なぜロシアはアメリカに強くものを言えるのか?
ヨーロッパには、EU、イギリスのほかにもう一つ世界経済に大きな影響を持つ大国がある。
ロシアである。
かつて東西冷戦のときには、ロシアはソビエト連邦として東側社会主義陣営の盟主だった。が、1990年前後に東ヨーロッパの社会主義国家群は次々に崩壊していった。盟主だったソビエト連邦も、連邦内の国々が次々と離れていき崩壊した。
そのソビエト連邦の国土の大部分を引き継いだのが現在のロシア連邦である。
ロシアは、欧米主要国や日本よりはかなり経済規模が小さく、GDPでは現在世界第11位である。GDPで言えば韓国よりも低いのだ。
だから経済規模だけで見るならば、ロシアはそれほどの大国ではないといえる。
しかし、ロシアは現在も、世界の政治経済に大きな影響を与え続けている。国際問題などでもたびたびアメリカと衝突しており、アメリカに対抗できる数少ない国となっている。
なぜロシアは、経済規模は小さいのにアメリカに対抗できるのか?
それはロシアの軍事力が大きく関係していると言える。東西冷戦中、ソ連は、西側諸国に引けを取らない軍事力を保持しており、ロシアはそのソ連の軍事力を引き継いでいる。アメリカと互角の核兵器保有国でもある。
が、その軍事力を維持するためには、それなりの経済力がなければならない。
GDP世界第11位の国が、どうやってその強大な軍事力を維持しているのだろうか?
その最大の要因は、「資源」である。
ロシアは、世界有数の資源大国である。
石油、天然ガス、石炭などのエネルギー資源、鉄鉱石・金・銅・ニッケル・水銀・アルミニウム等の鉱物資源など、産業に必要な資源のほとんどが産出されるといってもいいほどである。
冷戦中もソ連は石油産出量で、たびたびサウジアラビアを抜いて世界一となっていたが、現在のロシアも世界第2位の産出量を誇っている。天然ガスも世界第2位である。
またロシアというと、極寒の地というイメージがあるが、肥沃な土地を持つ農業の国でもある。特に小麦の生産量は世界第3位であり、自国民の消費を十分に賄える。それどころか輸出量も世界一なのだ。
魚介類などの水産資源も豊富で、森林が国土の半分を占めるため、木材資源も事欠かない。
このロシア経済の強みは、アメリカ経済の強みと似ている。
アメリカは、ヨーロッパの文明を持ちながら、潤沢な資源、肥沃な国土を持っていることが大きな強みだった。
アメリカが19世紀から20世紀にかけて急成長し、世界経済の王者に君臨できたのも、これが大きい。
ほかのヨーロッパ諸国は、文明は進んでいたが、資源が乏しかったり、農地が狭かったりなどの弱みがあった。ヨーロッパ諸国が交易のために世界中に乗り出したのも、この弱みによるものだった。
特に石油が重要となった20世紀になるとそれが顕著だった。ヨーロッパでは石油がほとんど出ないために、石油を求めて世界各地に乗り出し、それが戦争の大きな要因ともなった。
そして、アメリカが二度の世界大戦の勝者になることができたのも、世界最大の石油産出国であることが大きな要因だったといえる。
ロシアも、このアメリカと同様の強みを持っているのだ。
東西冷戦が起きた要因の一つも「ソ連が資源大国だった」ということがある。
第二次世界大戦直後のヨーロッパ諸国は、国土が荒廃し、産業は極度に停滞していた。それはソ連も同様だった。
だからアメリカは、ヨーロッパ諸国に対して経済封鎖をしやすい状況にあったのである。つまり、アメリカが「経済援助や貿易をしない」と言えば、多くのヨーロッパ諸国は窮地に陥る。だから、どこもアメリカのいう事を聞かざるを得なかった。
しかし、ソ連だけはギリギリ、アメリカにノーを言うことができた。
ソ連の産業も相当に破壊されており、アメリカの支援は欲しかったし、アメリカとの経済交流がなくなれば大きなダメージを受ける。
だが、アメリカとの交易が途絶えれば、干上がるというほどではなかった。
ソ連は膨大な資源と広大な農地を持っている国だからだ。
そして東欧諸国はソ連からエネルギーや資源の供給を受け、ソ連は東欧の農産物を得ることで、共産主義圏内で、自給自足が可能だったのである。
つまり、ソ連を中心とする東欧諸国は、アメリカの経済制裁を受けてもやっていけたから、東西冷戦が可能となったのである。
このソ連時代の強みをロシアは今でも持ち続けているといえる。
ロシアは、アメリカから経済制裁を受けてもやっていける数少ない国なのである。もちろん経済制裁を受ければ、ダメージは受ける。
しかし、日本をはじめとする世界の大半の国のように、アメリカから制裁を受ければたちまち国民生活に支障をきたすというほどではないのだ。
だからロシアは、アメリカに強くものを言うことができるのである。