顔むくみ咳き込む習近平主席の〝健康不安〟演説中に不自然な沈黙、中央宣伝部が映像NG 党大会に影響及ぼすほど経済悪化か
2022.10/22 10:00峯村健司
第20回中国共産党大会を世界が注視している。
「異例の3期目」を確実にした習近平総書記(国家主席)は、施政方針となる党中央委員会活動報告(政治報告)で、「中華民族発展史に輝く歴史的勝利」を収めたと自画自賛し、台湾問題について「祖国の完全統一は、必ず実現する」「決して武力行使の放棄を約束しない」などと強硬姿勢を見せた。
閉幕後の23日、最高指導部を構成する新たな政治局常務委員「チャイナ・セブン」を選出、新指導部が発足する。
こうしたなか、「習政権の異変」に気付いた識者がいる。
キヤノングローバル戦略研究所主任研究員で、青山学院大学客員教授の峯村健司氏は「習氏が抱える健康リスク」を見抜き、「中国経済の悪化」に迫った。
習主席(新華社=共同)
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5年前の高揚感も意外性もなかった。
共産党大会の開幕式があった16日、習氏が政治報告(党中央委員会活動報告)を読み上げた。
3時間を超えて「マラソン演説」と言われた2017年大会と比べて、半分ほどの1時間45分。
「世界の舞台の中心に立つときが来た」とぶち上げた前回と異なり、目新しい内容はほとんどなかった。
「習氏、『台湾』強硬論」「習近平氏、世界分断にらみ『強国』急ぐ」などの見出しが日本メディアでは踊ったが、これまでの政策や演説を踏襲したに過ぎなかった。
むしろ私が衝撃的だったのが、演説中の習氏に気づいた「異変」だ。
途中何度も咳(せき)払いをして、飲み物をすする音が聞こえたが、生中継の映像では確認できなかった。
会場で取材をしていた中国メディア関係者が、当時の様子を振り返る。
「事前に中央宣伝部から、『習主席が演説中、水を飲むシーンは映すな』という内部指示が出ていました。
演説中、言葉に詰まったことによる不自然な沈黙が2度確認できました。
いつもよりも顔が少し浮腫(むく)んでいるようにも見えました」
内部指示が事前に出ていたということは、当局は事前に習氏の健康上の何らかの異変を把握していたことを裏付けている。
69歳の習氏が何らかの持病を抱えていても不思議ではない。
3期目の政権運営における新たなリスクの一つになってくる。これまでの党の慣例を破って、後継候補を置いていないのでなおさらだ。
さらに驚いたのが、翌17日夜にあった中国政府の発表だ。
18日に予定されていた22年7~9月期の第三四半期の国内総生産(GDP)の発表を延期したのだ。
重要統計が急遽(きゅうきょ)延期されるのは極めて異例で、理由は明かされていない。
実はもともと、党大会は11月上旬の開催で調整していた。ところが突然、10月16日に前倒しすることになった。
その事情について、経済政策に携わる中国政府当局者は解説する。
「第三四半期の数値が想定以上に悪くなる可能性が高まったため、発表前に党大会を開いてしっかりとした経済政策を打ち出すことで、市場や国民の動揺を最小限に抑える狙いがありました」
その算段が崩れたということは、実際の指標がさらに悪化している可能性が出てきた。
党大会の運営に影響を及ぼすほど経済状況が深刻になっているのだろう。
中国はこれまで驚異的な経済成長を実現してきたが、すでに減少傾向に入りつつあることを示す兆候といえよう。
習氏は、反腐敗キャンペーンを展開して政敵を倒し、2期10年で「一強体制」を築き上げた。
だが、習氏が病気などによって執政できなくなれば、一気に混乱に陥るリスクをはらんでいるのだ。
数年後今大会を振り返り、中国共産党と習氏の今後の「ピークアウト」の始まりだったと定義づけられるかもしれない。
■峯村健司(みねむら・けんじ) キヤノングローバル戦略研究所主任研究員、青山学院大学客員教授、北海道大学公共政策学研究センター上席研究員。1974年、長野県生まれ。朝日新聞社の北京・ワシントン特派員を計9年間。ハーバード大学フェアバンクセンター中国研究所客員研究員などを歴任。「LINE個人情報管理問題のスクープ」で2021年度新聞協会賞受賞。中国軍の空母建造計画のスクープで「ボーン・上田国際記者記念賞」受賞。22年4月退社。著書に『十三億分の一の男 中国皇帝を巡る人類最大の権力闘争』(小学館)、『ウクライナ戦争と米中対立 帝国主義に逆襲される世界』(幻冬舎新書)など。