中国「習近平」政権“瓦解”のサイン 権力基盤の脆さを露呈した「胡錦涛」途中退場の真相
10/30(日) 11:03配信
驕る者は久しからず(習近平総書記)
10月22日の中国共産党大会閉幕式で起きた胡錦涛・前総書記の“強制退場劇”――。
その真相をめぐって様々な憶測が飛び交うなか、改めて映像を注意深く見てみると、いくつかの「新事実」に気付く。
それは異例の3期目へと突入した習近平政権の権力が薄氷の上に立つことを物語っていた。
注目を集めているのがシンガポールのチャンネル・ニュース・アジアが撮影した3分弱の中継映像だ。
そこには以下のような場面が映し出されている。
習近平総書記の隣に座る胡錦涛氏が目の前の机に置かれた書類を見ようとすると、左隣の栗戦書・全人代常務委員長が手を伸ばして書類を自分のもとに引き寄せる。
まるで胡氏の目に触れないようにしたかに見えるが、この間、栗氏はずっと胡氏に何かを囁いていた。
しかし胡氏は状況が理解できないのか、怪訝な表情を浮かべたままだ。
「その後、習総書記の護衛官とおぼしき男性が胡氏のもとに歩み寄って退席を促します。しかし胡氏がなかなか動こうとしないので、党中央委員会総局の副局長も駆け寄り、腕を取られる形で胡氏はようやく立ち上がりました」(全国紙外信部デスク)
退席する際、胡氏は習氏に何かを語りかけ、その隣に座る李克強首相の肩にソッと手を置いて、会場をあとにした――。
苛立つ表情を見せる習総書記
中国共産党ナンバー2の要職にある李首相だが、今回の党大会で最高指導部から退くことが固まっている。
「かつて胡氏の“意中の後継候補”と見られていた李氏ですが、習氏との後継争いに敗れ、来春には完全引退する見通しです。
胡氏の手元にあった書類は赤い表紙のもので、中国では重要書類によく用いられることから、新指導部の人事が記載された書類だったとの情報がある。
そのため自分に近い李氏が引退することを事前に知らされていなかった胡氏が、新指導部メンバーを確認して“混乱”が起こるのを防ぐため、なかば無理やり退席させたという憶測が流れています」(同)
一方で、映像をよく見ると意外な事実に気付くと話すのは、中国事情に詳しいシグマ・キャピタル代表取締役兼チーフエコノミストの田代秀敏氏である。
「私が注目したのは、胡氏の退席までの間、習総書記が終始、苛ついたような表情を見せていたことです。
それはまるで、議事が予定通りに進行しないことに苛立っているように映ります。
また胡氏の書類を取り上げたように見える栗氏の表情にも慌てたような狼狽の色が浮かんでいる。
さらには退場したあとも胡氏の名札と茶碗はそのままにされ、閉幕式が終わるまで習氏の向かって右隣は空席のままという異様な光景が映し出されていた。
これらが意味するところは、胡氏の退席はあらかじめ計画されたものでなく、突発的なアクシデントだった可能性が高いということです」
習近平と胡錦涛「本当の関係」
中国メディアは今回の件を「体調不良が原因」としているが、胡氏に健康不安説が浮上していたのは事実という。
「昨年7月に北京の天安門広場で行われた共産党結党100周年記念式典に胡氏も出席しましたが、付き添いを必要とし、手が激しく震える場面なども目撃されています。
パーキンソン病やアルツハイマーを疑う声は以前からありました」(前出・外信部デスク)
ただし“たとえ病気だったとしても、前総書記にあんな仕打ちをするはずはない”といった声も根強い。
「胡錦涛氏までの総書記はすべて鄧小平が指名することで正統性が担保されてきましたが、習総書記は各勢力の“妥協点”として総書記に選ばれた経緯があります。
そんな習氏にとって胡氏はあくまで前任の最高指導者に過ぎず、自分を引き上げてくれた恩人でも、無条件の忠誠を誓った相手でもありません。
党大会という5年に一度の最も重要な会議で議事進行の妨げとなるなら“丁重にお引き取りを願う”のも厭わない――そんな関係性にあります」(田代氏)
田代氏が続ける。
「一部で“胡氏を見せしめとして退席させた”との説が流布していますが、自分の権威を誇示するのが目的なら、最初から胡氏を党大会の雛壇に座らせないほうがインパクトがありました。
今回の退席ハプニングで、3期目の門出を祝うはずだった大会に“傷”が付いた格好になり、習総書記ら新指導部にとっては“大失態”だったと考えるほうが自然です」
ライバルが公然と“反旗”のポーズ
実は田代氏が胡氏の退席よりも驚いたのは、映像の最後に映る「次の首相候補」との呼び声が高かった胡春華・副首相の姿だったという。
「胡春華氏は16歳で北京大学に入学し、20歳で総代として卒業した“超”の付く秀才。
胡錦涛氏や李克強氏と同じく、党のエリート養成機関・共産主義青年団のトップを務め、すこし前まで“次の総書記の大本命”と目された人物です。
その彼が今回、ヒラの中央委員に降格されてしまった。
どのメディアも指摘していませんが、胡氏が会場をあとにする間際に映る胡春華氏は口を真一文字に結び、憮然とした表情で腕組みしています。
党の最も重要な行事である党大会の雛壇でこんな態度を示すのは前代未聞。
無言の“抗議のポーズ”ではないかと受け止められています」(田代氏)
ライバルが公然と“反旗を翻す”様子が世界に流れ、「波乱の船出」の印象を強める結果となった今回の党大会。
つねに権力闘争を繰り返してきた中国共産党の歴史において「絶対安定」が実現したことはなく、退席騒動もまた、習近平の前途が多難に満ちたものであることを示唆している。
デイリー新潮編集部
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