韓国、金融引き締めをしてるのに「ウォン安」が止まらない…その「意外な理由」
9/15(木) 7:32配信
9ヵ月で16.8%のウォン安
日本では円安が続き、9月上旬には24年振りの円安水準となる1ドル140円台前半にまで円安が進んだ。
この要因としては、インフレの進行によりアメリカのFRBが政策金利を継続して引き上げるなか、日本銀行は頑なに金融緩和を続けていることがあげられる。
日米金差が拡大し、アメリカで資産運用したほうが有利になっているため、円を売ってドルを買う動きが続いているわけである。
このように日本では円安が進行しているが、お隣の国の韓国でもドルに対してウォン安が進行している。
ウォンは今年の年初からじわじわと価値を低めていった。
1月3日には1ドル1186ウォンであったが、9月8日には1385ウォンになり、この間に16.9%ウォン安が進んだ。
1ドル1400ウォンに迫る水準のウォン安は、通貨危機時とリーマンショック後のグローバル金融危機時のウォン安に次ぐウォン安の水準である。
韓国は通貨危機の真っただ中である1997年12月24日、1ドル1965ウォンにまで下がったが、これが最もウォン安が進んだ水準である。
そして、グローバル金融危機後の2009年3月3日にも1ドル1574ウォンにまでウォンの価値が下がった。
しかし、この2回の超ウォン安は金融危機といったいわゆる経済上の有事が引き起こしたものであり別格である。
一方、現在は世界的なインフレ傾向といった問題はあるものの経済上の有事とまではいえない。
平時においてもウォン安が進むことはある。韓国で完全な変動為替相場制になったのは、1997年12月であるが、それ以降のウォン・ドルレートをみると、有事を除けば大部分の時期は、1ドル1000ウォンから1200ウォンの範囲で変動してきた。
よって1ドル1300ウォンを突破すればかなりのウォン安といえるが、平時において1ドル1300ウォンを超えるウォン安が続いた時期は2回ある。
1回は今回であるが、もう1回は2001年3月から2002年4月の時期である。
2001年3月から2002年4月は1ドル1300ウォンを挟んでウォン・ドルレートが推移したが、その要因として韓国銀行は、韓国における構造調整が遅れたことに対し外国人が韓国の株式を大規模に純売却した点、日本円が対ドルで安くなったことによりウォンも同調して安くなった点などをあげている。
なぜ対ドルで円安になるとウォン安も進むかというと、日韓の輸出構造は似ており、円安が進むと日本の輸出が有利となり韓国経済が悪影響を受けることを見越してウォンが売られ、ウォン安も進むということである。
なぜいまウォン安が止まらないのか
2001年3月から2002年4月におけるウォン安時において、もっとも円安が進んだ日は2001年4月6日の1ドル1352ウォンであったが、今回は2022年9月5日にこの水準を上回るウォン安となり、平時において最もウォン安が進むこととなった。
このように今回のウォン安は平時では最も進んだものとなっているが、この要因のひとつとしてはアメリカの政策金利引き上げがあげられる。
韓国は日本と異なり、金融緩和政策を転換して金融引き締めに転じた。
具体的には、韓国銀行は2021年8月にはこれまで0.5%であった政策金利を0.75%に引き上げ、その後、6回にわたり引き上げを行い、2022年8月には政策金利は2.50%にまで引き上げられた。
この政策金利の引き上げ幅は、アメリカの政策金利の引き上げ幅とほとんど同じであるが、韓国ではそろそろ打ち止め感があるなか、アメリカはまだ政策金利を上げ続けると市場関係者がみていると考えられ、これがウォン安の原因となっているようである。
さらに、2001年3月から2002年4月にウォン安が進んだ際に要因の一つとなった円安との同調が今回も要因の一つとなっていると考えられる。
冒頭に書いたように、日本は金融緩和を継続しており、円安が進んでいる。
この状況が続くと、韓国の輸出は不利となり輸出の減少を通じて韓国経済が悪影響を受ける可能性が高い。これを市場が見越して、ウォン売りを進め、結果としてウォン安も進んでいると思われる。
韓国経済への影響は…?
平時で最も進んだウォン安は韓国経済にどのような影響を与えるのだろうか。まず輸出企業にはプラスの影響がある。特に韓国の基幹産業である半導体産業は利益の拡大が見込める。
半導体価格は国際市場においてドル建てで価格が決まる。
よってウォン安となれば、同じ金額のドルを手にしてもウォンに換えたときにウォンの手取りが大きくなる。
よって、半導体産業は、大きく利益が増加する。
また、円安に同調してウォン安も進むことで他の輸出産業も競争力をそれほど失わなくてすむ。
しかし経済にとってマイナスの影響も大きい。韓国は輸入比率が高く、ウォン安は物価上昇をもたらす。2022年8月の消費者物価指数上昇率は前年同月比で5.7%上昇にまで高まっており、韓国でもインフレが進んでいる。
この要因の一つは原油価格の高騰であるが、ウォン安により輸入物価が上昇したことにより、石油製品の価格も含め製品の価格が幅広く上昇している。
物価の上昇は実質賃金の低下をもたらし、個人消費の低迷を引き起こす可能性もある。
ウォン安は韓国経済にプラスとマイナスの影響を与えるが、現在のようにウォン安が進んだ状況においては、一部の産業が恩恵を被るプラス面より、多くの国民が被るマイナス面の方の影響が深刻であろう。
現状ではウォン安が反転する材料が見つからず、今後もウォン安が進んでいくことが予測される。韓国経済の苦悩はいましばらく続くことになろう。
高安 雄一(大東文化大学教授)