。
一方で、「人口減少問題を解消するために北朝鮮との融和が重視されている」と指摘する韓国経済の専門家もいるほどだ。
また、韓国経済全体で債務残高が増えている。
国際決済銀行(BIS)のデータによると、2020年9月時点で韓国の家計等の債務残高はGDPに対して101.1%に達した。
金融を除く民間部門の債務残高は同211.6%だ。
不動産価格が高騰し、雇用や所得の環境は厳しい。
その中で、債務に依存して日々の生活を送ろうとする人は増えている。
ある意味、文政権の経済政策は、既得権益を持つ層がさらに富み、そうではない人々の生活環境の厳しさが増す状況に、追い打ちをかけているように見える。
それに加えて、新型コロナウイルスの感染拡大によって人々の自己防衛本能が高まっていることも、韓国の出生率低下の一因だろう。
● 人口減少への懸念と 今後の韓国経済の展開 韓国では、世界的な株価上昇に影響されて、株式取引にのめりこむ20代、30代が増えているといわれている。
韓国株に加えて、テスラなどの海外株に手を伸ばす人も出始めたようだ。
その背景には、世界的な「カネ余り」環境の継続観測と、新型コロナに対するワクチン接種による世界経済の正常化への期待に加えて、株式市場のボラティリティー(株価の変動性)の上昇が、利得確保のチャンスをもたらしているとの見方がある。
こうした状況下、韓国では、自分が不確定な要素を支配できるという「コントロール・イリュージョン」の心理に浸る個人投資家が増えているように見える。
短期的に、韓国をはじめ世界の株価には上昇余地があるだろう。
しかし、その状況が長く続くことは考えられない。
どこかで株価は調整する。調整圧力が大きくなれば、家計を中心に経済全体でバランスシート調整が進み、次第に不良債権問題が顕在化する恐れがある。
その展開が鮮明となれば、韓国経済にはかなりの下押し圧力がかかり、資金は海外に流出するだろう。
経済環境が大きく混乱すると、人々の不安心理は強まり、出生率には下押し圧力がかかる。
また、韓国企業の競争力にも不安がある。
韓国企業は中国企業から追い上げられている。
韓国企業にとって、中長期の視点で産業を育成し、米中などから必要とされる製造技術を蓄積することは容易ではない。
文政権は先行きへの不安が高まりやすい状況をどう改善するか、有効な対策を見いだせずにいるとみられる。
足元、文大統領はわが国を「重要な隣国」と指摘した。
これまで重視してきた反日的な姿勢を弱め、
対日関係の修復を目指すことによって自国経済の安定感の向上を目指さなければならないほど、文氏の経済運営は厳しい局面を迎えつつあるようだ。
真壁昭夫