中国経済が米国を抜けない理由は「人材」
2022/12/12 06:00
教えて石平先生
12月3日、ゼロコロナ政策が緩和され営業を再開した北京の店舗で買い物をする市民ら(AP)
読者からの声をもとに、評論家の石平さんに中国に関する質問をぶつけます。
ゼロコロナ政策への抗議活動「白紙革命」が全土に広がった背景には低迷する経済状況への不満もあったようです。
今回は中国経済に改めて焦点を当てました。
--1989年の天安門事件の際には、激しいインフレなどで庶民に不満が高まっていました。
現在の中国経済の状況をどう分析しますか
いま中国経済は、鄧小平による改革開放の高度成長期が完全に終息し、沈没している最中にあります。
経済成長のネックは個人消費が伸びていないことです。
GDP(国内総生産)に占める個人消費の割合は日本が50%台、米国は60%台後半で推移していますが、中国は昨年38%です。
消費不足の大きな原因は貧富の格差です。
スイスの金融機関は、中国の上位1%の富裕層が国内資産の3割超を保有していると指摘しています。
そういう人たちは国内ではなく海外で消費します。
中国経済の6割は消費以外のところでつくり出さなければならない。
一つが輸出です。
去年まで輸出は毎年数十%の伸び率を誇り、成長を支えてきました。
しかし安い労働力の確保が難しくなり価格競争力がなくなってきた。
ベトナムやインドなどが「世界の工場」の地位を奪っています。
中国税関総署の発表によると、今年11月の中国の輸出総額は前年同月比8・7%減でマイナス成長となりました。
1~9月の輸出総額の伸び率は12・5%ですが、昨年同期は33・0%でした。今年通年の伸び率はおそらく10%以下で、去年の3分の1程度でしょう。
もうひとつ中国経済を引っ張ってきたのは固定資産投資。
中でも一番大きかったのは不動産投資です。
2020年の不動産投資総額は約14兆元で、当時のレートでは約250兆円。日本のGDPの4割ほどに相当し、中国では約14%を占めます。
しかも不動産投資は波及効果も大きく、中国経済の3割ぐらいをつくりだしている。
しかし毎年莫大(ばくだい)な不動産投資をやった結果、不動産自体が過剰という状態になりました。当然、市場の原理によって売れなくなり、投資も減ります。
中国経済は不動産市場が崩壊し、輸出もだめになり、消費は一向に伸びないというのが現状です。
--輸出が伸びないのは外需低迷も大きそうです。消費不振はゼロコロナ政策も影響しているのでは
もちろん経済全体にゼロコロナ政策が悪影響を与えています。
今年上半期に中国全土で企業46万社が倒産しました。同時期の日本の企業倒産は3060件です。
倒産が広がると失業が拡大し、当然消費も落ちます。経済はいったん悪循環に入ると、なかなか立ち直れません。
中国政府は今年の経済成長目標を5・5%前後としましたが、世界銀行は9月、今年の中国の実質GDP成長率を2・8%と予測しました。
中国当局の経済統計の信頼性を考えると、実際はゼロ成長かマイナス成長ではないでしょうか。
--低成長は政治的な問題を引き起こすのでは
胡錦濤前政権時代には「保八」というスローガンがありました。
8%の成長率を死守するという意味ですが、これは莫大な人口がいる中で雇用を確保するためです。失業拡大は社会不安につながります。
いつの間にか8%という数字が消えて、今は2%を確保できるかわからない状況です。
今後は失業問題が一番深刻な課題になるでしょう。
--低成長になると、中国の軍事費にも影響を与えるでしょうか
習近平政権になってから着々と対台湾戦争を準備している面もあり、経済がいくら落ち込んでも軍備費は伸ばしていくでしょう。
おそらく習政権は今、経済低迷への二つの対策を用意しています。
一つは「共同富裕」のスローガンの下、富裕層から富を奪い取り、裾野が広い貧困層を救済する。
ただ、これは限界があります。
経済を支えているのは富裕層です。
富裕層が搾取されたら生産や投資、消費に影響が出ます。共同富裕はある意味で、卵を産むニワトリを殺すようなものです。
すべての問題を一気に解決するには、戦時体制にもっていくしかありません。
国民のすべての不満を対外戦争に転嫁させ、台湾解放と祖国統一の旗印を掲げて国民の求心力を高める。このため軍備の拡大は絶対緩めないでしょう。
--製造業が復活し、中国経済が再び力強く成長していく可能性は
製造業には伝統的なものと先端技術のものがあり、前者は東南アジアなどに奪われています。後者も中国は厳しい。
これまではあらゆる方法で米国などから技術を盗んでいましたが、今後はほぼ通じなくなる。
現在は米国を中心に、先端技術に関しては中国を完全に封じ込め、技術は絶対に渡さないという姿勢です。
中国が自力で開発することも難しい。
中国は、国家の力を集中する宇宙産業などの分野では力を発揮します
。一方、半導体などはいろんな企業がデリケートなところで緊密に協力し、国際的分業体制でやっていくものです。
しかし習政権の10年間で欧米世界との関係は難しくなっています。
中国の製造業が強くならないもう一つの理由は人材です。
中国の先端技術分野のエリートたちは多くが米国への移住を考えている。
ゼロコロナ政策に対する反対運動からもわかりますが、若者たちはエリートであるほど中国から逃げ出そうとしています。
私は最初から、中国の経済が米国を抜くという「神話」を信じていません。
理由は人材です。これからの時代、GDPは人材でつくりだすのです。
近代世界史をみれば、独裁体制は経済成長がある程度まできたら頭打ちになっている。結局、創造力が発揮されないからです。
中国で成功した企業家たちの子供は一番いい教育を受けて素晴らしい人材になりますが、多くが中国を離れる。
自由世界ではない中国に希望を持てないからです。
(聞き手 西見由章)