韓国で仮想通貨が“暴落”…地獄を見た若者たちの「悲惨すぎる現実」
4/29(木) 8:01配信
不動産投資は若者に不人気
かつて韓国で「投資」といえば、その対象は不動産が主流だった。
株式やFX(外国為替証拠金取引)などよりも確実に資産を増やせるという考えは、国民共通の認識であった。
しかし、最近はその風潮にも変化が生じ、特に若者世代の間では仮想通貨がブームとなっている。
ブログやYouTube上では短期間で膨大な利益を得た人らがその手法を公開し、それを見た若者たちが「自分にもできるのでは?」と考え、知識も無しに始めて大失敗するケースも少なくない。
それは何も仮想通貨に限ったことではないが、実際に、仮想通貨取引所を運営する企業に「1万KRWとは何ウォンなのか?」と問い合せをする人もいるという。
“KRW”とは韓国の通貨単位のことだから、“1万KRW”は“1万ウォン”だ。
それすら知らずに、仮想通貨を始める若者もいると聞くから驚きだ。
今年に入って新しく仮想通貨投資の世界に足を踏み入れたうちの60%が、“2030世代(20代と30代)”といわれる若者世代であった。
主要4大取引所で、第一四半期に新規加入した人の数は計250万で、その内訳は20代が32.7%と最も多く、続いて30代が30.8%だ。
確実な利益は見込めるが…
何も不動産投資が儲からないというわけではない。
たしかに仮想通貨は確かに右肩上がりではあるが、乱高下が激しい。
一方で不動産投資は確実なリターンが見込める。
分譲時に新築物件を購入、入居が始まり物件の価値が上昇してから売りに出す。
ソウル市内であれば、転売を繰り返せば数千万円、数億円の利益を得られることも多い。
筆者の知り合いも、2013年に分譲が開始され、3.3m2 あたり平均約160万円の値がついたソウル駅前にあるタワマン「徳寿宮(ドクスグン)ロッテキャッスル」を購入していたが、入居開始のすぐ後から数千万円の儲けが出たと話していた。
徳寿宮ロッテキャッスルは2016年8月31日に入居が開始。
実際に公開されているデータを見ると、2016年11月15日には42m2 (このアパートでは一番の小規模物件)の売買相場は約3,200万円となっている。
分譲時は約2,000万円程度であるから、単純に計算しても約1,000万円の儲けだ。
ちなみに、直近の売買相場は、2021年3月のもので約5,800万円と発表されている。日本では考えられない価格の上がり幅だろう。
不動産投資で儲けを出した人は、その資金を元手に新たに物件を購入し、さらに儲けを生み出す。
韓国では銀行で借り入れを行っても元本返済を猶予してもらい、当座は利息だけを支払う方式が許されている。
そのため、今までは若い世代でも不動産投資に比較的手を出しやすかった。
ちなみに、このやり方を選ぶ家計は約7割にのぼるといわれている。
しかし、近年は不況にも関わらず物価は上昇。
そして、若者世代の就職難が問題となり、不動産投資どころか自身が居住する家ですら購入が難しくなってきた。
そこに追い打ちをかけるように、文在寅(ムン・ジェイン)政権下で「韓国土地住宅公社(LH)問題」や「文大統領の身内による不動産投資問題」、「文大統領が購入した農地を宅地に転用した問題」など、不動産にまつわる不正疑惑が浮上。
若者世代は既得権益と権力の欲深さを象徴する不動産投資ではなく、それとは対極のイメージがある仮想通貨に狙いを定めたということもあるだろう。
たった1日で、190万円も失った…
仮想通貨ブームが高まり、韓国国内で取引される仮想通貨価格が海外を大きく上回る
「キムチプレミアム(ビットコインを含む仮想通貨の相場が、特に韓国で高く設定されていること)」現象が続いている。
YouTubeを見ると「口座公開! 3ヶ月で1,500万→1億8,000万円にした医者をご紹介」、「仮想通貨で10億円稼いだ人物が教える『人間の欲と爆弾の落とし方』」、「超簡単! 年率46%自動収益の作り方」など、一攫千金を夢見る人が食いつきそうなタイトルが並んでいる。
テレビでも「40億円を稼いだから退職した」、「たった15万円の投資で1,000万円以上も稼いだから本業に対する意欲がなくなった」など仮想通貨の成功例が紹介されている。
こうしたポジティブな面ばかりを見て、仮想通貨に手を出す若者が続出しているのだ。
製造業大手勤務の30代男性は、大金を稼いだという成功談を周辺でしばしば聞くと言う。
仲の良い先輩社員の中には1億円以上を稼いだ人もいるというのだ。
その先輩は安定した収入確保のために仕事を辞めずにいるそうだが、
一方で別の20代男性は5,000万円を稼ぎ、その金でポルシェを購入。
豪遊生活をYouTubeで公開しているという。
もちろん、仮想通貨投資の成功譚の陰には、損失を被った人たちもいる。
とある20代の男性は、初めて290万円から仮想通貨への投資をスタートした。
しかし今月7日、韓国政府による規制発表のなどが原因となって価格が暴落。
大きな損失を出し、今は元手の290万円を取り戻すのに必死だという。
また、別の男性は高校卒業後から工場で必死に働き、8年間かけてやっとの思いで960万円を貯蓄することができた。
その資金を元手に、仮想通貨投資を始めたところ、なんと一時は収益率30%に至るほどの儲けを出すことができた。
だがその後事態は急転、相場が下落し1日で190万円の損失を出したという。
この2名のように、仮想通貨への参入が遅く、かつ損失を出した初心者のことを“コリニ”と呼ぶ。
“コリニ”とは、“コイン(仮想通貨)”と“オリニ(子ども)”を組み合わせた造語だ。
韓国の仮想通貨市場では、数百%の利益を出しても数日で急落する“ジェットコースター相場”が連日繰り返されており、韓国政府もたまらず仮想通貨投資に対し警告を発している。
4月16日には具潤哲(グ・ユンチョル)国務調整室長が「仮想通貨の価値は誰も担保できない。
仮想通貨取引は投資というより投機性が高い取引であり、自己責任のもと、慎重に判断して欲しい」と呼びかけた。
22日には、殷成洙(ウン・ソンス)金融委員長が仮想通貨について「認められない」として、仮にトラブルが起こっても政府の保護の対象にはならないという考えを示した。
他の投資については投資家保護を多角的に検討しているというから、政府が仮想通貨にナーバスになっていることは明らかだ。
韓国では日本と違って仮想通貨への規制の仕組みがなく、「(仮想通貨は)認められない貨幣であり、仮想資産なので(制度に)入ってこないでほしいというのが率直な心情」と殷成洙金融委員長はいみじくも述べている。
当の殷成洙金融委員長によると、韓国の仮想通貨取引所を9月に全て閉鎖させる可能性もあるのだという。
国内には約200もの仮想通貨取引所があり、1日の取引規模は3兆円に迫る。
しかし、3月25日に施行された「仮想通貨特定金融情報法」は今年8月いっぱいまでにと時間を区切って取引所に厳しい情報管理を求めており、生き残れるのは200の取引所のうち4大取引所(Bithumb、Coinone、Korbit、Upbit)のみではないかという見方も専門家から出ている。
4月に行われたソウル・釜山市長補欠選挙では2030世代からそっぽを向かれ、文在寅大統領率いる与党は惨敗した。
2030世代の支持率が低迷する中、文在寅政権はこの世代が影響を受けそうな仮想通貨政策に乗り出そうとしている。
2030世代の大統領への支持率がさらに低下することは、言うまでもないだろう。
羽田 真代(ライター)