裏窓 1954年(アメリカ) 日本公開1955年1月14日 横浜第45週
北北西に進路を取れ 1959年(アメリカ) 日本公開1959年9月17日 横浜第46週
ヒッチコックは2作が上映されました。
ヒッチコックの映画は傑作が目白押しですが、とくに知名度の高い作品は「裏窓」の1954年から「鳥」の1963年までの10年間に集中しています。この中で私が最も好きなのは、「めまい」(1958)、「知りすぎていた男」(1956)、「鳥」(1963)ですが、今回の2作もヒッチコックの代表作の中に入ります。
裏窓のジェームス・スチュアートと北北西のケーリー・グラントは、ヒッチコック映画の代表的ヒーローで、それぞれ最多の4作づつ主演しています。今回の2作は対照的で、「裏窓」は主人公の部屋とその窓から見えるものだけが舞台となります。「北北西」の方はニューヨークからラシュモア山まで、アクションたっぷりのストーリーです。ふたりはタイプは違いますが、いずれもハリウッドを代表するスターです。今は時代が変わって、彼らのような本当のスターはひとりもいなくなりました。
ヒロインは、裏窓はグレース・ケリー、ヒッチコックと言えばブロンドの美女ですが、その代表です。この映画のグレース・ケリーは、登場するたびにすばらしい高価な衣装で現れ、その美しさの際立たせ方は、これもヒッチコックの巧さです。北北西の方は、エヴァ・マリー・セイント。彼女もマーロン・ブランドの「波止場」(1954)のイメージとは全く違うブロンド美女にちゃんとなっています。(もっとも、ヒッチコックはこの役もグレース・ケリーにやらせたがったそうです。でもグレース・ケリーはモナコ王妃になって既に引退していましたから、どうしようもありません。)
エヴァ・マリー・セイントは、「スーパーマン・リターンズ」(2006)で、クラーク・ケントの叔母役でもう80歳になるはずなのに若々しい姿を見せてくれていましたが、今気がついたらこの映画はマーロン・ブランドの”遺作”(ただし、生前の姿を元にしたCGでの出演)なので、「波止場」以来の共演ということになります。
裏窓も北北西も、アイディア満載の、傑作です。ただ、これらの映画が撮られて50年、ヒッチコックの影響を受けた映画や、下手な模倣がいろいろ出たあとに初めて本物を見る人たちが、私が少年のころテレビのゴールデン映画劇場ではじめて「鳥」を見たときのような戦慄を感じることができるかどうか。ふと心配になります。ナイト・シャマランやブライアン・デ・パルマなどは、本人たちも認め、映画を見てもすぐ分かるように、ヒッチコックの影響を大きく受けています。ふたりとも現代の映画監督としては、大好きなのですが、やはり怖がらせ方はヒッチコックにはるかに及びません。
フランソワ・トリュフォーがヒッチコックにインタビューして書いた「映画術」は最高に面白い本です。ヒッチコックのこと、映画のこと、この本を読むと、見る目が変わると思います。ヒッチコックが好きな人はもちろん、そうでない人も読んでみてください。お金のない研修医のころ、ちょっと買うには高価だったこの本を、近くの図書館で繰り返し借りて読みました。買ったのはかなり後年なので、私の持っているのは、初版ではなく定本(改訂版)です。
「映画術」の訳者山田宏一氏と和田誠氏の「ヒッチコックに進路を取れ」も、なかなか面白いですよ。