《内容》
豊後・羽根藩の奥祐筆・檀野庄三郎は、城内で刃傷沙汰に及んだ末、からくも切腹を免れ、家老により向山村に幽閉中の元郡奉行・戸田秋谷の元へ遣わされる。秋谷は七年前、前藩主の側室と不義密通を犯した廉で、家譜編纂と十年後の切腹を命じられていた。庄三郎には編纂補助と監視、七年前の事件の真相探求の命が課される。だが、向山村に入った庄三郎は秋谷の清廉さに触れ、その無実を信じるようになり…。命を区切られた男の気高く凄絶な覚悟を穏やかな山間の風景の中に謳い上げる、感涙の時代小説。 (紹介文より)
―――親はこの世に生のある限り、子を守り、無事を祈り続けてくれるのだ。その思いに支えられて子は育つものなのだ、と親を亡くして初めて知った。
―――この世に生を受けるひとは数え切れぬほどおりますが、すべてのひとが縁によって結ばれているわけではございませぬ。縁で結ばれるとは、生きていくうえの支えになるということかと思います。
―――未練がないと申すは、この世に残る者の心を気遣うてはおらぬと言っておるに等しい。この世をいとおしい、去りとうない、と思うて逝かねば、残された者が行き暮れよう。