高学歴でも就職できない 厳しさ増す韓国就活事情
「韓国での就職は考えませんでした。努力したわりに得られるものが少ないから」
こう話すのは、韓国の名門大学を卒業した男性です。
TOEFLのスコアは世界のトップクラスの大学にも進学できる100点を超え、京都大学に留学した経験もあります。
その彼が就職したのは韓国ではなく日本の企業でした。
その理由を取材すると、韓国社会の厳しい就活事情がありました。(国際部記者 金知英)
すべては大企業に就職するため
韓国は「名門大学に入って大企業に入ることが成功」と言われるほどの学歴社会。
高校に入ってからも遊びや友人づきあいなどは我慢し、勉強、勉強の毎日だったといいます。そして、念願の志望大学に合格。
男性が合格したのは、韓国で「SKY(スカイ)」と呼ばれるソウル、コリョ(高麗)、ヨンセ(延世)の3つの有名大学のひとつ、コリョ大学です。
それどころか、むしろ激しくなるばかり。男性は、大学院への進学を考えた時期もあったといいます。
大学1年生から始まる就職活動
男性がこう話す理由は、韓国の過酷とも言える就職活動事情があります。
韓国では、大企業に就職するためには「高学歴」をはじめとする「スペック」と呼ばれる実績が必要だといいます。
・英語力(TOEICなどで高スコアを持っているか)
・成績(大学での成績は優秀か)
・企業でのインターンシップ
・海外経験(留学などの経験があるか)
・学外での活動(企業の学生向けプログラムの参加経験など)
加えて男性は在学中、アフリカで子どもたちを支援するNGO活動、ソウル高等裁判所でのインターン、政党傘下の研究所での研究補助、日本の京都大学への留学といった「スペック」を必死に積み上げていきました。
高学歴、“ハイスペック”でも就職できない?
高学歴でハイスペックと言われる先輩や友人たちであっても、就職活動がうまくいかず苦しむ姿を数多く目の当たりにし、疑問を感じるようになったといいます。
専門家に話を聞くと、背景に「構造的な問題がある」と指摘。そこでデータを分析してみました。
韓国の2020年の現役の大学・短大への進学率は、72.5%(韓国教育省)。
たしかに韓国では大学への進学率が高い一方で大企業の数が限られているため、構造的な難しさがあるようにも思えます。
大企業515万ウォン(約49万円)中小企業 245万ウォン(約23万円)。※換算レートは3月10日時点(2019年・韓国統計庁)
また、こうしたこともあり、2020年の韓国における15歳から29歳の失業率は9%と、全体の失業率4%を大きく上回り、慢性的な就職難が社会問題となっているようです。(韓国統計庁)
追い打ちかける「常時採用」「即戦力」
「精神的にきついです。いつ就職活動が終わるのかわからず不安です」
こう話すのはソウルのチュンアン(中央)大学のユ・ヘヨンさん(25歳)です。
ユさんが不安に感じているのは「常時採用」を導入する企業が増えてきていることです。
ユさんは大企業に就職するために卒業を1年延ばし、マーケティングを代行する会社でインターンを経験したほか、TOEICのスコアで940点を獲得するなど「スペック」を積んできました。
それでも「常時採用」が広がれば、より「即戦力」人材が求められるようになるため、新卒には不利になると感じています。
増える日本で就職する韓国の大学生
韓国政府は就活生が海外で就職しやすいよう支援を進めていて、2013年に支援を受けて日本で就職した韓国の就活生は296人。
「常時採用」じゃないと生き残れない
心を病む若者も
日本や韓国の若者が抱える問題を引き続き取材していきたいと思います。
金知英
2014年入局
福岡局を経て
2019年から国際部
朝鮮半島情勢を取材