《内容》
家族であることとはいったい何なのか。父や伯父の持っていた教養、亡き妻との日々、全ては豊かな家族の思い出。懐かしさが胸にしみる著者初の長篇家族小説。 (紹介文より)
―――しかしながら、オヤジとじいさんの境目というのは一体どこにあるのか。オヤジが何を乗り越えればじいさんになるのだろう。 きれいなオヤジというのは珍しいが、きれいなじいさんというのはそこかしこにいるものだ (中略) つまり、じいさんというのは気の利いた存在だ。 それに引き替えオヤジというのは気の利かないことこの上ない。よかれと思って余計なことを言い、余計なことをするのがオヤジの身上と言ってもいい。頑固で傍若無人で怒っぽくて、脂ぎっててニンニクやホルモンや酒やタバコが大好きなのに陰では加齢臭を死ぬほど気にしていて、ひがみっぽくて卑屈で、威張っているくせに体力気力に自信がなくて、酒癖が悪くて酔っていなくてもしつこくて、だからみんなに嫌われる。
―――生きている人間は修正が利くが、死んだ人間のことなんか間違えて覚えていたらそのまんまじゃないか
―――やすらかには無理でも、すみやかに死んでいきたい。