【ソウル=桜井紀雄】

韓国の鄭義溶(チョン・ウィヨン)外相が2月の就任後、茂木敏充外相と初めて行った5日の会談は、日本の東京電力福島第1原発処理水の海洋放出決定に鄭氏が強い反対の立場を示すなどして平行線に終わった。

韓国政府は海洋放出の問題点を広く国際社会に訴える外交方針を打ち出しており、いわゆる徴用工や慰安婦訴訟で悪化した日韓外交のさらなる膠着(こうちゃく)を招いている。

 鄭氏は5日の会談で、処理水放出について「韓国民の健康や安全、海洋環境に潜在的な脅威を及ぼし得る」と強い懸念を示した。

鄭氏は招待国として出席した先進7カ国(G7)外相会合でも、日本の放出決定を念頭にインド太平洋地域の海洋環境保全で協力する必要性を強調した。

 韓国外務省は「有効な手も打たずに日本の放出決定を許した」との国内世論の非難にさらされ、太平洋沿岸諸国などに海洋放出の問題点を訴えていく方針を打ち出した。

4月下旬、中米コスタリカで開かれた中米諸国との外務次官会議の共同声明に海洋汚染への共同対応の必要性を盛り込んだほか、鄭氏はベトナムやデンマークの外相との電話会談でも海洋放出問題を持ち出している。

 5日の会談で、茂木氏が徴用工や慰安婦訴訟で日本企業や日本政府に賠償を命じた韓国の判決について適切な措置を求めたのに対し、鄭氏は「日本側の正しい歴史認識なしには歴史問題が解決することはない」と反論した。

 鄭氏は4月の韓国メディアとの討論会で、慰安婦問題などをめぐる日本政府高官との過去の協議で「『もっと良い代案を持ってこい』と(日本側が)自分の主張を押し通す交渉態度にかなり驚いた」と日本政府への不満を公然と語っており、対日交渉の責任者としての鄭氏の資質を問う声も上がっている。