あごう ひろゆきの「集志貫徹」 ブログ

生まれ育った「大田市」をこよなく愛し、責任世代の一人として、先頭に立ちがんばっています。皆様との意見交換の場です。

TPPを考える(TPP参加に賛成か、反対か)④

2011年12月13日 17時37分10秒 | 想・有・独・言

TPP参加に関して、最大ともいえる議論の的に「ISDS条項(IDS条項)」があります。
これは「投資家対国家の紛争解決」を示したもので、
投資家の投資財産を、投資受入国による収用や法律の恣意的な運用などによるリスクから投資家を保護する目的で、
投資受入国が投資保護協定に違反したことにより損失をこうむった投資家が、投資受入国を訴えることを想定し、
公平を期すために、投資家の本国の裁判所でも投資受入国の裁判所でもない、第三者機関(国際仲裁機関)による仲裁を受けるための規定
というものです。

政府も
我が国が確保したい主なルールの内容として
(1)高い水準の内国民待遇や特定措置の履行要求の禁止が盛り込まれる場合、
   我が国企業の外国における投資環境の改善を図るための法的基礎を構築することができる。

(2)TPP協定交渉参加国に進出している日本企業が、投資受入国側の突然の政策変更や資産の収用などによる
   不当な待遇を受ける事態が発生した場合、こうした手続を通じて、問題の解決を図ることも可能となる。

(3)投資についてはWTO協定のような多国間条約が存在しないため、
   TPP協定交渉を通じて投資に関する多国間規律の策定につながる議論に参加し、我が国の国益を反映させることができる。

また、我が国にとり慎重な検討を要する可能性がある主な点として
(1)これまで我が国のEPAにおいて留保してきた措置・分野について変更が求められるような場合には、
   国内法の改正が必要となったり、あるいは将来的にとりうる国内措置の範囲が制限される可能性は排除されない。
(2)我が国がこれまで締結してきたEPAや投資協定、エネルギー憲章条約と同様、
   外国投資家から我が国に対する国際仲裁が提起される可能性は排除されない。

という見解を示しています。

私もこの条項については、慎重に対応すべきだと思います。

 

ICSID条約(国家と他の国家の国民との間の投資紛争の解決に関する条約)というものがあります。
今、IDS条項により投資紛争解決を図るために事案を持ち込む所とされている投資紛争解決国際センター(ICSID)は
このICSID条約の発行により設立されました。
1967年に署名を開始、1968年に発行したこの条約は、2010年末現在、155カ国が署名しています。
日本は1967年9月16日に署名、アメリカは1966年10月14日に署名しています。
投資受入国がICSID条約の締約国である場合には、ICSID仲裁判断の執行は同条約上の義務と明記されています。

では、このICSID条約とはどういった内容なのでしょうか。
これが、今問題となっているIDS条項とあまり変わりがないのです。

今まででアメリカ企業から日本政府が訴えられた事例があるのでしょうか。
相当の時間を費やして事例を調べようとしましたが、全く見当たりませんでした。
もし仮にほんとうに事例が全くないとすると、その理由は
①正当な形で貿易が行われ、双方によって不都合が生じていない。
②訴えが起されているが、事例が表に出てこない。
③形骸化されているか、他の条項等で補完されている。
のいずれかであると考えられます。


話は少し変わりますが、IDS条項を考えるにあたって、しばしば悪い事例が引き合いに出されます。
一部、事例を紹介しましょう。
NAFT加盟国間での係争事例です。

 アメリカの廃棄物会社Metalclad社がメキシコ政府の許可を取った上で、メキシコの廃棄物会社から廃棄物処理の権利を
 買い取った。 その後、メキシコが地下水汚染を防ぐため、アメリカの廃棄物会社Metalclad社の設置の許可を取り消した。
 埋め立て許可の取り消しにより、投資家が損をしたと判断されたため
 メキシコ政府が、アメリカの埋め立て業者に1670万ドルの支払いが行われた。

いわゆるMetalclad事件というものです。


この事件の見解として次のようなものがあります。

Metalclad事件(2000年裁定)では、米国法人Metalclad社がメキシコ国内で有害廃棄物処理事業を行うにあたり、
廃棄物運送基地と埋立用地を取得・開発・運営するためにメキシコ法人COTERIN社と埋立用地、並びに関連認可を買収した(1993年9月10日)。
他方、94年10月、許可の欠如を理由に市当局が作業停止命令を発した。 95年3月には廃棄物処理場が完成したが、
反対住民のバリケードによって操業が妨害されたため、Metalclad社はNAFTA(AF)を利用してICSIDに提訴した。

仲裁廷は、メキシコ行政府の対応に透明性が欠如していた点を根拠として、NAFTA1105条(FET)と1110条(間接収用)の違反を認定した上で、
賠償判断において「現物投資財産」(actualinvestment)を算定する方法を採用した。
Metalclad社は、本件プロジェクトに総額2000万米ドルを投資したことを主張した
(その内容は、1991年から1996年にかけての出費であり、COTERINの取得費用、人件費、保険費用、旅費、生活費、電話代、会計・法律家顧問料、利子等であると主張した)。
これに対して仲裁廷は、次のように述べて賠償額を限定した。
「Metalclad社がCOTERIN社を買収した年[1993年]以前に生じたコストは、損害賠償が請求されている投資財産からあまりにもかけ離れている(are too far removed)。
そのため、1991年から1992年にかけての出費額を裁定額から減額する」。
 このように、仲裁廷は投資前支出(COTERIN社買収以前のMetalclad社の出費)に関する損害賠償を認めなかったが、
その理由は、請求対象となっている投資財産との因果関係が欠如していることであった。

「投資協定仲裁における投資前支出の保護可能性」より http://www.meti.go.jp/policy/trade_policy/epa/pdf/FY20BITreport/pre%20expenditure.pdf


例えば、Metalclad Corp. v. United Mexican States(The Decision of the NAFTA Arbitration Panel)事件は、
本事例は米国企業とメキシコ政府との事例であり、メキシコ政府による外国企業の恣意的取り扱いにより消滅した利益に対し、
賠償命令($16.7million)がなされたケースである。メキシコに設置してあった米国企業メタルクラッド社の廃棄物処理・埋立施設が地元当局によって閉鎖されたことを受けて、
同社が第11章の仲裁を請求した。 メキシコのポトシでは、1990年にメキシコ政府当局の許可を受けメキシコ国民により設立、
後にCOTERINという企業によって運営された廃棄物の暫定保管施設が存在した。 1993年に米国企業メルカトラッド社は、
当該施設運営権を6ヶ月間購入し、埋立を計画した。しかし当該自治体は有害物質の埋立計画の危険性を指摘し、許可を取り消した。
その後ポトシ州知事による停止命令が出された後、同社は当該計画を停止した。メルカトラッド社は、連邦政府、州、地元政府の本行為は
当該施設の認可に際して透明性の要件を欠きまたNAFTA第105条に規定される公正な扱いに違反すること、
本件の閉鎖が第1110条の収用行為に該当することの点でNAFTA条約に違反すると主張した。
本件はNAFTA第11章違反の結果として海外からの投資に賠償命令が下された初の事例である。
仲裁裁判所は、本件におけるメキシコ政府に対する責任を認め、メキシコ政府の同社に対する扱いは透明性を欠き、
公正かつ平等な扱いを行っていないことなどから国際法に違反していると認定した。

「経済連携協定(EPA)/貿易自由協定(FTA)に対する環境影響評価手法に関するガイドライン」より http://www.env.go.jp/earth/keizai-k/guide/guide01.pdf


Metalclad社は、1993年にメキシコCoterin社から埋立地を買った。
Coterin社は、有害廃棄物の埋立地を開発する予定だったが、地方から必要な許可を得られなかった。
Metalclad社はメキシコ政府からの土地利用の許可を得ることができたが、地方政府は建築許可に応じなかった。
市長が埋立に反対した。
1992年、Metalclad社が用地を購入する前、メキシコ環境当局による審査により、
2万トン以上の有害廃棄物が不法投棄されていたことがわかった。
当局は、不法投棄された廃棄物をMetalclad社が処理することを条件に埋立の許可証の発行に合意した。
1993年、Metalclad社は埋立地を購入した。
地元住民は、水が汚染されて病気になったと反発。
main waterはMetalclad社が埋立をしている場所から約60ヤード(約55メートル)の距離だった。
新しい知事の委託による1994年の環境調査で処理が適切な場所を選んで行なわれているとして事業継続ができた。
1995年、メキシコ環境当局は、Metalclad社が不法投棄廃棄物を処理することを条件に埋立を承認した。
地元当局は、建築許可を拒否。
訴訟により、Metalclad社は事業中止に追い込まれた。
1997年には、Metalclad社は9,000万ドルの損害賠償を求めてメキシコ政府を提訴し、2000年 8月30日仲裁判断で1670万ドルの賠償金を得た。
(賠償金は、後の再計算で、$110万1560万ドル減額された。)

「Metalclad - 英語版Wikipedia」より http://en.wikipedia.org/wiki/Metalclad


もっと冷静な判断を求める方には判例の全文があります。
(但し、英語なので各自判断をおねがいします。)

「MetacladAward METALCLAD CORPORATIONClaimant and THE UNITED MEXICAN STATES Respondent」

 http://italaw.com/documents/MetacladAward-English.pdf#search='Metalclad'


NAFTA加盟国間において、「なんでもかんでも、不当にアメリカ企業から訴えられている」という見解は
見受けられず、投資紛争解決国際センターにおいて冷静な判断が下されていると思います。


内国民待遇(自国民と同様の権利を相手国の国民や企業に対しても保障すること)を規定する条項の一例は次のようなものです。

いずれの一方の締約国の投資家も、他方の締約国の領域内において、投資財産、収益及び投資に関連する事業活動に関し、
同様の状況の下で当該他方の締約国の投資家に与えられる待遇よりも不利でない待遇を与えられる。

とくに内国民待遇が事実上の差別を含む場合には、投資先国(ホスト国)の産業政策のみならず社会政策にも影響を与える恐れがありますが、
実際にホスト国政府の社会政策等によって正当化される場合は内国民待遇違反とは認定されていないと思います。

NAFTA(北米自由貿易協定)では、「投資」の章でISD条項の前に置かれた「内国民待遇」の条項に埋め込まれた毒素的文言と、
NAFTAの前文に書かれたNAFTAの目的とを組み合わせて、内国民待遇-いわゆる外資を国内企業と同列に扱うこと-を、
従来よりも広範に、かつ外資に有利に解釈できる条文となっていると言われています。

そして、米国が当事者でない国際協定では、NAFTAほど外資に有利な解釈が可能な条文にはなっていません。
日本がこれまで締結しているものも、同様です。


また、この条項が無ければ、逆に貿易相手国から、それこそ不当な理由にて訴えられる機会が増加する恐れもあります。

全くの自由貿易協定(TPP等)になると、扱う領域が格段に増加し、日本国民が考える不当な理由において

訴えられる可能性があるとするならば、「ISD条項に反対せよ」と言うのではなく、

「投資等に関する条文が、NAFTAのようにならないよう、注意する」と受け止めることが必要だと思う次第です。

この対処に向けて、全力を尽くすべきだと思います。


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2 コメント

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よくぞ! (グラン)
2011-12-14 19:19:01
よくぞ、お調べになりました。
私は簡単に書きましたが、その通りなのです。
今回はNAFTAの案件ですよね。
議員は、この判決は妥当では。と申される訳ですね。
逆にICSIDの存在がなければ、逆に日本にとって不利なのではと申される訳ですね。
又は、このISD条項が存在する事が、TPPを考える上で、殊更神経質になる必要は無いと言われるわけだ。違いますか?
私は、この裁定についての記述を読んで、即座に「危険!」と思いましたよ。
日本国内に於いて、国内法を凌駕する裁定が下される、このISD条項は、危険極まりないと、判断してもおりますし、そう申し上げておる訳です。
具体例も書いたはず。絶対そんな事は無いと言えますか?
議員、そこまでお調べなら、この投資紛争解決国際センター(世界銀行の傘下にある)の人員構成。
そして裁決へのプロセスが透明性を有しているのか?
民主主義国家の裁判は、参審制で行われていますが、このICSIDによる裁決とは一体どんなものなのでしょう?
さて、この事を考察して行くと非常に危険極まりないのでは?と申し上げているのです。各自のお考えは自由です。
相対する考えととらえて置きます。
さて相手国は、このTPPに、参加する事について、早くから準備を進めているのです。片や日本!今朝の新聞を見ても分かる通り、政府代表の人選さえ難航しているお粗末!
外交は「平和なる戦争」増してTPPは経済協議ですよ。
国民の生活に、モロに直接響いてくるのですよ。
その上、外に対しては、経産省主導で全産品対象と言い、国内には全産品対象では無いと言い。
只今現在、国内言論といいますか、国民は「ちんぷんかんぷん」の状態!
タフネゴシエーターなくて、とても日本の主張が通るとは思えない。
このISD条項がTPPに於いて、韓国とアメリカの二国間貿易協定の様に、アメリカは提訴出来て、韓国は提訴出来ないものにならないとも限らない!
ともあれ、議会の最中、よくぞ勉強して頂いた事に感謝いたします。
それでも議員に、申し上げておきます。
新聞テレビの御用評論家の抽象論振り回される事なく、この問題を私なりに調べておりますが、このTPP参加でGDPの上昇はありえません。
それよりここでも申し上げているとおり、弊害のほうが多い。
この幹の部分で、論拠が破綻している以上、TPP参加慎重論に柁を切られるべきと思います。
控えておりましたが、TPP議論を、議員とは真っ向逆の反対の立場から、再度議論を復活させて頂きます。


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TPP参加の危険 (グラン)
2011-12-14 22:56:06
議員!私は副島会の会員でもあります。
副島氏の講演会にもよく参加します。
以下は、副島氏の講演によく講師として参加頂く植草氏のレポートでもある。熟読をお願い申し上げます。
我々、日本人の大人が目指す国の体制は、この様な新自由主義によって生み出される格差社会では無く、心ある民主主義による共生社!ではなかろうか?
当然働かざる者食うべからずの原則は適用され、国民一人一人の努力は絶対条件であるのだが、我々大人は、格差の進むアメリカの様な歪な社会を絶対孫子の代に引き継がせてはならないのであると考えるのである。
その意味に於いても、このTPP参加だけは、絶対に許す訳にはいかないのです。


以下参考文献、一部私によって改編。今回は混合診療の危険
─────────
日本はTPPに参加するべきでない。
TPPに日本が参加することは、米国に利益を供与するもので、日本にとってはトータルに見て損失が大きいからだ。
野田佳彦氏は日本にとって損失が大きいものに参加する意向を表明した。
その唯一の理由は、米国から命令を受けたことである。
野田氏は、米国の命令に抗うことをせず、隷従した。
その理由は、自分の身の安泰を図るためである。
日本の政治家は次の宿命を負っている。
米国にひれ伏し、米国の命令に隷従する者は米国の支援を受ける。逆に、米国にひれ伏さず、米国にもモノを言う者は米国から陰に陽にさまざまな攻撃を受ける。
このため、大多数の政治家は米国にひれ伏し、米国に隷従する道を選ぶ。
吉田茂氏を始祖とするこの系譜のなかで、近年で突出している存在は、小泉純一郎氏、菅直人氏、そして野田佳彦氏である。
だから、私は小泉氏をポチ1号、菅氏をポチ2号、野田氏をポチ3号と呼んでいる。

TPP交渉のなかで、日本が混合診療の解禁を求められる可能性があることが明らかにされた。
この問題は、コメの関税撤廃と並ぶTPP問題の最重要のポイントである。
混合診療とは保険を適用できる医療と保険の適用できない医療を併存させるというものだ。
現行制度でも、一部先進医療については、混合診療が認められている。
先進医療については全額負担だが、基礎医療部分については保険が適用される。
医療費の増大が社会保障財政を圧迫する要因になっている。
これから日本は高齢化が加速するため、国民医療費の増大が避けられない。
そのなかで、社会保障財政を維持するには、患者の自己負担を増大させなければならないというのが、財務省の考え方である。
混合診療はこの意味で、そもそも日本の財務省が熱望している制度である。
患者の側でも、保険に適用されていないが、諸外国で実績のある先進医療を受けたいが、基礎医療費までが自己負担となるため受けられないとの声がある。混合診療が解禁になれば、そのような医療をより安価に受けられる。
この視点から混合診療全面解禁を求める声があることも事実ではある。
しかし、ものごとには表があれば裏がある。光と影だ。光の反対側に影が存在する。
その光と影を比較衡量することが不可欠だ。誰が混合診療全面解禁を熱望しているのかを見ると、混合診療の意味がよく分かる。
熱望しているのは、日本の財務省、米国の医薬品・医療機器業界、米国の保険会社、そして富裕層に属する日本の患者である。
日本の患者の要請理由は事情がやや複雑だが、上記した通りだ。
オリックス会長の宮内佳彦氏は小泉政権の時代、総合規制改革会議の議長をした。
この会議では郵政民営化の論議をしたが、議論が本格化して以降は、郵政民営化については経済財政諮問会議に舞台が移された。
総合規制改革会議が示した重要結論のひとつが混合診療の解禁で、小泉純一郎氏が懸命に推進した。
オリックスグループの保険会社は、民間医療保険商品の販売に実績がある。
米国系の保険会社のもっとも得意とする分野が民間医療保険商品である。
混合診療が全面解禁されると、患者は保険医療適用分については2~3割の自己負担で済むが、自由診療については全額自己負担が求められる。
月額の自己負担上限がどのように定められるのかにもよるが、医療費負担が膨大になる可能性が高まる。
この負担を想定すると、多数の国民が、あらかじめ民間の医療保険商品を購入するとの選択をするようになる。米国の保険会社はここに目を付けている。
オリックスの宮内氏が総合規制改革会議で混合診療解禁を打ち出したのは、オリックス生命の民間保険商品の販売を拡大させることが目的だったと思われる。
また、米国の医薬品業界、医療機器業界も混合診療全面解禁を熱望している。
日本の保険で認可されていない医薬品や医療機器販売を激増させるチャンスが生み出されるからだ。
さらに重要なことは、この制度導入を財務省が熱望していることだ。
財務省の支出削減対象御三家は、社会保障費、公共事業費、地方交付金である。
国民生活に直結する部分が財務省の支出削減対象である。

『財務省の天下り利権、財務省が自由に配分できる自由裁量予算については、最後の最後まで支出抑制に応じない』

これが財務省の基本スタンスである。
何が起こるのかは明白である。
混合診療が全面解禁されれば、保険医療の適用範囲が狭められ、多くの医療行為が保険対象外とされる可能性が濃厚なのだ。

新幹線と在来線の関係と極めて似たものになるだろう。
新幹線が走る前は在来線が充実していた。
在来線にも特急電車は走っていたが、特別料金のかからない普通列車が充実して、どこに行くにも、普通列車で行くことができた。
ところが、新幹線が開通すると、在来線が大幅に圧縮されてしまう。
目的地まで普通列車を乗り継いで行くことが困難になり、時間帯によっては、新幹線を使わない限り、目的地に到達することができなくなる。
部分的には在来線そのものが廃止されてしまうケースさえ登場する。
医療の分野で混合診療が全面解禁されれば、在来線の普通列車だけを利用する患者が著しい困難に直面する。
いくらでも新幹線を利用できる富裕層にとっては快適であるが、新幹線をなかなか利用できない低所得者は、運転本数が激減した普通列車しか利用できず、厳しい状況に追い込まれるのだ。
全員が健康保険に加入しているという「国民皆保険」が守られても、混合診療が全面解禁されるなら、まず間違いなく日本の医療制度は、弱者切り捨ての方向に向かうだろう。
財務省を解体しない限り、この方向に事態が進むことは間違いない。
だから、混合診療を全面解禁してはならないのだ。
12月5日夜のテレビ朝日番組が「混合診療」の問題を扱った。
須田慎一郎氏が混合診療解禁賛成の立場から説明したが、説明の内容があまりにも偏向していた。
日本医師会が混合診療解禁に反対している理由について、反対しておけば補助金がもらえると期待しているからだと決めつけていたが、単なる思い込みだけで説明することは間違いだ。
日本医師会にさまざまな思惑があるのは理解できるが、基本的に、混合診療を全面解禁した場合に、上述した問題が生じる恐れが高いことを押さえなければ、混合診療についての説明をしたことにはならない。
混合診療を解禁しても、大半の医療行為が保険適用にされるのであれば弊害は小さい。
しかし、自由診療対象の先進医療を順次、保険医療に適用していくのであれば、財政負担を軽減するという財務省の狙いは達成できないわけで、財政事情からの要請を踏まえれば、逆に保険適用医療行為が順次、自由診療対象に組み替えられてしまう危険の方が高いと思われる。
現在の日本の医療制度は、だれでもどこでも一定水準の医療を保険医療として受けられるものであり、国際的に比較しても優れた状況にあると言える。
「医は仁術」と言われるが、医療の分野に市場原理主義を持ち込むことは、絶対に避けるべきである。
医療の市場原理主義化は、文字通り、日本を弱肉強食の世に変えることを意味するだろう。
強者である金持ちがカネの力で高水準の医療サービスを独占してしまう。
弱者である貧困層は一定水準の医療にもありつけず、軽い病気でコロコロと死ぬことになる。
所得格差の急激な拡大が問題になっているが、より深刻な問題は、低所得者の数が激増していることである。
二極分化は同じ数で分化していない。
ごく少数の富裕層と大多数の貧困層に二極分化が進んでいるのである。
この大多数の貧困層が社会から切り捨てられる。
これが混合診療全面解禁の意味するところだ。
TPPの一番大きな罠がこの混合診療全面解禁にあると思われる。TPPが混合診療に直結するわけではないが、米国は日本に混合診療解禁を要求してくるだろう。
問題はそのときに、日本側がこれを渡りに船として、混合診療解禁論議を強めることである。
混合診療解禁の希望は米国だけにあるのではなく、日本サイドに存在するからだ。
財務省はのどから手が出るほど、混合診療解禁を切望している。
TPPについて詳述することは避けるが概略を記述すると以下の通りになる。
日本を含むTPP10ヵ国のGDP構成比は、日米で91%、日米豪で96%
である。したがって、現状でのTPPは日米EPA(経済連携協定)である。
日米の工業品関税率は極めて低く、関税率が撤廃されても、工業製品の輸出産業が得るメリットは大きくない。これに対して、日本では、コメ、乳製品、
小麦などに高率関税が設定されている。
日本は自由貿易主義を基本としているが、特別な配慮が必要な品目については例外措置を設けている。
自由貿易のために日本が存在するのではなく、日本のために自由貿易があるのであり、自由貿易の原則がすべてを支配するのは本末転倒である。
コメを守ることには大きな理由が存在する。しかし、TPPは「例外なき関税撤廃」を基本原則とし、この基本原則に応じなければ参加できないから、TPP参加はコメの関税撤廃を意味すると考えてよいだろう。
日本がコメの関税を撤廃することは、日本に巨大な災厄をもたらす。デメリットが強烈に大きい。
また、TPPは国民の生命や健康を害するリスクを伴うものである。
排ガス規制、農薬使用規制、遺伝子組み換え食物の表示規制などの撤廃が要求される可能性が高い。
各種共済組合制度の撤廃も要求される可能性が高い。
弁護士、会計士、税理士などの資格ビジネスにおける外国資格適用が検討される可能性もある。
ISD条項が適用されれば、治外法権が復活する。
これらの条件を踏まえれば、日本がTPPに参加するとの方針を日本政府が示すことは国民に対する背信行為である。
このTPP懸念事項のなかで、とりわけ重大なのがコメ関税撤廃と混合診療の全面解禁である。
国民が安心して生活してゆけるための最大の条件のひとつが、医療保険制度の安定である。
現状では、国民皆保険が辛うじて維持され、基本的に全ての医療が保険対象とされている。
アメリカでは、医療保険に加入出来ない低所得者層が拡大し、ひとたび病気になれば、適正な医療も受けられず、あとは死ぬのを待つしかないという悲惨な状況が拡大している。日本が混合診療の全面解禁に踏み切れば、アメリカの現状に近い姿に変わり果てるのは時間の問題になる。

TPPの参加は、この危険性を大きく内包しているのである。

今日はここまで!
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