著者は女性専用車両という存在を、人種間の隔離になぞらえます。事実、かつてニューヨークで痴漢取り締まりを強化したがため、黒人とヒスパニック系に対する誤認逮捕が相次いだということがあったと言います。
そして痴漢行為に及ぶ者は若年層が多いにも関わらず、実際に逮捕され、また痴漢としてイメージされるのは中年男性が多いことを指摘(ただし、それが本当に正しいかどうかは疑問が残りますが)、またアンケート調査に寄せられた声なども根拠にして、女性専用車両の本質は「痴漢回避」ではなく「オヤジ忌避」にこそあるのだと喝破します。
他にも著者は治安悪化という俗説に反して痴漢被害が非常に少ないこと、アンケートを取ってみると、存外に女性の側からも女性専用車両は男性差別であるとの意見が寄せられたことなども挙げてみせます。
――こうして見ると、著者は男性、ことに中年男性を擁護しようとの意図を持って本書を書いたのだという確証を持たざるを得ません。
ところが。
読み進めるにつれ、著者はこんな恐ろしいことを言い出すのです。
同じ女性ですらオヤジ化すればさげすまれるのだから、異性のオヤジ(引用者註・即ち男性のオヤジ)がクサいといわれても仕方がない気がする。
何を言ってるんでしょう。
何だか知りませんが、著者に言わせると今の女性が「負け犬」「オニババ」と呼ばれていることの本質は「女性のオヤジ化現象」がさげすまれていることなのだそうです。
オヤジのいわゆる「加齢臭」は「女性のオヤジ化」とは関係ないのではないかとか、さげすんでいるのも女性の方だとか、いくらさげすまれようと女性は冤罪で逮捕まではされないではないかとか、そもそも「オヤジ」が忌避されるようなされ方で、「負け犬」や「オニババ」が忌避されているわけではないとか、著者の信じるように現代社会が男尊女卑であるのであれば、女性のオヤジ化はさげすまれてもエラい側の存在であるオヤジがさげすまれるはずはないのではないかとか、疑問が頭の中に百くらい浮かんできますが、それらはきっと、考えてはいけないことなのでしょう。
続いて著者は言います。
女性専用車両をつくり出す社会は、女性たちに向かって「君たちは弱者だ、守らなければならない」と語りかける。そして、働き続ける女性たちに「仕事に女性の幸せはない、その先には負け犬やオニババになることが待っているだけだ」と訴えるのだ。
もし女性専用車両自体が導入されていなければ、或いは廃止などされたら、この著者、真っ先に「女性を排斥しているのだ」などと言い出すのではないか……という気がしてしまいますが、それは著者の主張が矛盾することを意味していません。
「事実」がどうあろうが結論が変わらないことこそが、「女性専用車両」は「女性差別」であるとの「宇宙の真理」であることを意味しているのです。
そもそも社会学とは周知の通り、適当にデータを採って、そこに最初からあるポリティカルコレクトに敵った結論を取ってつける学問であります。データと結論とが互いに矛盾していようが、そんなことは問題でも何でもないのです。
社会学の例
1.今日は天気だ→女性差別だ
2.今日は雨だ→女性差別だ
その意味でまさしく本書は、「社会学」の名を冠するにふさわしい名著であると断言できましょう。
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