先日のカンファで、後期研修医が訪問診療を行った方で、様々な問題が複雑にあり、どこをどうしてよいのかわからなくなったという話題がありました。その時に、一般診療や在宅診療においては、複雑性にどう対処するかの能力が重要であることの話しをし、クネビン・フレームワークの紹介をしました。JIM(医学書院)2011年9月号の藤沼先生の記事や日本プライマリケア連合学会誌2014年6月号(37巻2号)の宮田先生の記事が参考になります。宮田先生の記事は、J-stageでネットでみることが可能です。以下「クネビン・フレームワーク」については、宮田先生の記事を一部まとめたものです。
★クネビン・フレームワーク(複雑性を考える枠組み)
①単純な状況(Simple)
内部での相互作用がなく安定的で因果関係が誰の目にも明らかであり、振る舞いが予測可能である。
例:合併症のない健康成人のマイコプラズマ肺炎例
②込み入った状況(Complicated)
複雑であるが静的であり、全体は部分の総和として考えることが可能である。因果関係ははっきりしているが、本当にそうなのか判然としない。
例:高齢者の糖尿病患者で動脈硬化病変が進み、冠動脈疾患・末梢血管の血流障害もある。5年前に胃がんの手術をうけ、イレウス気味の症状となることがある。患者の理解力や家族の介護力も良好。
③複雑な状況(Complex)
内部の相互作用は絶え間なく変化し、全体は部分の総和を遥かに超え、何が起こるか分からない。何が分からないのかも分からない状況。
例:都市部の集合住宅で寝たきりとなっている虚弱老人。患者の認知機能は正常だが、軽度認知機能障害のある配偶者が介護を行っている。娘は時々来るが、あまり深く関わりをもっていない。患者の病状について前医に問い合わせても高血圧・狭心症・糖尿病・大腿骨頸部骨折の既往があることしか情報は得られなかった。患者のケアについては、市内にすむ長男に連絡をして説明をしながら進める必要があるが、長男は全く患者宅には訪れない。
④カオスな状況(Chaos)
混乱が渦巻いており因果関係がはっきりせず、適切な解を探しても意味がない。因果関係は絶えず変化するため、制御可能なパターンは存在しない。緊張が張りつめており、わかりあえない状況である。
例:集落のはずれのかなり古い住宅に住む60代の姉妹。民生員が自宅を訪問すると、長女は異臭のする部屋で寝たきりになっていた。次女は世話をしている様子はあったが、真夏であるのに窓は閉め切られていて、熱気が充満していた。排泄物が部屋の簡易トイレの周りにみられた。長女は精神疾患で通院歴があった。次女も通院歴はないが精神疾患があると考えられた。長女は発熱もあり、入院が必要な状況であったが姉妹は入院には同意しなかった。
⑤無秩序な状態(Disorder)
①~④のどれにも一致しない状況。秩序が存在しないため、その中にいてもそれに気づきにくい。
Sturmbergらは、上記の①②にあたる状況であれば「問題解決」が、③④にあたる状況であれば「安定化」がゴールになるとしています。
③や④のような状態は、訪問診療で遭遇することもしばしばあり、医療者としてもストレスとなることがあるかと思います。特に経験が少ないうちはどうしてよいかわからず、わからないことがストレスとなり、患者さんへネガティブな感情を抱いてしまうことがあるように思います。しかし、それをクネビン・フレームワークなども参考に分析し、どこを目指していくのかを明確にすることで、患者さんにうまく向き合えたり、マネージメントすることが可能になることもあるかなと感じています。④のような状況だと「見守ること」、「最悪の状態を防ぐようにすること」などのみを目的としたほうがよい場合もあるでしょう。
私自身、まだまだ「複雑性」への対処に困ることも多々ありますが(というか大体困っています・・・)、そのようなときはチームで診療を行っていることが心強かったりすることも多いです。「複雑な」患者さんこそ、チームで共有し、一緒に悩んでいくことが大事なのかなと感じています。
★クネビン・フレームワーク(複雑性を考える枠組み)
①単純な状況(Simple)
内部での相互作用がなく安定的で因果関係が誰の目にも明らかであり、振る舞いが予測可能である。
例:合併症のない健康成人のマイコプラズマ肺炎例
②込み入った状況(Complicated)
複雑であるが静的であり、全体は部分の総和として考えることが可能である。因果関係ははっきりしているが、本当にそうなのか判然としない。
例:高齢者の糖尿病患者で動脈硬化病変が進み、冠動脈疾患・末梢血管の血流障害もある。5年前に胃がんの手術をうけ、イレウス気味の症状となることがある。患者の理解力や家族の介護力も良好。
③複雑な状況(Complex)
内部の相互作用は絶え間なく変化し、全体は部分の総和を遥かに超え、何が起こるか分からない。何が分からないのかも分からない状況。
例:都市部の集合住宅で寝たきりとなっている虚弱老人。患者の認知機能は正常だが、軽度認知機能障害のある配偶者が介護を行っている。娘は時々来るが、あまり深く関わりをもっていない。患者の病状について前医に問い合わせても高血圧・狭心症・糖尿病・大腿骨頸部骨折の既往があることしか情報は得られなかった。患者のケアについては、市内にすむ長男に連絡をして説明をしながら進める必要があるが、長男は全く患者宅には訪れない。
④カオスな状況(Chaos)
混乱が渦巻いており因果関係がはっきりせず、適切な解を探しても意味がない。因果関係は絶えず変化するため、制御可能なパターンは存在しない。緊張が張りつめており、わかりあえない状況である。
例:集落のはずれのかなり古い住宅に住む60代の姉妹。民生員が自宅を訪問すると、長女は異臭のする部屋で寝たきりになっていた。次女は世話をしている様子はあったが、真夏であるのに窓は閉め切られていて、熱気が充満していた。排泄物が部屋の簡易トイレの周りにみられた。長女は精神疾患で通院歴があった。次女も通院歴はないが精神疾患があると考えられた。長女は発熱もあり、入院が必要な状況であったが姉妹は入院には同意しなかった。
⑤無秩序な状態(Disorder)
①~④のどれにも一致しない状況。秩序が存在しないため、その中にいてもそれに気づきにくい。
Sturmbergらは、上記の①②にあたる状況であれば「問題解決」が、③④にあたる状況であれば「安定化」がゴールになるとしています。
③や④のような状態は、訪問診療で遭遇することもしばしばあり、医療者としてもストレスとなることがあるかと思います。特に経験が少ないうちはどうしてよいかわからず、わからないことがストレスとなり、患者さんへネガティブな感情を抱いてしまうことがあるように思います。しかし、それをクネビン・フレームワークなども参考に分析し、どこを目指していくのかを明確にすることで、患者さんにうまく向き合えたり、マネージメントすることが可能になることもあるかなと感じています。④のような状況だと「見守ること」、「最悪の状態を防ぐようにすること」などのみを目的としたほうがよい場合もあるでしょう。
私自身、まだまだ「複雑性」への対処に困ることも多々ありますが(というか大体困っています・・・)、そのようなときはチームで診療を行っていることが心強かったりすることも多いです。「複雑な」患者さんこそ、チームで共有し、一緒に悩んでいくことが大事なのかなと感じています。
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