旭化成が東芝,東北電力,岩谷産業と進める再生可能エネルギー活用の【低コスト水素づくり】
財界online より 210501 北川 文子
水を電気分解して水素を作る──。
基本的な化学反応だが、実用化には高いハードルがある。電気分解に大量の電気を使うため、その電気をどう賄うかという問題だ。欧州は普及した再生可能エネルギーを使って水素を作り、既存パイプラインを活用して水素を供給する方針。その製造コストも日本に比べてはるかに安い。
一方、日本はインフラ整備もこれからだ。だが「後発だからこそ、新しい水素社会のモデルを作る余地がある」と関係者。課題は産業界全体を束ねる構想力だ──。
本誌・北川 文子 Text by Kitagawa Ayako
世界最大規模の水素製造装置 (写真)
昨年3月、世界最大の水素製造装置が福島県浪江町で稼働を始めた。水素製造には世界最大規模のアルカリ水電解システムが使用されているが、それを提供しているのが旭化成だ。
「再生可能エネルギーを活用したアルカリ水電解水素製造システムの技術開発を進めています」
(田村敏・旭化成常務執行役員・マーケティング&イノベーション本部長/グリーンソリューションプロジェクト長)
⚫︎水素への注目が高まる中、旭化成が水素製造の課題・高コスト問題に取り組んでいる。
旭化成は2017年に研究・開発本部内に『クリーンエネルギープロジェクト』を立ち上げ、水素を製造するアルカリ水電解技術の確立と実用化を進めてきたが、「全社の技術を俯瞰し、カーボンニュートラルの実現にビジネスとして取り組むため」、今年4月に社長直下の 『グリーンソリューションプロジェクト』を新たに設置。水素事業のビジネスモデル構築に向けて動き出した。
旭化成が水素関連で取り組むのが冒頭のNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)が公募した「電力系統の需給バランスを調整し、蓄電池を使わず、再生可能エネルギーを最大限利用してクリーンで低コストの水素を製造する技術」の確立。
東芝エネルギーシステムズ、東北電力、東北電力ネットワーク、岩谷産業、旭化成の5社で、福島県浪江町に世界最大規模の10MW級の水素製造装置(アルカリ水電解装置)を設置して実証実験を進めている。参加企業からもわかる通り、水素事業には産業界全体の協業が不可欠だ。
旭化成は1922年に創業、翌年に宮崎県延岡市の水力発電の電気を使い、水を電気分解して水素を製造。その水素を使って日本で初めてアンモニアの合成に成功した。また、1975年には食塩水を電気分解して塩素と苛性ソーダ製造の商業運転を世界で初めて開始。
旭化成は食塩電解槽と部材のイオン交換膜を両方供給できる世界唯一のメーカーで、イオン交換膜では世界シェア1位だ。
「食塩電解で培ってきた電解枠の技術、膜や電極などの要素技術を複合してシステム化する」(竹中克・旭化成上席執行役員研究・開発本部長)ことに強みを持つ。
蓄積してきた技術を活かし、浪江町の設備には1枚3㎡の大型膜を使用するなどして装置の大型化を実現している。
だが、食塩電解とアルカリ水電解では大きな違いが2つある。
今回の水電解では「変動運転」と「多頻度停止」に対応する技術開発が必要だからだ。
食塩電解が「安定電源を使って基本的には止めない」のに対し、再生可能エネルギーを使った水電解では天候に左右されるため「変動する電源に合わせて水素を作り、コストを最適化させる」必要がある(竹中氏)。
この課題に対し「データを活用して変動を予測することで、装置への負荷を最小化するシステムの開発や、変動に対する耐性の高い電解膜の開発などソフトとハードの両面で変動に対応する開発」を進めている。
⚫︎サプライチェーンを構築し総合力で勝負
「水素を作る技術が世界一だから、カーボンニュートラルを実現できるわけではない。総合力が問われている」(田村氏)
太陽光、風力発電と日本は技術開発でリードしながら、ビジネスモデルで負け、世界でのポジションを失った。
再生可能エネルギーに関しても欧州は2014年に気候変動対策をEU加盟国間で合意。19年には「欧州グリーン・ディール」を発表し、50年のカーボンニュートラルに向け、産業政策の見直しを進めてきた。その結果、デンマークは66%、ドイツは約40%を再生可能エネルギーが占める。日本は10%弱だ。
出遅れた日本だが、菅首相の「50年のカーボンニュートラル」宣言でCO?を制約要因から成長要因に転換し、企業が水素事業に参入できる環境ができてきた。
欧州は水素を供給するパイプラインが整備されている他、再生可能エネルギーを活用した安価な水素製造の道が見えている。
一方の日本には、安価な電源もパイプラインもない。
だが、「だからこそイノベーションが必要であり、デジタル技術を活用した連携による新たなビジネスモデル作りに成功すれば、パイプラインに依存しない日本独自のビジネスが実現できるかもしれない」と田村氏。
特に日本企業が持つ様々な技術は大きな強み。再生可能エネルギーが不安定なのは世界中どこでも同じ。「水素を作る技術、CO?を減らす技術などトータルで効率的な枠組み」など総合力で勝負する必要があるからだ。
2050年に向けて残された時間は約30年。「研究だけ先行しても実用化できなければ意味がない。旭化成は実業と研究を結び付けてきたDNAがある。目標が定まれば、技術者も大きな力が出せる」と田村氏は語る。
また「部分実証は(日本だけでなく)やれるところでやり、実績を積む」など開発スピードを速める他、一部でも事業化できるところから事業化するなど採算性も重視していく。
「食塩電解の事業では電解槽と膜を扱っているが、提供しているのは〝安定運転〟や〝安定供給〟といった無形資産。水素事業でもオペレーションそのものをデータの活用により最適に行うことが重要になってくる。サプライチェーン全体をデジタルでつなぎ、お客様の要求に応えていく。これは旭化成1社ではできない。その意味でも、目的を共有できるパートナーが重要」(竹中氏)だ。
エネルギー問題は安全保障問題にも絡む。各国が開発競争にしのぎを削る中、部材などの要素技術を持つ日本はオールジャパンで実績を上げられるか。その構想力が問われている。
💋政治も官僚も🙅♂️でいつもTop位置から転落中多数なだけに…