《内容》
かつて一刀流道場の四天王の一人と謳われた瓜生新兵衛が、山間の小藩に帰ってきた。一八年前、勘定方だった新兵衛は、上役の不正を訴えたが認められず、藩を追われた。なぜ、今になって帰郷したのか?新兵衛を居候として迎えることになった甥の若き藩士、坂下藤吾は、迷惑なことと眉をひそめる。藤吾もまた、一年前に、勘定方であった父・源之進を切腹により失っていた。おりしも藩主代替わりをめぐり、側用人・榊原采女と家老・石田玄蕃の対立が先鋭化する中、新兵衛の帰郷は、澱のように淀んだ藩内の秘密を、白日のもとに曝そうとしていた―。 (紹介文より)
―――当時は何とも思わなかったが、生き生きとした自分がそこにいたことは間違いない。
(あの若者たちはどこへ行ってしまったのだろう)
皆それぞれに生きたきた澱を身にまとい、複雑なものを抱えた中年の男になってしまった。もはや昔のように率直に胸中を明かすことなどできはしないだろう
―――性格は違っても、ふたりとも純粋な志を持った明るい青年だった。
それが、永い歳月の後、それぞれが境遇は異なっても人生の苦さを胸に秘めた寂しさは似通っているように思える