2017年 日本・韓国合作映画
◆おススメ度
★★★☆☆
◆キャスト
綾峰(松村)涼子(アルツハイマーを患う小説家):中山美穂
ソ・チャネ(韓国人留学生):キム・ジェウク
チャネの居酒屋の店長:永瀬正敏
◆感想・概要紹介
日韓合作の映画で、脚本・監督が日本語が話せない韓国の方なのに全編日本語で日本で撮影してるっていうのがちょっと気になって
見てみた映画。
中山美穂演じるアルツハイマーに侵された50代の(中山美穂自身は40代だったんだけど)女性作家と韓国留学生(キム・ジェウク)との
愛の物語っていうから、ちょっと官能的で高尚なとっつきにくい映画なのかなと思ったけど、そんなことなく素直に観れる作品。
なんか、けっこうよかった。
というかほんとに、キム・ジェウクの日本語が、その辺の上京したての地方出身の日本人とかより流暢で、それだけでも見る価値が
あったかなーと個人的には思います。
キム・ジェウクは子供の頃父親の仕事の関係で日本に来て、日本の幼稚園に通っていたんだとか。(ただ、当時は韓国人てことでイジメ
られてたって言うので、日本にはあまりいい思い出はないのかも。)
この映画でキム・ジェウクがちょっと好きになりました。
ざっくりストーリー紹介(映画で短いので若干意訳的な部分もあります。多分。)
◇◇
人気女性作家の涼子は、母親と同じ遺伝性アルツハイマー病にかかったことがきっかけで、死ぬ前に何かをやり遂げたいと考え、
友人の勤める大学で文学の講師の仕事を始める。
彼女を講師に招いた教授やその親しい学生たちと親睦のために行った居酒屋で、涼子はそのお店でアルバイトをする韓国人留学生で
今は学費を稼ぐために休学中のソ・チャネ(キム・ジェウク)を紹介される。
その夜、チャネがお店で寝ていると、ただならぬ慌てようで涼子がお店で落としたという万年筆を探しにやって来る。
その様子に若干引きながらも自分が探すからと涼子を椅子に座らせ、「日本では落としたものが返って来るっていうのを知って驚き
ました」と言いながら万年筆を探すチャネ。
いつの間にか眠ってしまった涼子は、チャネの姿を探すが見当たらず、そのまま帰宅する。
翌日、夜中に涼子に起こされ万年筆捜索をしていたため寝不足のチャネは、いつまでも寝てるなとチャネがヒョン(兄貴)と慕う店長
にたたき起こされる。
ふと見ると競馬新聞に何やら書き込んでいる店長が使っているのは涼子が探していた金の万年筆。
頭のおかしな中年女性が勘違いで騒いでいるだけだと思っていたことに少し罪悪感を覚え、チャネは店長から万年筆を取り上げると、
涼子の家へと訪ねていく。
涼子は万年筆をわざわざ届けてくれたチャネに好感を抱き、飼い犬のトンボに興味を示したチャネにトンボの散歩を依頼する。
トンボも彼に懐いてる様子を見て、涼子はチャネに継続的にトンボの散歩の依頼を持ちかけるが、チャネは自分がお金持ちの熟女に
狙われてるんじゃないかと警戒する。
しかし結局、涼子の依頼を引き受けることにするチャネ。
離婚して一人暮らしをしていた涼子は、それから何かとチャネに色んな雑用をお願いするようになり、それとともにちょっと
ずつ彼に気を許していき、彼が居酒屋のバックヤードにアウトドア用の簡易な椅子を設置してベッド代わりにしていたことを
思い出して、チャネのために、そしてチャネがあまり恐縮してしまわないよう、狭い物置にベッドを置いて彼の部屋を作り、
ここに住んでも構わないよと提案したり。
正直、この手の熟女と若い青年の組み合わせの映画って、訳もなく出会った瞬間お互い惹かれあって、変な背徳感を感じながら
情事を重ねていくっていうような作品が多いような気がするんだけど(ただの偏見?)、この作品は二人ともそういう運命的な
インスピレーションを感じることなく、チャネの年上、独身、お金持ち女性に誘われてるような状況に戸惑いながら警戒している
リアルな感じを描いてて面白い。
けれど、人の好いチャネは結局涼子の依頼を全部引き受けちゃいます。そして、飼い犬の散歩に始まり、本棚の配置換えから
パソコンを使えない、そして腱鞘炎を患い文字を書くのが困難になってきた涼子の小説のための口述筆記など、一人暮らしの
涼子の生活のサポート的な役割をしていくようになります。
一方、涼子の方も、最初から彼のことをチャネが警戒するような目で見ていたわけではなく、せっかく留学生として日本に来た
のに学費を稼ぐために休学してアルバイトし、いい環境とはいえない場所で寝泊まりする彼に救いの手を差し伸べるような気持ち
で毎回少なくない額のバイト料を渡していたりします。
口述筆記のバイトについても、編集の人に録音した原稿を渡せば済むものをチャネの日本語の上達にもなる上にチャネのお金の
助けにもなると思って話を持ち掛けている感じ。
けれど、ある日大学からの帰り道の歩道橋の上で、橋の下を行き交う車、すぐ近くで大型マンションを建設する工事の騒音、強い
日差しといったものにひどく不安感を覚え、一瞬自分がどこにいるのか何をしているのかを見失い、強い眩暈を感じ、パニック
状態になりそうになっていた涼子は、通りがかったチャネに助けられ、そこからちょっとずつ二人の関係が変化していきます。
チャネに自分の腕をつかむように言われ、家まで送ってもらう涼子。そこで彼女はチャネに自分がアルツハイマーであることを
カミングアウトします。
酷くショックを受け、呆然とたたずむチャネ。
"認知症とは異なる遺伝性アルツハイマー病は、記憶力の低下だけでなく身体機能の低下も引き起こし、通常、発症してから3年
ほどで死に至る。"
チャネが後で調べたっていう体なのか、チャネの力のないような声で入る病気の説明ナレーションが印象的。
そうしている間に病気は進行していき、涼子が家のドアを開けっぱなしにして出かけたことがきっかけで、トンボがいなくなって
しまいます。そしてトンボがいなくなったことも忘れ、家の中でトンボを探す涼子。探しているうちに何を探しているかも忘れて
しまい、ベランダの物置でハンマーを見つけた涼子は衝動的にすぐそばにあった放水用の水道の蛇口を叩き壊しちゃいます。
水が噴き出て、びしょぬれになりながらチャネに助けを求める涼子。
駆けつけたチャネは、涼子をやさしく気遣いますが、正気を取り戻した涼子は不安と恐怖で泣き崩れ、チャネにぬくもりを求め
ます。
そこで初めて男女の関係になる二人。
短い映画ながら、二人がお互いを好きになっていく様子がちゃんと丁寧に描かれています。
そして、これが黒木瞳だったらけっこう長いベッドシーンが続きそうなところ、そこだけは韓国ドラマ(映画ではなくドラマです)
的表現で、事前と事後だけが映し出されます。きれいごとだけじゃなく、一応リアルにそういう関係ではあるけど、でもやっぱり
心のつながり的な部分が大事なとこだっていうのを印象づけるためなんでしょう。
そっからしばらく二人のラブラブな関係が続きますが、二人の関係を知った人々は個々に彼らを非難します。
そうして、悩んだ末に涼子はチャネと話し合うこともせずに施設に入ることを決め、一方的にチャネとお別れしちゃうのですが・・・
◇◇
病気がテーマの一つなので、ちょっと重めそうな感じはありますが、ヒロインの涼子がチャネにみっともない姿をみせておきたく
ないっていう気持ちから、けっこう強い精神力で闘病っていう闘病生活もないまま別れを告げて施設に入ってしまうので、そこ
までツラくなるシーンがないのが良かったです。
涼子に別れを告げられたチャネは、涼子の気持ちが分からず絶望します。涼子への気持ちの整理もつかないチャネは、自分が
涼子に利用され捨てられたと思うことで区切りをつけるんですが、なんかドラマに出てくる年下男子って色んなところで達観して
いて、年上女子のワガママなんかを広い心で受け止めてくれたり、泣いてるときに大人な対応で慰めてくれたりするのに、愛する
が故に別れるっていう選択肢に関してだけは年齢なりだなーっていつも思います。
最終的に、売れっ子作家になったチャネが2年後に来日して涼子の家に行ってみると、そこは開放された「偶然の図書館」という
名の施設になっていて、その本の並びが自分と涼子との思い出の配置になっていることにいてもたってもいられなくなって、
涼子の入った療養施設に会いに行くラストシーン。
この図書館のシーンと、施設で涼子と対面するシーン好きです。
なんか、忘れているはずの涼子がチャネに手を伸ばしてその手を取るシーンがあたかもプロポーズのシーンみたい。
キム・ジェウクが嫌いじゃなければけっこうおススメ映画です。