天愛元年

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新元号『天愛』元年にスタート

浪漫

2020-06-13 12:16:52 | 日記

 フィリピン沖では台風2号が発生し、湿気た生暑い風が侵入し、腋毛がぬめって、寝苦しく、午前3時前に目が覚めた。ついでにニューヨークの相場をラジオで聞いたら、NHKラジオ深夜便の日本の歌・心の歌は三波春夫というので、聞き続けた。東京五輪音頭を例の張りのある声で聞かせてもらったけれど、もう延期でケチがついたためか、コロナでそれどころではないためか、そんな歳を過ぎてしまったからか、来年の祭典に向けて少しも心躍らなくなった。平手造酒(大利根無情)までは歌ってくれなかったので、寝直すことにしたけれど、脇の下の湿り気が気になって寝付けなかった。「止めて下さるな、妙心殿」、などと口ずさむと、今時の小便臭い歌は聞く気になれない。と思ったりしているうちに、「明日へのことば」が始まり、京都にある「おもちゃ映画ミュージアム」の太田正男さんの話であった。何でも、おもちゃ映画とは、1930年代に無声映画からトーキーに切り替わった時に、不要となった無声映画の35ミリ・フィルムを裁断、小分けして、数秒、数分のハイライト・シーンを簡易映写機用に販売したものらしい。コロナ禍での製作難を反映して4年前のインタビューの再放送だった。その2年前にオープンしたとか言っていたけれど、面白そうなので、今度覗いてみようという気になった。
 『赤毛のアン』は第29章「不運な百合の乙女」まで来た。赤毛を緑に染めるとんでもないヘマをしでかすハイライトの前28章は、語尾に一呼吸とアクセントを置く最近のくそ女に共通の喋り方の通弊のような、わざとらしさと媚び、卑しさ、あざとさがない混ぜになったような臭みが感じられたので、敢えてパスした。またもや養父、マシューの出番である。この物語を優しくし、アンの活躍を盛り立てているのは、実にこの造形人物だと思う。仲間との物語クラブで創作したストーリーに沿って、船上葬送の場面を実演しようとして舟の水漏れから溺れかかった大失敗を養母、マリラらに反省するシーンである。アンはもうロマンスばかり追い求めるのは止めると約束するのだが、マリラが別の部屋に行った後、マシューがそっとアンの肩に手を載せ、「ロマンが全く無くなるのは良くないよ」と、ささやくところが泣かせる。もっともなことで、それが無くなれば小説が枯れて、このあと続かなくなってしまう。
"I feel sure I was born under an unlucky star. Everything I do gets me or my dearest friends into a scrape. We've gone and lost your father's flat, Diana, and I have a presentment that we'll not be allowed to row on the pond any more."
Anne's presentiment proved more trustworthy than presentiments are apt to do. Great was the consternation in the Barry and Cuthbert households when the events of the afternoon became known.
"Will you ever have any sense, Anne?" groaned Marilla.
"Oh, yes, I think I will, Marilla," returned Anne optimistically. A good cry, indulged in the grateful solitude of the east gable, had soothed her nerves and restored her to her wonted cheerfulness. "I think my prospects of becoming sensible are brighter now than ever."
"I don't see how," said Marilla.
"Well," explained Anne, "I've learned a new and valuable lesson today. Ever since I came to Green Gables I've been making mistakes, and each mistake has helped to cure me of some great shortcoming. The affair of the amethyst brooch cured me of meddling with things that didn't belong to me.The Haunted Wood mistake cured me of letting my imagination run away with me. The liniment cake mistake cured me of carelessness in cooking. Dyeing my hair cured me of vanity. I never think about my hair and nose now - at least, very seldom. And today's mistake is going to cure me of being too romantic. I have come to the conclusion that it is no use trying to be romantic in Avonlea. It was probably easy enough in towered Camelot hundreds of years ago, but romance is not appreciated now. I feel quite sure that you will soon see a great improvement in me in this respect, Marilla."
"I'm sure I hope so," said Marilla skeptically.
But Matthew, who had been sitting mutely in his corner, laid a hand on Anne's shoulder when Marilla had gone out.
"Don't give up all your romance, Anne," he whispered shyly, "a little of it is a good thing - not too much, of course - but keep a little of it, Anne, keep a little of it."

***この部分は、松本侑子訳によると;
 「きっと、私は不幸な星のもとに生まれたのね。私が何かするたびに、自分か親友がひどい目にあうもの。ダイアナのお父さんの小舟を池に沈めてなくしてしまったし。もう池で舟遊びをさせてもらえないかもね。そんな予感がするわ」
 悪い予感というものは大概、当たるものだが、アンのこの思いつきも、まさに言葉通りになった。この午後の一件を知って、バリー家もカスバート家も、すっかり肝をつぶした。
 「アン、いったい、いつになったら分別がつくんだね」マリラはうめくように言った。
 「大丈夫、大丈夫、そのうち身につくわ、マリラ」アンは楽天的に言った。二階の部屋で一人になって思う存分に泣いて心地よく涙を流したので、神経も休まり、いつもの元気をとりもどしていた。
 「私に分別がつく見こみは、前にくらべると、ずっとあると思うわ」
 「どうしてそんなこと言えるんだい」マリラは言った。
 「それはね」アンは説明を始めた。「今日、また一つ、大切な教訓を学んだもの。グリーン・ゲイブルズへ来てから、いろんな失敗をしたけど、そのたびに欠点がなおったわ。紫水晶(アメジスト)のブローチの件では、他の人の物をさわらなくなったし、《お化けの森》では、想像力のいきすぎがなおったわ。痛め止め入りのケーキの件では、集中してお料理をするようになったし、髪染めの件では、虚栄心がなおったのよ。この頃では、髪や鼻のことなんか、全然、考えなくなったのよ。――少なくとも、たまにしか考えないわ。それで今日の失敗は、ロマンチックになりすぎる癖をなおしてくれたのよ。それに、アヴォンリーでロマンチックを期待しても、無駄だって分かったの。何百年も昔の、塔がそびえる都キャメロットならともかく、この時代にロマンスなんて、あわないのよ。だから、そのうち、ロマンチックになりすぎるくせも、ぐっと改善されるのは確実よ」
 「そうなりゃ結構だと、私も確実に思っているよ」マリラは疑わしそうに言った。
 しかし、マリラが出ていくと、いつものように黙って隅にすわっていたマシューは、アンの肩に手を置くと、はにかみながら小さな声で言った。
 「おまえのロマンスだがね、すっかりやめてしまってはいけないよ、アン。ロマンスも、少しならいいものだよ。――むろん、度がすぎてはいかんよ――でも、少しは続けるんだよ、アン、ロマンスも少しはとっておくんだよ」

―――この辺りは、年を取って干からびていてもジンと来る。持って生まれた特性を自分も人も十分に発揮できるよう、お膳立てを整えることができればみんなスッキリする。特性は人それぞれ角度が異なるから、ぶつかって摩擦が生じるけれど、引いたり押したりしているうちに、何とか収まりどころを見つけるしかない。ただ、この呼吸が難しい。引くべきところで押したり、押すべきところを引いたりするから、そこじゃない! と怒られることがしばしばであった。特性の上に、時間や場所の要素が加われば、収拾がつかず、ミスマッチだらけとなる。それでもジンと来る、普遍的なものが存在するのだから、生きているうちはそれを探し続けなければならず、『赤毛のアン』を最後まで読み続けることにする。我慢できずに神秘の奥の方を早漏気味に覗いてみると、最後の行は;
 「『神は天に在り、この世はすべてよし』」アンはそっとつぶやいた。
 最後はこのセリフを英文で暗誦することにしよう。

夏の海
はみ出すかぎり
刈るべくも
すべて削がむは
撫子成らず



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