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マイナ保険証と口座ひも付けを強制 一元化で強まる国民監視と個人情報の恣意的活用
マイナンバー義務化は何を狙うか?
マイナ保険証と口座ひも付けを強制 一元化で強まる国民監視と個人情報の恣意的活用
政治経済2023年5月8日
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衆院本会議が4月27日、マイナンバーカードの利活用拡大を図る改定マイナンバー法案(改定マイナ法案)を賛成多数で可決した。
これまで自民党政府は全国民へ勝手に12ケタの番号をつけ、マイナカード取得者だけ金を配る「マイナポイント事業」やマイナカード普及の遅い自治体の交付金をゼロにする「デジタル交付金創設」などアメとムチを駆使してマイナカード普及を煽ってきた。
改定法案は「紙の健康保険証」を廃止してマイナ保険証を持たない人を医者にかかれなくしたうえ、年金生活者を手始めに「公金口座との紐付け」を強制していく内容だ。
そしてマイナカードと個人情報の紐付け範囲を、法改定もなく拡大可能にする規定まで盛り込んでいる。
今後は参院での審議が本格化するが、一体何をしようとしているのか、歴史的経緯もふまえて見てみた。
マイナンバーカード取得を呼びかける松本総務相
衆院を通過した改定法案の内容は複雑でわかりにくいが、中心的な中身は次の3点である。
①マイナカードと健康保険証の一体化…「紙の健康保険証」を廃止(2024年秋の実施を想定)。マイナカードを持っていない人は期間限定で「資格確認書」(有効期限1年)を配る。
②公金受取口座の登録促進…既存の給付受給者等(年金受給者を想定)に書留郵便等で一定事項を通知したうえで同意を得た場合または一定期間内に回答がない場合、内閣総理大臣はその口座を公金受取口座(公金受取口座は給付のみに利用)として登録可能にする。
③マイナンバーの利用及び情報連携に係る規定の見直し…法律で認めた事務に「準ずる事務」もマイナンバー利用を可能にする。法律で認めた事務との情報連携を「主務省令」で拡大可能にする。
このうち「マイナカードと保険証の一体化」は「紙の保険証を廃止してマイナ保険証以外は医者にかかれないようにすれば、全国民にマイナ保険証を持たせることができる」というものだ。
こうした内容に批判が噴出したため「期間限定で無償の“資格確認書”を提供」としたが、1年ごとに更新手続きが必要で、いずれ手数料をとることも示唆する内容である。
だが「マイナカードと健康保険証の一体化」はマイナカードをあらゆる病歴、生体情報、血縁情報を紐付ける土台になる。
そのため身分証明書や行政手続きの利便性からマイナカードを所持した人でも、マイナ保険証との紐付けを拒む人は多い。
総務省はマイナカード申請数が「全国民の七割をこえた!」と大宣伝するが、マイナ保険証の登録件数はいまだに約5890万人(今年4月23日現在)で登録率は46・8%。全人口の過半数がマイナ保険証に登録していない。
マイナ保険証を扱う病院側の受入れ体制(オンライン資格)も整っていない。
病院や薬局では「マイナ保険証」専用のカードリーダーを設置し、それを扱える人材の育成などシステム構築が必要だ。
しかし通常業務に追われ、対応できない病院は少なくない。
このなかで開業医や歯科医師などが参加する全国の保険医協会が「紙の保険証」廃止撤回を求める意見書を河野デジタル相に提出し、保険医協会が加盟する全国保険医団体連合会も昨年10月、「命と健康に関わる医療を人質にとって、自身の思想・信条等に反してマイナンバーカードを取得するか、医療を受ける権利を諦めるかの選択を強いるようなことは到底許されるものではない」と声明を発表した。
すると岸田政府はマイナ保険証を使うと窓口負担が減り、「紙の保険証」を使うと窓口負担が増えるようにし、マイナ保険証のシステムを導入していない病院は収入が減るようにした。
具体的にはマイナ保険証を使うと21円だった初診(3割負担の場合)の上乗せ額を6円(昨年10月以後)に下げ、「紙の健康保険証」の初診上乗せ額は9円から18円(今年4月以後)に引き上げた。こうした兵糧攻めのような手法を用いて、厚労省は「オンライン資格申請が9割をこえた」と公表した。
ところがこれも「申請数」で「活用開始数」ではない。実際にマイナ保険証の活用を開始した運用機関数は今も70・2%(4月23日現在)で、小規模な「歯科診療所」に限定すれば62・3%にとどまっている。
こうした5割をこすマイナ保険証未登録者、4割近いマイナ保険証システム未構築の医療機関を締め上げるために編み出したのが「紙の保険証廃止」という劇薬だった。
「公金受取口座の登録促進」は、行政側が年金受給者に書類を送りつけ「一定期間に返答がなければ、内閣総理大臣がその口座を公金受取口座として勝手に登録しマイナカードと紐付けてもよい」というものだ。
政府は「口座は給付のみに利用」と主張するが、いったん個人口座をマイナンバーと紐付ければ個人資産や預貯金の動向を把握することが可能になる。
しかもこれは年金給付者を入り口にして、いずれ生活保護、子ども手当、就学援助、母子手当……と対象者を際限なく拡大していく様相だ。
それは全国民の個人資産の額やその出し入れの状況をみな把握し、問答無用で税金を徴収したり、ある場合は財産の差し押さえまで可能にする地ならしである。
電子決済(キャッシュレス決済)による給与払いの解禁(今年4月から)、インボイス(適格請求書)制度導入にむけた適格請求書発行事業者の登録もこうした動きと無関係ではない。
そして政府が重視しているのは「マイナンバーの利用及び情報連携に係る規定の見直し」である。
もともとマイナンバーを使える業務は、マイナンバー法の「別表1」でマイナンバーを扱える行政機関と業務を規定し、
「別表2」でマイナンバーを用いた情報をやりとりできる機関やその業務を定めていた。
「別表1」では、厚労相が健康保険業務でマイナンバーを使えることや、都道府県知事が災害救助の扶助金支給でマイナンバーを活用できることなど約100項目にわたって規定。
「別表2」では厚労相、全国健康保険協会、市町村長などの「情報照会者」と「情報提供者」がどの業務のどの情報を扱えるかを約120項目にわたって定めていた。
この「別表」以外の業務とマイナンバーを紐付けする場合は、そのたびに法改定が必要だった。
マイナンバーシステムは、国会審議抜きに勝手にさまざまな業務と紐付けすることはできない体制だった。
ところが自民党は「法改定手続きやシステム改修で新業務に使うには最低で2年かかる」と主張。
そして
「マイナンバーの利用範囲を規定する“別表1”に“準ずる事務”もマイナンバーを使えるようにする」
「マイナンバーの情報連携を規定する“別表2”は法律ではなく政省令(内閣で決定)に格下げする」という改定法成立を目指している。
それは政府が国会審議もなくあらゆる業務とマイナンバーを紐付けできる体制である。
運転免許証とも一体化 生体認証紐付も検討
総務省が紹介しているカードリーダーを使ったマイナ保険証の活用例
自民党は2015年10月、第三次安倍内閣のとき全国民に12桁のマイナンバー(個人番号)を通知した。
このとき配布したのが紙製「通知カード」だった。
当初は「通知カードは厳重に保管しなければならない」「会社内では金庫で保管」ともいわれた。
マイナンバーは従来の個人情報とは異なる「特定個人情報」と法律で明記し、これを外部に提供した事業者は「4年以下の懲役」か「200万円以下の罰金」と規定した。
さらに2016年1月にはICチップと顔写真付カードの交付を開始した。
これが全国民に割り当てたマイナンバーと個人情報を紐付けるマイナカード(有効期限18歳以上=10年、18歳未満=5年)で、表面には氏名、住所、生年月日、性別、顔写真を表示。
裏面にはマイナンバーとマイナンバーを記録したQRコードも記載し、個人情報を記録するICチップも埋め込んでいた。
すると最初「持ち運びは危険」と主張していた政府が「身分証明書に使える」といい、外で持ち歩くことを推奨。
そのうえマイナカード取得によって最大2万円分のマイナポイントを付与するマイナポイント事業(マイナカード取得で5000円分、マイナ保険証との紐付けで7500円分、公金受取口座の登録で7500円分)を開始した。
自民党政府はデジタル庁まで発足させ、デジタル社会構築の基盤としてマイナカード所持を煽る宣伝に明け暮れた。
岸田政府は
「2024年度末にマイナカードと運転免許証を一体化」させ
「2025年度末までに各自治体のシステムを統一・標準化」し、その後は「生体認証との紐付け」「教育データ(学校健診データやGIGAスクールにおける認証手段)との紐付け」「銀行口座(公金受取口座)との紐付け」を検討していくことも表明した。
50年前から執拗に迫る 国民総背番号制導入
だがほとんどの国民が利便性を感じていないマイナカード取得をなぜ執拗に迫ったのか? である。
それは50年前から何度も整備しようとしては失敗してきた「国民総背番号制」を今度こそ定着させるためだった。
「マイナンバー」のルーツである「国民総背番号制」の論議は1960年代後半に始まった。
1968年に佐藤栄作内閣が「政府における電子計算機利用の今後の方策」を閣議決定し、1970年には行政管理庁を中心に具体項目を定めた。
このときに「事務処理用統一個人コード設定の推進」という項目を盛り込んだ。
これについて米国主導で立ち上げた日本生産性本部は
「“コードの統一”の対象は個人の番号だけではない。
場所、時、事業所、商品、交通機関、保険、医療など、およそ、処理の対象となるデータにすべて統一コードを与えることによって情報処理の効率を格段に高めることができる」と指摘していた。
こうした方向にそって1978年に大蔵省(現財務省)が納税者番号制導入に動き出し、「日本版グリーンカード(少額貯蓄等利用者カード)」構想を具体化する所得税法一部改正案を国会に提出した。
これは税務署がグリーンカード交付番号と口座を紐付けして個人の財産を把握するしくみで国会も通過した。
しかし全国的な反発が強まり1984年の実施目前で頓挫した。1988年にも自民党が「納税者番号制」導入を目指したがこれも頓挫している。
この次に登場したのが住基ネットだった。
住基ネットは国民一人一人に11ケタの番号を割り当て、氏名、生年月日、性別、住所の「基本4情報」を記載した各市町村の住民基本台帳で管理するシステムだ。
改定住民基本台帳法を1999年に成立させ、2002年8月に住基ネットをスタートさせ、2003年からは顔写真入りICチップ内蔵の住基カード交付を開始した。
しかし住基カードは交付から10年以上へても普及率が5・5%どまり。
しかも住基ネットの住民票コードは市区町村が付番する自治事務であるため、2002年8月5日の稼動直前に福島県矢祭町が離脱を宣言した。
これに東京都国分寺市、杉並区、三重県の小俣町、二見町も続き、8月2日には横浜市が「市民選択制」をとると表明した。
稼動時点で400万人をこす国民が住基ネットに参加せず、9月11日には東京都中野区も離脱を宣言。結局、住基ネットは2015年に新規カードの発行うち切りに追い込まれた。
こうした失敗を避けるため、すべて国が個人番号を付番し、地方自治体の判断でシステムから離脱できないようにしたのがマイナンバー制度だった。
さらにマイナンバー法では住基ネットで禁じていた「警察や公安機関によるデータ利用」も認めていた。
そこで重視したのは住所が変わり、名前が変わっても同一番号で一生涯、個人を監視し続ける体制だった。
このためにICチップを内蔵したマイナカードの普及を急いだ。
そして2015年10月にマイナンバー制度を開始し、2019年5月には「デジタル手続法」を成立させ、紙製マイナンバー通知カード廃止も決定した。
このとき「改定戸籍法(戸籍データとマイナンバーとの紐つけを規定)」と「改定健康保険法(健康保険証とマイナンバーカードとの紐つけを規定)」も成立させた。
そして2021年5月に「デジタル関連法」を成立させ、デジタル庁設置の段取りやマイナカードと個人情報の紐付けを強力に推進する仕組みを具体化した。
この「デジタル関連法」には各自治体で差があった個人情報保護体制を全国統一仕様に変え、「業務の遂行に必要で相当な理由のあるとき」は、行政機関が本人の同意なしで個人情報の目的外利用ができることも盛り込んだ。
それはデジタル庁が全国各地の個人情報を一元管理し、その個人データを国家権力が自由に活用できる体制だった。
こうして今では、全国民にマイナカードを持たせ、それと細かい個人情報を紐付けすることができれば、いつでも職歴、家族構成、所得、不動産などの資産情報、今までに受けた医療情報、失業保険、公営住宅を借りた記録、児童扶養手当など各種手当て、生命保険、個人の銀行預貯金、住宅ローン、犯罪歴などあらゆる個人情報を国が一元管理できる準備が整っている。
ポイントカードや図書館カードと連動させれば「どこで何を買ったか」「どんな本を読んだか」まで特定することも可能だ。これは個々人の弱みを把握し、国家権力に反抗したり、国家権力内部の悪事を暴いたりした場合はすぐ叩き潰すこともできるツールとなったことを意味する。
とはいえ、こうしたシステムも国民のなかでマイナカード所持が進み、各種サービスとの紐付けが進まなければ「宝の持ち腐れ」でしかない。
そのため自民党政府は、2万円を配ってマイナ保険証の登録や公金受取口座との紐付けを促したがうまくいかず、「紙の保険証廃止」のような強権手法に乗り出している。
若者の戦地投入に活用 先進地米国の実例
このマイナンバーシステムの先行きは日本がモデルにした米国の事例を見れば一目瞭然である。
米国では1936年から全国民を対象にした社会保障番号(ソーシャル・セキュリティ・ナンバー=SSN)を導入。それ以後約60年かけて利用範囲を拡大した。
それは次のような流れだった。
【1962年】連邦税徴収での使用開始
【1966年】入院患者の記録保持での使用開始
【1969年】国防省が軍の識別番号として使用開始
【1970年】銀行、信用組合、証券の顧客からSSN取得を義務付け
【1976年】運転免許、自動車登録のためにSSN取得要求が可能になる
【1982年】連邦ローンプログラムの申請者にSSNの提供を義務付け
【1986年】学生ローンの申請者に対してSSN提供を義務付け
【1994年】陪審員の選考に関して、SSN利用を許可
米国の場合も「SSN取得は任意」だったが、SSN未取得者を行政サービスが受けられない状態へ追い込んでいった。
その過程でSSNを元にした個人情報流出やなりすまし等の犯罪が多発した。
2006~2008年だけでなりすまし犯罪の被害者が1170万件(アメリカ連邦司法省の統計)に上り、損害額は173億㌦に達した。
2014年にはのべ1760万人がSSN関連被害にあっている。
米国では暗証番号や顔写真などの認証をクリアすれば銀行口座も開設できるため、ローン地獄に直面する大人が子どものSSNを盗用して金を借りて焦げ付かせる事件が増加した。
患者が病院や職員に提示したSSNが漏れて、なりすまし犯罪に使われた例もある。
だがもっとも危険なのは、このシステムを使って行政が各家庭の抱える諸問題を掌握し、国民監視や兵員募集に活用した事実だ。
米国では全米すべての高校が生徒の個人情報を軍のリクルーターに提出しなければ学校の助成金がカットされる制度があった。
米軍はこの個人情報をもとにより貧しく、将来の見通しが暗い生徒のリストをつくり、そこへ軍のリクルーターが出向いて「入隊すれば大学の学費が免除される」「入隊すれば家族も含めて兵士用の医療保険に入れる」と声をかけ入隊者を増やした。
こうして米軍はイラク戦争開戦の2003年には新兵を21万人以上戦地に投入している。
加えて米国は国家テロ対策センターで100万人規模の監視リストを蓄積し、この監視リスト掲載者は飛行機は搭乗拒否となり、就職試験は不採用になる。
これも生活できない状態へ追い込み米軍入隊へ誘導するシステムだった。これが米国のSSNが行き着いた先である。
日本国内でもマイナンバーカード普及の動きと同時進行で、中国やロシアの土地買い占めを防ぐために「重要土地調査法」(重要施設の周囲1㌔範囲の区域や国境の離島を注視区域に指定し、土地所有者らの行動や思想状況について調べる権限を国に持たせた法律)を成立させ、外務省によるSNS空間モニタリング(SNS空間の悪意ある投稿の監視)の具体化が動いている。
また武器生産にかかわる技術者へのセキュリティ・クリアランス(国家機密を扱う職員への適格審査)導入など、台湾有事を想定した戦時体制作りが動き出している。
マイナンバーシステムをめぐっては、個人情報の漏洩やトラブルや犯罪の多発も大問題だが、自民党政府がいったい何を目指しているのか、どのような国家作りを目指しているのかを直視することが重要になっている。それは個々人がマイナカードを所持するかどうか、マイナ保険証に登録するかだけにとどまらず、日本の未来にかかわる問題になっている。