細越麟太郎 MOVIE DIARY

最新の映画情報や批評を掲載します。

●「ラッキーナンバー・7」はツキのない男のリベンジだ。

2006年10月31日 | Weblog
●10月30日(月)14-00 銀座<ヤマハホール>完成披露試写
M-127 「ラッキーナンバー・7」Lucky Number Slevin (2005) capitol
監督・ポール・マクギガン 主演・ジョジュ・ハートネット ★★★☆☆
共演がモーガン・フリーマン、ブルース・ウィリス、ルーシー・リュー、ベン・キングスレー、スタンリー・トウッチ、ロバート・フォースターとくれば、オールスターの博打場荒らしのオーシャンズ組みのパターンか、と思いきや、これは上等な復讐ものだった。
ストーリーが二転三転するので、それだけでも面白く、込み入った人間関係を明快な映像処理で見せるマクギガン監督のワザもいい。
「ララミーから来た男」や「イギリスから来た男」のような、男が遥々と復讐にやってくる段取りが、これまでになく捻っているのはいい。意外性もいい。
残念なのはジョシュの軽さだなー。
「ブラック・ダイヤモンド」はデ・パルマのトーンの重さがシブかったのに、ここでは、またしてもジョシュ・ハートネットのコミックな甘さが、どうも作品を軽くしてしまった。
でも、モーガンとキングズレーの演技対決を見るだけでも、絶対にソンはない。

●守護神』はコースト・ガードの教育実戦アクションだ。

2006年10月27日 | Weblog
●10月26日(木)13-00 六本木<ブエナビスタ試写室>
M-126 「守護神」Guardians (2006) touchstone 米
監督・アンドリュー・デイビス 主演・ケビン・コスナー ★★★☆☆
まるでオカルト映画のような恐ろしいタイトルだが、アメリカの沿岸警備隊の根性アクション。
ケビンは50歳を過ぎていて、実際のレスキュー・ダイバーの実務は外される。
その代わりとして、新入り生徒の海難救出の実務特訓教官となる。
「ザ・ダイバー」のデ・ニーロの役どころだが、彼自身が事故のトラウマを持ち、同じハンデのある青年に厳しく接する。
そして根性映画のパターンで親子のような、友情が芽生えていく。
アンドリュー・デイビスは「逃亡者」の時のように、堅実でダイレクトな演出で一気に見せる。
カメラ・ワークとサウンドの迫力は素晴らしい。
しかし「愛と青春の旅立ち」のような繊細なヒューマニティーは薄く、怒濤の荒波のような豪快なアクションが残った。
ケビン・コスナーは、まだラスト・ヒーローにこだわり、踏みとどまっている。

●「カンバセーションズ」のふたりだけの密話。

2006年10月27日 | Weblog
●10月28日(水)13-00 東銀座<松竹試写室>
M-125 「カンバセーションズ」Conversations with Other Women(2005)米
監督・ハンス・カノーザ 主演・ヘレナ・ボナム=カーター ★★★☆
リンクレーターの「ビフォア・サンセット」のように、男と女が話しまくる。
以前一緒だったカップルが、パーティで十数年ぶりに再会。
シナリオは面白いし、アーロン・エッカートとボナムのふたりも好演している。
しかし全編二分割した画面は落ち着きがない。
実験映画のつもりだろうが、「夜も楽しく」のように電話の場合と違って、一緒にいるのに2台のカメラの映像を両サイドから見せるものだから、野球のテレビ中継みたいに見える。
気持ちは判るが、見る側の疲れも考えて作ってくださいよ。

●「トゥモロー・ワールド」の悪夢への逃避行。

2006年10月24日 | Weblog
●10月23日(月)13-00 半蔵門<東宝東和試写室>
M-124 「トゥモロー・ワールド」The Children of Men (2006) universal
監督・アルフォンソ・キュアロン 主演・クライブ・オーエン ★★★☆☆☆
P.D.ジェームズの小説は2027年の設定だが、S.F.ではなくて、むしろ逃亡サスペンスだ。
荒廃しきったロンドンを舞台に、キュアロン監督はハンディ・カメラを駆使して縦横に動き回る。
「宇宙戦争」よりも、その逃亡の荒廃感はジョニー・デップの「デッドマン」に近い。
薬害汚染や少子化の果てに、人類は子供を産めなくなったという世界。
テロや侵略が相次いで、まさに地獄の様相だ。
思想よりもまず逃亡だ。
クライブ・オーエンは、活動家のジュリアン・ムーアから、妊娠中の黒人女性の護送を頼まれる。
政府軍が、新生児を回収するために逃亡を阻止しようとするので、銃撃戦が激化。
ラストの8分もの激戦逃亡長廻しカメラの迫力はスゴイ。
これで、なるほど、日劇でロードショウする意味がわかった。
非常にリアリティーのあるアクション映画である。

●「あるいは裏切りという名の犬」のネオ・ノワール感覚

2006年10月21日 | Weblog
●10月20日(金)13-00 六本木<アスミックエース試写室>
M-123 「あるいは裏切りという名の犬」36 Quai Des Orfevres (2005)仏
監督・オリヴィエ・マルシェル 主演・ダニエル・オートゥイユ ★★★☆☆
むかしジャン・ピエール・メルビルやジャック・ベッケル監督などが作ったフレンチ・ノワールの系列。
話も出来もいい。大好きなテイストの映画だ。
でもフランス映画らしいエスプリとか、ウィットとか、しゃれた大人の味わいが薄い。
これがデ・ニーロとジョージ・クルーニーでリメイクされるという噂は目に見えるようだ。
「インファナル・アフェア」のような警察内部の告発は「ダーティー・ハリー」以来沢山見て来たし、その結末も判る。
見たかったのは、フランス映画伝来の、怒りと報復の深みだったのだが、どうもハリウッドを意識した作りに、消沈した。

●「愛されるために、ここにいる」の中年期タンゴ・レッスン。

2006年10月18日 | Weblog
●10月18日(水)13-00 京橋<メディア・ボックス試写室>
M-122 「愛されるために、ここにいる」Je ne suis pas la' pour etre aime (2005)仏
監督・ステファヌ・ブリゼ 主演・パトリック・シェネ ★★★★
素晴らしいフレンチ・タッチの傑作。
50歳の中年男パトリックは、国税庁の管轄の滞納者立ち退き調査をしているので、その真面目さで妻に逃げられた。
ふと始めたタンゴ・レッスンで、若い女性教官に恋心を抱くが、いつもの冷たさが人を傷つけてしまう。
そんなストイックな日々だが、映画のタッチは非常に温かい。
間違いだらけの人生を、どうにか修正しようとする努力が、ひどく不器用で哀しい。
これもフランスの「男はつらいよ・シャル・ウィー・タンゴ」と言うべきか。
古風だが、心に染み込む傑作。
ふたりの主演俳優が、本当に素晴らしい。

●「父親たちの星条旗」の新しい解釈

2006年10月13日 | Weblog
●10月12日(木)12-30 日比谷<ワーナー試写室>
M-121 「父親たちの星条旗」Flags of Our Fathers (2006)warner
監督・クリント・イーストウッド 主演。ライアン・フィリップス ★★★☆☆☆
クリント・イーストウッドが異例の同時製作、監督した硫黄島二部作のアメリカ・サイド版。
あの硫黄島での壮絶な日本軍との戦いの勝利で、有名な星条旗の掲揚は、実はヤラセだったという、回想調査した小説をもとに描かれた戦争映画だ。
写真には6人の兵士の姿が写っているが、その中の3人は直後に戦死。
残った3人の兵隊は、直後にアメリカ本国に送還され、軍資金不足の折に、国債資金調達の広告塔として使われた。
彼らは「硫黄島の英雄」として騒がれたが、本当のヒーローは戦死していて、我々はクズだ。
つまり、「戦争にヒーローはいない」というクリントのメッセージが込められた作品なのだ。
モノトーンで描かれた戦場も、本土アメリカの風景も荒廃していて、今までに見た戦争映画とは違う。
もう一本の「硫黄島からの手紙」を見てみないと、全体の評価は出来ないが、少なくとも、製作のスピルバーグの映画のようなエンターテイメント性をなくした、イーストウッドの映画になっているのが嬉しかった。
ジョン・ウェインの「硫黄島の砂」も、かなり事実を描いていたことがよく判ったし、あの映画のラストで死んだジョン・ウェインが、ヒーローのひとりだったのが、これで認識できた。
日本人としては、必見の力作だろう。

●「モンスター・ハウス」はナイトメア・ビフォア・ハロウィーン。

2006年10月12日 | Weblog
●10月11日(水)13-00 汐留<スペースF.Sホール試写>
M-120 「モンスター・ハウス』MonsterHouse (2006) Colunbia
監督・ギル・ケナン 主演・(V)スティーブ・ブシェーミ ★★★☆
「ポーラー・エクスプレス」のロバート・ゼメキスとスティーブン・スピルバーグが、10回目のコンビで作ったハロウィーンのお化け屋敷映画。あの「アラバマ物語」の記憶が甦る。
またしても童心に帰って彼らが作った新作立体アニメはホラー・タッチだ。
ハロウィーンの前日。気になる近所の変な屋敷に、お菓子をねだりにふたりの少年と少女は前庭の芝生に足を入れた途端、そのホーンテッド。ハウスが怒り出す。
よく出来ているが、毎度のお子様向けアニメーション。
とくに新鮮なサプライズはなかった。

●「武士の一分」は一分の無駄もないバランスだ。

2006年10月10日 | Weblog
●10月10日(火)13-00 東銀座<松竹試写室>
M-119 「武士の一分」(2006) 松竹・日
監督・山田洋次 主演・木村拓哉 ★★★★☆☆
まさに研ぎすまされた刀のように、静かだが切れ味の鋭い、しかも清楚な無駄のない秀作。
藤沢周平の楚々としたストーリーを、ひとりの武士とその妻のラブストーリーとして、実に入念に作られた山田洋次美学に魅了される。日本人としての誇りと幸福を感じる2時間だ。
江戸時代。殿の食事の毒味事故で失明した若侍は、絶望して死を決意するが、妻の愛情で思いとどまる。
しかし幕府の恩赦が、妻の体を代償にした疑惑に悩み、悪代官に決死の決闘を挑むことになる。
武士の一分だ。譲れない、許せない一分を清算するために、武士は刀を抜いた。
風の音。虫の声。鳥の羽音。石ころの感触。
映画的な感性が、ピーンと張りつめた瞬間、勝負は決着した。
実にお見事な時代劇の美学は、まさに一分の隙もない。
木村拓哉の好演、それを支えた笹野高史の存在。
今年屈指の名作だ。