残り任期1年、「我執と独善」と批判される文在寅大統領の行方
2021.5.22
10日、ソウルの韓国大統領府で演説する文在寅大統領(聯合=共同)
韓国は来年3月の次期大統領選まで10カ月となり、文在寅(ムン・ジェイン)政権の求心力低下が目立ち始めた。
ソウル、釜山の両市長選惨敗で人心一新を図った内閣改造は、早くも閣僚候補1人が就任辞退に追い込まれ、大統領選への出馬宣言が続々と続く与党と文大統領の間には隙間風が吹いている。
不動産問題や新型コロナウイルスのワクチン確保問題で支持率は低迷が続き、今月10日の就任4周年演説で語った自己評価は「我執と独善」(韓国紙)と不評を買った。
相次ぐ側近の不正発覚には、国民から冷たい視線が向けられている。
与党と文大統領に隙間風
与党「共に民主党」は4月の市長選惨敗で幹部が一斉に辞職。
その後の党代表選では、宋永吉(ソン・ヨンギル)氏が文氏に近い候補を破って当選した。
宋氏は大統領と距離を置く「無派閥」の国会議員。
キャッチフレーズに「刷新」を掲げ、「党名と大統領を除いて全て変える」と主張したほどで、宋氏の党代表就任で政権与党の雰囲気は変わりつつある。
大統領選で与党の陣頭指揮を執るのは、党代表の宋氏になる。
宋氏自身は大統領選の候補者にはならないが、与党候補を当選させればその論功で次期政権の立役者の地位が待っている。
現在、与党からは李在明(イ・ジェミョン)京畿道知事、李洛淵(イ・ナギョン)元首相、丁世均(チョン・セギュン)前首相ら5人がすでに出馬を表明しており、さらに数人が名乗りを上げるとみられている。
「次期大統領にふさわしい人物」の世論調査でこの半年間、保守系の前検事総長、尹錫悦(ユン・ソンヨル)氏とトップを争っているのが李在明氏だ。
しかし、李在明氏と文氏は、前回の大統領予備選を戦い非難の応酬をした犬猿の仲だ。
李洛淵元首相と丁前首相は大統領に近い「文派(ムンパ)」だが、党代表と最有力候補がともに大統領と距離があるため、選挙政局は大統領府に微妙な影を落としつつある。
文氏は14日、大統領府に与党の新指導部を招いて懇談会を開き、「任期最後になると政府と与党の間に小さな隙間が広がりもする」と述べて党、政府、大統領府の結束を要請した。
これに対し、宋氏は「これからは全ての政策に党の意見が多く反映される必要がある」と切り返して注文を付けた。
改造閣僚に不正の過去が続々
文氏は4月の人心一新の内閣改造で、首相と5閣僚の交代を指名したが、この閣僚候補3人に相次いで過去の不正疑惑が発覚した。
不正の悪質さに、与党の若手議員らが「3人のうち少なくとも1人は指名撤回を大統領府に求めるべきだ」と党幹部に要求する事態になった。
大統領府も党内からの批判や世論に抗しきれず、1人を「指名辞退」という形で身を引かせた。
韓国は、大統領による閣僚指名後に国会聴聞会があるが、野党が反対しても大統領権限で任命が可能だ。
文氏はこれまで国会聴聞会で野党の反対を一度も聞き入れずに任命を強行してきた。
今回も1人は身を引かせたが、残る2人は文氏が5月14日に正式任命。
この強引や手法には韓国世論の反発がいまだに収まっていない。
「辞退」したのは海洋水産相候補に指名されていた朴俊泳(パク・ジュニョン)氏。
朴氏は海洋水産省の次官で、公使参事官として在英国大使館に勤務した際、夫人が当地でブランド品の陶磁器やアクセサリーなどを大量に購入、税関申告の必要がない外交行嚢(こうのう)を使って韓国に持ち込んだ上、転売していたという職権乱用の密輸疑惑だった。
残る2人の疑惑も国民を怒らせる内容だ。
科学技術情報通信相となった林恵淑(イム・ヘスク)氏は政府外郭団体の理事長時代、公費での海外出張が多かったが、そのたびに2人の子供と夫を同伴し「家族旅行」をしていた。
行き先は米ハワイ、スペイン・バルセロナなど観光地ばかり。
分かっているだけで6件、費用は約415万円に上る。
林氏にはこのほか、大学教授時代の弟子の論文盗用疑惑や、マンション売買不正疑惑など12の疑惑が指摘されている。
また、国土交通相となった盧炯旭(ノ・ヒョンウク)氏は、公務員向けの特別分譲で手に入れたマンションを高値で転売する「官舎財テク」を行っていた。
差益は日本円で2140万円に上った。
さらに息子は失業給付を不正に受け取り、妻は窃盗で逮捕されていた。
文大統領は人事批判が高まる中、5月10日に就任4年の特別演説を行い、不満をこう述べた。
「(人事に)野党が反対するからといって失敗だとは思わない」
「人事聴聞会は能力の部分はそっちのけで、ただ欠陥についてだけ問題にし、恥をかかせるような聴聞会になった」。
自らの任命責任や当事者の不適切な行動への遺憾表明はなかった。
演説は自らの4年間の政策についても自画自賛が目立ったため、
大手紙が軒並み、社説で「
虚空のなか独白のような文氏の自己自慢」(朝鮮日報)、
「我執と独善を捨てるべきだ」(中央日報)、
「『私と私たちの側が正しい』というドグマ」(東亜日報)と厳しく批判した。
歴代進歩政権5年目の支持率は
過去の革新系政権の支持率を振り返ると、金大中(キム・デジュン)政権は当初の最高支持率は71%で3年目も50%台だった。
だが、末期に次男、三男が不正資金事件で逮捕され、終盤には24%までに急落した。
盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権は60%台でスタートしたが、実兄の土地投機疑惑などで4年目にはレームダック(死に体)に陥り、政府与党からの離党者が相次ぎ、最低で12%となった。
文政権は、朴槿恵(パク・クネ)前大統領の弾劾という韓国政治史初の事態を受けての発足だっただけに、就任当初は支持率83%と期待値が高かった。
だが、不動産政策の失敗が最大の原因で4年目からじりじりと支持率を下げ、今年4月には政権発足後最低の29%を記録した。
現在は30%台で5年目の支持率としては高い方ではあるが、自己正当化と独善路線という負の連鎖に陥りつつあるようだ。 (編集委員)