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ウクライナ侵攻で見直し迫られる脱炭素政策 奈良林直(東京工業大学特任教授)

2022-03-12 18:56:36 | 日記

 

  • ウクライナ侵攻で見直し迫られる脱炭素政策 奈良林直(東京工業大学特任教授)
2022.03.07 (月)印刷する

ウクライナ侵攻で見直し迫られる脱炭素政策 奈良林直(東京工業大学特任教授)

ロシアのウクライナ侵攻に伴い、脱炭素を主眼とする欧州のエネルギー政策が大幅な見直しを迫られている。

欧州連合(EU)の脱炭素政策を主導してきたドイツは、メルケル前首相により脱原発政策と太陽光や風力発電による再生可能エネルギー優先の政策を十年以上にわたり強力に推進してきた。

その一方、発電出力が低下した際にその谷を埋めるための火力発電の燃料を自前の石炭からロシアから供給される天然ガスに挿げ替えることで、CO2(二酸化炭素)の排出を減らそうとしてきた。

ドイツは水力発電を含む再エネの比率を40%超えるまで増やしたが、1kWh(1キロワット時)の電気を得るために火力発電所が排出するCO2は約500g(グラム)で大差ない。

石炭も天然ガスも燃料として使えばCO2を出すことでは50歩100歩の差しかない。

メルケル政権の脱炭素政策は、結局、欧州のロシア産天然ガスに強く依存する状況を作り出しただけであった。

温暖化より差し迫った核リスク

メルケル時代のドイツは、天然ガスの比率をさらに高めようと、ロシアからの天然ガスパイプライン「ノルドストリーム2」の増設に踏み切った。

これに対して米国は、トランプ前大統領時代に待ったをかけたが、バイデン大統領は再エネ政策推進に舵を切り、ノルドストリーム2の建設を再開させた。

あわせて米国内のシェールガス、シェールオイルや石炭の生産を減らしてしまった。

さすがにロシアのウクライナ侵攻でノルドストリーム2は現在、使用凍結状態にあるが、メルケル前首相が推進した脱原発と再エネ優先政策は、ロシアによる欧州のエネルギー支配を強めてしまった側面は否めない。

ロシアからの天然ガスや石油の輸入は2020年で、それぞれ欧州全体の39%と29%に達している。

昨年は欧州の風力が弱まり風力発電が減少した一方、天然ガスや石油の価格が産油国の協調減産を背景に上昇し、さらにロシアのウクライナ侵攻によって価格は高騰している。

未だ寒気につつまれたままの欧州が、ロシアからの天然ガスや石油の供給を減らす経済制裁を強めていけば、自国のエネルギー不足が深刻化する可能性がある。

欧州の経済制裁が「両刃の剣」と言われるのもこの点にある。

国際金融システムSWIFT(国際銀行間通信協会)からのロシア排除を試みても、中国のデジタル人民元などが抜け道になる可能性もある。

プーチン大統領はロシア批判を強める北大西洋条約機構(NATO)加盟諸国に対し核兵器使用をほのめかして恫喝している。1000年後の地球温暖化のリスクよりも、はるかに差し迫った脅威である。

「脱ロシア」には原発活用が鍵

ロシアの天然ガスや石油によるエネルギー支配力を弱めるには、安全性を高めた原子力発電の活用こそ、唯一の解決策ではないか。

我が国はロシアのエネルギー支配から比較的脱しやすい環境にある。

我が国の原発は、新規制基準を適用した設置許可変更に伴う安全審査中であっても、フィルターベントの設置や各種の電源、注水ポンプなどの配備が完了している。

防潮堤の補強工事は、すでに完了していて、更なる補強工事は、原発再稼働後でも、原子炉本体にはほとんど影響しないので、原発運転中であっても十分に安全性を確保して工事が可能である。

再エネ優先政策を進める政府は、再エネ賦課金として太陽光パネルに90兆円もの投資を決定した。

これが原発なら1基1兆円としても90基は建設できる。

既存の30基を再稼働すれば、計120基の原発が稼働する。

小型モジュール炉(SMR)など、次世代原子炉の開発・量産化に取り組めば、100万kW(1ギガワット)の原発は5000億円で建設できる。

そうすれば200基の原発により2050年には、電力のほぼ100%を賄うことが可能だ。

さらに再エネとともに電気分解で水素製造を行って、石油や天然ガス燃料を使わずに、国内エネルギーのCO2を排出しない電源に置き換えることができる。

国際エネルギー機関(IEA)のビロル事務局長は2021年9月、世界のカーボンニュートラルを達成するには、原子力発電の設備容量を2050年までに3倍にする必要があると語っている。

世界全体で計450基ある原発を3倍すれば1350基。

WNA(世界原子力協会)では2050年に脱炭素を原発で行うとすれば約2000基の原発が必要としている。

おそらくそのような数の原発の建設に向けて安全性向上対策、再処理施設の稼働、廃棄物処分場の決定などの技術政策も進める必要がある。

もちろん国民の理解が必要であるが、技術的には、最も実現性が高いのである。


ロシアのプーチン大統領はこの戦争に勝てまい

2022-03-12 18:41:22 | 日記

ロシアのプーチン大統領はこの戦争に勝てまい。

プーチン氏は2014年にウクライナ南部クリミア半島を併合できたという「成功体験」にとらわれ、ウクライナ全面侵攻という無謀な愚策に出た。

ロシア軍は予想外の反撃に遭い、米欧諸国はプーチン氏の想定を超える結束を見せて厳しい対露制裁を発動している。

ウクライナ支配を夢想したプーチン氏は、自らの狂信によってロシアを破綻に追いやりつつある。

クリミア併合はほぼ無血で行われた作戦だった。

プーチン氏は14年、大規模デモによってウクライナの親露派政権が倒れたことに憤激し、ロシア系住民が多数派のクリミア半島に軍特殊部隊を投入。

行政庁舎や空港、軍施設、テレビ塔などの中枢施設を占拠させた。

「首都キエフにファシスト政権ができた。

ロシア系住民には身の危険が迫っている」との偽情報拡散が大々的に行われ、ロシア系はこれを信じた。

人々は自警団も結成してロシア軍に協力し、地元出身者の多かったクリミアのウクライナ軍は早々に白旗を揚げた。

「今回のウクライナ全面侵攻でもプーチン氏はクリミアのような成功を夢見ていたのだろう」とウクライナの観測筋は指摘する。

プーチン氏は侵攻2日目の2月25日、国家安全保障会議で耳を疑わせるような情勢認識を示した。

いわく、

「基本的な衝突はウクライナ軍でなく、ナショナリストのグループと起きている」

「キエフには麻薬中毒者とネオナチが居座り、ウクライナ人全体を人質にとっている」と。

ウクライナ軍に「立ち上がって権力をとれ」とも呼びかけた。

最近のプーチン氏はロシア人とウクライナ人を「一つの民族」だとし、ウクライナをロシアの「歴史的領土」と表現。

ウクライナのゼレンスキー政権は「米欧の傀儡」であり、ロシア系住民にジェノサイド(集団殺害)を働く「ネオナチ」だと主張してきた。

プーチン氏の意識の中では、ウクライナ人や軍は親露的なはずであり、問題は米欧の傀儡(かいらい)たる「ネオナチ政権」だった。

「プーチン氏は、ロシア軍がウクライナ人から歓迎され、ゼレンスキー政権の転覆がごく短期間で終わると考えていただろう」と観測筋はみる。

ウクライナ人は独立国を持つまでに350年待ったと評される。

1991年のソ連崩壊で念願の独立を果たし、民主主義の独立国として約30年間を歩んだ。

ゆがんだロシア大国主義に取りつかれたプーチン氏は、ウクライナ人の誇りや愛国心をあまりに軽視していた。

ロシアは侵攻直前、ウクライナ国境付近に推定約19万人の兵力を張り付けていた。

大半がすでにウクライナに投入されたとみられている。

しかし、それでも日本の1・6倍の面積を持つウクライナ全土を支配するには全く足りない。

仮にキエフを陥落させたとしても、長期にわたるパルチザン戦争が続くだろう。

プーチン氏は侵攻前、米欧の制裁を歯牙にかけない姿勢を見せていたが、国際的な決済ネットワーク「国際銀行間通信協会(SWIFT)」からの露主要行排除など、米欧の結束と制裁の内容は想定以上だった。

露経済は急速に悪化し、ロシア将兵の棺がこれから続々と帰還する。

ウクライナの戦場だけでなく、ロシア国内の動向も今後を左右する大きな要因である。

(外信部次長兼論説委員)