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⌘ AI研究第一人者・松尾豊氏が語る「日本でDXやAIの活用が進まない理由」 210528

2021-05-28 21:47:00 | ¿ はて?さて?びっくり!

AI研究の第一人者・松尾豊氏が語る「日本でDXやAIの活用が進まない理由」
    @DIME   より  210528

 2021年4月に開催された「AI EXPO」で、日本ディープラーニング協会主催の「DX時代のAI(ディープラーニング)活用最前線」という講演が、同協会理事長、東京大学大学院教授の松尾豊氏によって行われた。その講演の概要とともに、日本でDXが進まない理由をインタビューした内容を紹介する。

⚫︎DX 時代の AI(ディープラーニング)活用最前線
 データやデジタル活用の重要性は10~20年前から語られていたが、新しい要素としてAI、ディープラーニングが叫ばれている。
 松尾氏は、データの活用がビジネス上でできていないことが今の日本が抱えている課題であり、AIを用いてイノベーションを起こしていかなければならないと考えているという。
 現在は「ビジネスやDXの取り組みの中でどうディープラーニングを活用していくか」という課題をどう解決するかが昨今のテーマだ。

【プロフィール】松尾 豊氏 東京大学大学院工学系研究科 教授
1997年 東京大学工学部電子情報工学科卒業。2002年 同大学院博士課程修了。博士(工学)。産業技術総合研究所研究員、スタンフォード大学客員研究員を経て、2007年より東京大学大学院工学系研究科准教授、2014年より特任准教授、2019年より教授。専門分野は、人工知能、深層学習、ウェブマイニング。2014年から2018年まで人工知能学会 倫理委員長。2017年より日本ディープラーニング協会理事長。2019年よりソフトバンクグループ社外取締役。

1.具体的なディープラーニング活用事例
 まずは具体的にディープラーニングがどのようにビジネスの中で活用されているのかが紹介された。

・施設入館者の体表温の測定(顔認識のディープラーニングによる画像認識の処理)
・医療系のディープラーニング活用によるワクチン開発
・製造業での外観検査や食品工場での変色したジャガイモの選別
・日立造船のAI超音波深傷検査システム
(化学プラントの熱交換器の傷を超音波によって検査し、翌日には報告できるシステム)
・農業における農薬を撒くドローンや収穫ロボット ・水産業における養殖のスマート給餌
・漫画の自動翻訳や静止画のアニメーション化

このように、幅広い分野でディープラーニングの活用が進んでいる。

2.ディープラーニングの最新の技術的トレンド
 ディープラーニングは、どこまで技術が進んでいるのか。最新のトレンドが解説された。

●自然言語処理のTransformerモデル
 2012年にディープラーニングの画像認識精度が大きく向上したことでブレークスルーになりましたが、2018年には自然言語処理の分野が大きく発展しました。
 きっかけになったのがBERTであり、それを組み込んだTransformerモデルです。これはAttentionだけで構成されているのが特徴で、論文「Attention in All you need」で詳しく説明されています。

 Transformerを実現する上で重要な要素が自己教師あり学習です。これは主に穴埋め問題のような形式で自己学習を進めます。画像認識でいえば、画像の一部が欠けた状態から正しい画像を推測する「目隠し問題」、画像をわざとバラバラに崩して元に戻す「ジグソー」、画像をわざとランダムに回転させて元に戻す回転、白黒にしたものをもとに戻す「着色」などの学習方法があります。
 自己教師あり学習のメリットは、背後にある構造を学習することができること、目隠しする前の状態の教師データがあることで学習がどんどん進むということです。

●GPT-3
 Transformerと自己教師あり学習の組み合わせが強力であることを示した例があります。GPT-3のリリースです。
 GPT-3がビットコイン以来の技術革新であることを紹介する記事がネットに掲載されました。そして記事の文末には「この記事自体がGPT-3で書いたものだ」とネタばらしがされ、大変バズりました。人が書いた文章と大差ないものをコンピューターが書けるようになったのです。

 GPT-3が人間が書いたような記事を書けるようになるには、巨大なモデルでの学習が必要でした。1,750億個のパラメータ、4兆個の単語を学習することで、人間レベルのクオリティが可能になりました。
 また、英語の文を入力しHTMLで出力するといったツールもGPT-3で作ることができます。自然言語処理を学習するにあたってAIが使用するのはweb上の文章データです。
 つまり、web上のHTMLコードと自然言語の関係性も学んでいます。そのため、英語での指示を入力するとそれをweb上で実行するHTMLコマンドをすぐ出すことが可能です。プログラマーの仕事がなくなる日も近いかもしれません。

●画像の自動生成
他にはOPEN-AIが開発した画像生成するツールも注目を集めています。これはAIが言葉からそれに合った画像を自動生成することができ、まさに自動イラストレーターです。
 NeRFは正確な画像表現を可能にします。従来のピクセル等の画像だと拡大するとぼやけてしまい細部がわからなくなりますが、NeRFが見え方を学習することで「どこから見るか」を問わず常に鮮明な画像表示が可能です。NeRFの技術は人間の脳が画像を認識する方法に近いのではないかと考えています。

⚫︎企業がディープラーニング for DXを実現するには?
 続いて企業がAIを含むDX化を実現するには,どうすれば良いかというテーマで語られた。

1.日本のDXの特徴
「ITの浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる」という概念の元に進めていくのがDXです。
 DXはデジタイゼーションとデジタライゼーションの2つの側面に分けられます。デジタイゼーションは“アナログをデジタル化すること”、デジタライゼーションは“デジタル化したものを業務効率化や付加価値向上に活用すること”です。

 日本のDXの特徴はもともとあるものをデジタイゼーションして、そこからさらにデジタライゼーションするという流れが得意なこと。例えばタクシーの配車でいえばもともと客、オペレーター、ドライバー間の連絡はすべて人力で行われていました。AIによる配車の自動化を実現するにあたり、データ化して効率化してから新モデルを作るというやり方が採用されています。

しかし、海外だといきなりUberのような新しいモデルを作ってしまいます。

 小売の場合でも日本の場合は紙をデータ化して、顧客データを個別化するという流れが一般的です。しかし海外だとAmazon GOのようにアプリや商品・顔認識等のディープラーニング技術を活用して、いきなり新モデルの店舗を実現しました。

 DXが実現するのは、今ある業務の改善ではなく新モデルです。今後は全ての業務が単純化されほぼすべて自動化されます。

 ディープラーニングが企業に導入されることで、これまで十分に活用できていなかったようなデータも大幅に扱えるようになります。例えば顔、文字、画像といったリアル状況の活用、データを用いた予想の精度が上がる、自然言語生成や機械制御の自動化も可能です。

 従来技術でもDXは可能ですが、AIによってさらに可能性が広がっていくということ。AIからDXにキーワードが変わったというよりは、DXのなかにAIやディープラーニングという要素が加わったと考えるべきでしょう。

 DXによる単純化と自動化が進めばサプライサイドとデマンドサイドが近くなります。消費者にとっては早くなり安くなる、パーソナライズされたサービスを受けられるといったメリットが生まれる。DXによって今までできなかったことの実現や新しい付加価値が発見できるのです。この変化はあらゆる業界、産業で今後起こります。

2.企業はDXの中でAIをどう活用していくか
 企業がDXを進めるにあたっては、DXで何を目指すのかということ。最終的な目標設定とDXに関するリテラシーの強化が行われなければうまくいきません。

 特に開発やITに直接関わりのない経営陣や一般社員に対する働きかけは重要です。AIやDXのプロジェクトを進め技術に活用し、ソリューションにするには、全社の理解度を高める必要があります。

 一般社団法人 日本ディープラーニング協会(JDLA)では、こういった経営層や全社員へ向けた新AI基礎講座「AI For Everyone」を2021年5月6日に開講します。企業のDX実現に向けて経営層の目標設定、全社員のリテラシーの向上に寄与する講座です。

 JDLAが提供しているG検定(Deep Learning for GENERAL)はビジネスパーソン向け、E資格(Deep Learning for ENGINEER)はエンジニア向けの資格です。これらは取得したい資格の中でも近年上位にランクインしています。

 ただ、これらは非常に難易度が高い資格なので、すべての人が目指すには敷居が高いです。そのためJDLAは新たに「AI For Everyone」を設けることとしました。一般のビジネスパーソンや経営者がAIやディープラーニングをどのようにビジネス活用するかを理解する入り口になる講座です。

 今後もディープラーニングは大きく発展していきます。AI EXPOに来られているような意識の高い皆さんが企業で活躍しやすいような環境を作っていく必要があると考えており、JDLAではその支援を行なっていきます。

⚫︎松尾氏へのインタビュー
ここからは、今回の講演の結果を受け、松尾氏へインタビューした内容を紹介する。

―企業としてAI活用の最大のメリットはどんなことですか?

松尾氏:効率化と付加価値の創造という二つの要素です。
 要するに、コストを下げると売り上げを伸ばすことの両方です。
 日本の企業は効率化のほうに目が行きがちですが、新しいビジネスというのはほとんどの場合、従来の仕事を、例えばアプリのような形で提供して、その中でAIで活用しながら提供します。そして、従来(AIを)やらなかったような層の人たちまで認知させるといったものになります。

―我々一人一人がAIを勉強していかなければならないでしょうか。

松尾氏:日本では、勉強しなきゃとか、小学生、中学生、初等中等教育にどうやって入れるのとか、そういう話になってしまうのですが、実はもっとシンプルで『経済で儲けること』なんです。
 そう考えると今の時代の儲け方というのは、方向性としては1つしかなくて、どうやってデジタルを使って今までになかった形を作り出すのかという一点なんです。それを世界中の人たちがやっているので、日本の個人や会社も、どうやったらもっと儲かるんだろうと、もっと真剣に考えたほうがいい。
 そのために「しょうがないから勉強する」ということではなくて、人事では明らかに自分の人材としての付加価値が上がるので、自分の稼ぎを増やしていって、もっと良い環境で仕事をしたいと思うのであれば、勉強したほうがいい、というのは当然のことだと思います。

―AIに対する認識という点では、アメリカの企業に比べると日本は遅れているのですね。

松尾氏:AIだけでなく、デジタル全般に遅れています。根源的には、そのような『経済の戦い』をしていることに対して、なんでそんな形式的なことばっかり言ってるの?みたいなことを僕はよく感じています。
 中国人はもっとアグレッシブじゃないですか。それはそれで非常に良いことだと思います。シリコンバレーもそうですし。

―データの活用がビジネス上でできていないことが今の日本が抱えている課題とのことですが、なぜ日本は、データが活用できていないのでしょうか。

松尾氏:ITの活用が全産業で遅れてしまったこと、インターネットの世界的な企業が育たなかったこと(言語や文化の問題もあり)、年功序列が強く若い人が意思決定権を持てていないことなどが主な原因だと思います。

―日本は、海外のようにいきなり新しいモデルを作るのではなく、今後も順次、デジタライゼーションしていくのでしょうか。

松尾氏:いきなり新しいモデルを作るのは、新規事業的・スタートアップ的で、うまくいけば巨大な事業を作り上げられますが、確率は低いです。
 日本の大企業の多くがそうであるように、ある程度の売り上げのある歴史的・伝統的な事業があれば、それを自己否定するような破壊的な事業を作り出すのは苦手なので、デジタイゼーションして、デジタライゼーションするというステップを踏むやり方しか取れないことが多い、ということだと思います。
『両利きの経営(※)』で主張されているように、現状の事業の連続的な進化と、自己否定にもつながる新規事業の創出の両面を、しっかりやるべきだと思います。

(※世界的な経営学者であるスタンフォード大学のチャールズ・オライリー教授とハーバード大学のマイケル・タッシュマン教授による著書(2019))

―AIの言語と画像の処理能力は、今後どこまで上がっていくと思われていますか。

松尾氏:あんまり限界がないと考えています。
 AIは今、インターネットにおける2001年ぐらいの状態なんですよ。インターネットは1990年代後半にバブルになって、ネットバブルで2000年くらいに崩壊しているんですけど、それで終わりではなくて、そこからまた着実に進歩や進化をして今になりました。
 AIもほぼ一緒で、ディープラーニングという意味では、いったん落ち着いた気がしているんですが、そこからまた着実に伸びていくはず。
 インターネットが2000年、2010年、2020年と社会に浸透していったように、AIやディープラーニングも2020年から30年、40年というスパンで、上昇基調でどんどん使われるようになっていくと思います。いずれは、なくてはならないものになる。教育も大事だと思いますし、企業が早く活用してやってみるということもすごく大事だと思います。
 企業では現在、DX化が求められているが、AI(ディープラーニング)の活用も含めて検討すべきであることがわかった。
 「勉強しなきゃ」などの形式的な視点よりも、「経済的に儲ける」という考え方を持つことが分岐点となるのかもしれない
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🏢 東大生産技研 セメントなしで 砂同士を直接接着し建築材料 を製造する技術を  210528

2021-05-28 20:58:00 | 気になる モノ・コト

東大生産技研、セメントなしで砂同士を直接接着し建設材料を製造する技術
    BUILTx IT より 210528
   
 東京大学生産技術研究所の酒井雄也准教授は、セメントや樹脂などの接着成分を用いず、触媒によって砂同士を直接接着することで建設材料を製造する技術を開発した。

 代表的な建設材料であるコンクリートは、一般に、セメント、砂、砂利に水を加えて製造するが、近年は砂や砂利が世界的に不足している。また、セメント製造におけるCO2排出量は、全世界のCO2排出量の8%を占める。
 さらに、月や火星などでの建設も現実味を帯びる中、基地の材料は現地調達が望ましく、地球外では溶融法で必要となるエネルギーの確保や温度管理は容易ではないとされた。
 よって地球上に加え月面や火星でも入手でき、偏在せずに存在し、枯渇の心配がない原料を用い、低エネルギー消費で製造できる建設材料が求められてきた。

 同技術では、砂とアルコール、触媒を密閉容器に入れて加熱・冷却し、砂の化学結合を切断・再生することで、硬化体を製造する。
 製造後に生じるアルコール、触媒からなる廃液は繰り返し利用できる。
 SiO2(シリカ、二酸化ケイ素)を主成分とする珪砂、砂岩、ガラス、砂漠の砂などであれば接着が可能で、地殻はSiO2を主成分とする砂や砂利に覆われているため、地球上のあらゆる場所で原料を半無限に調達でき、枯渇の心配がなくなるという。

 SiO2は月や火星の砂の主成分でもあるため、月や火星での基地建設への応用も想定できる。また、溶融法の製造温度が1000度以上であるのに対し、同技術で必要な温度は最大で240度であるため、エネルギー消費やそれに伴うCO2の大幅な削減も期待できる。必要温度のさらなる低減も検討している。

 コンクリートは、溶脱や乾湿による体積変化が顕著だが、同技術は砂や砂利同士を直接接着する、いわば人口岩を作る技術だ。ケイ素を主体とする岩石に近いため、コンクリートと比較して高い耐久性が期待できるという。

 同成果は,東京大学生産技術研究所研究速報誌「生産研究」で2021年5月1日に公開した。
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🚀🤖JAXA 変形する月面ロボット タカラトミー開発協力 210528

2021-05-28 20:30:00 | 気になる モノ・コト

JAXAの「変形する月面ロボット」 タカラトミー開発協力の背景に「アイソボット」
  ITMediaニュース より  210528  芹澤隆徳

 JAXA(宇宙航空研究開発機構)は5月27日、タカラトミーなどと共同開発した「変形型月面ロボット」を月面でのデータ収集に活用すると発表した。タカラトミーの公式アカウントが「嘘みたいな本当の話」と伝え、Twitterでは「変形といえばタカラトミー」「トラスフォーマー?」などと盛り上がっている。

変形型月面ロボット。変形前の直径は約8cm、重量は約250g


 変形型月面ロボットは、直径約8センチの球形。動くときに球体が中央で割れて左右に延び、中からカメラが起き上がる仕組み。背後に伸ばしたスタビライザーでバランスをとり、外装をタイヤ代わりに回転させて移動する。

 JAXAはispaceが2022年に実施する月着陸ミッションを活用し、実際に月面を走らせる考え。月面ロボットは自走しながら写真を撮り、「レゴリス」と呼ばれる月の表面を覆う砂の挙動などを調べる。集めたデータはJAXAがトヨタ自動車と開発している「有人与圧ローバ」の改良に役立てる。

 変形型月面ロボットは2016年からJAXAとタカラトミーが共同研究してきたもので、19年にソニー、21年に同志社大学が加わった。ソニーは制御技術を提供している。

 研究代表者を務める同志社大学の渡辺公貴さん(生命医科学部教授)も前職はタカラトミー。動物型ロボット「マイクロペット」(2001年)や2足歩行ロボット「Omnibot 17μ i-SOBOT」(2007年)などを手掛け、それぞれギネスブックに登録された(世界最小の動物型ロボット、世界最小の販売している二足歩行ロボットとして)。

 タカラトミー在籍中にJAXA宇宙探査イノベーションハブの超⼩型変形月面ロボットの共同研究に携り、現在も共同研究を続けている渡辺さんは、変形型月面ロボットについて「若い⼈たちの科学技術への興味に繋がれば幸い」と話している。
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⚗️ 新潟大学 から 世界最高効率で水電解 可能な触媒 誕生  210528

2021-05-28 20:20:00 | 気になる モノ・コト

新潟大学の研究室から、世界最高の効率で水電解(水から水素を生成)を可能にする触媒が誕生
   にいがた経済新聞  より  210528

 新潟大学大学院の八木政行教授は28日に記者会見を開き、世界最小のエネルギーで水と酸素を水素へ電解可能な触媒の開発に成功したと発表した。
 「脱炭素」の流れの中で、既存の研究と比べて約2割の使用エネルギーを削減可能であるという高効率の触媒の今後の実用化研究には注目だ。

 全世界的に脱炭素社会への取組みが加速化する中で、クリーンエネルギーとして注目されている水素。その水素を生成する方法が水電解だ。
 自然エネルギーを利用して水素を生成する、いわゆる「グリーン水素」は、上手く利用できれば発電量が不安定な自然エネルギーの調整力としても期待できるため、特に注目度が高い。
 一方で、理論的には水の電気分解の電圧は約1.23Vだが、実際には水素を発生させるために余分な電圧(過電圧)が必要となり、特に水素発生電極(陽極)における電力の浪費が激しい。過電圧は触媒の素材に左右されるため、様々な触媒が研究・模索されてきた。



新たに開発された触媒

 八木教授によると、一般的に酸化物よりも硫化物を触媒に用いた方がこの過電圧を抑えられるが、硫化物も反応によってすぐに酸化してしまうことから、こうした水電解の実験にはあまり用いられていなかったという。

 今回開発された触媒は、チオ尿素と多孔性ニッケル基盤を摂氏450度で焼成し合成したもので、合成により基盤から多数のナノワイヤーが生えた独特の形状を持つ。
 このナノワイヤーは、硫化ニッケルを窒化炭素がコーティングする形になっており、所々に開いたコーティングの隙間の硫化ニッケルが反応して水素を生み出す。

 硫化ニッケルは本来であればすぐに酸化してしまうが、コーティングにより酸化が硫化ニッケルの表面のみに留められ、効率的に反応(水素の生成)をし続けることができるという。そのため既存の触媒と比較して消費する電力は2割減で、既存の研究の中では最も小さい。

 八木教授は開発の経緯について「本来であれば触媒にあまり用いられない硫化物を利用できないかと模索している中で生まれた」と話す。今回開発された触媒は国際特許の申請も出願されており、八木教授は今後、企業との協力も交えてより大きなプロジェクトにしていきたいと意欲を燃やす。

 変換効率の高さは顕著だが、今までの触媒に用いられてきた白金などに比べると材料費が安く、製造方法も比較的容易であることも重要だ。国では2030年頃には30円/Nm3程度にまで水素の価格を抑える構想を掲げており、それには水素生成のコスト削減が必要だ。
 課題もある。ごく細かなワイヤーが生えている構造は、化学的には安定した状態にあるが、一方で物理的な衝撃に弱いという。高効率な水素の合成を阻害しない改良が鍵だ。

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⚗️ 阪大 CO2を化学工業的に有用なCOに 低温で還元出来る触媒開発 ‘21/05

2021-05-28 20:19:00 | 気になる モノ・コト

阪大、CO2を化学工業的に有用なCOに150℃以下の低温で還元できる触媒を開発
    Myナビニュース より210528  波留久泉

 大阪大学(阪大)は5月26日、独自に開発した触媒を用いて、二酸化炭素(CO2)と水素(H2)を原料に、化学工業において有用な一酸化炭素(CO)を150℃以下の低温で製造することに成功したと発表した。
 同成果は、阪大大学院 工学研究科の桒原泰隆講師、同・山下弘巳教授らの研究チームによるもの。詳細は、英王立化学会誌「Journal of Materials Chemistry A」に掲載された。

 地球の気候変動の主たる原因物質とされ、その排出量削減が世界で進められているCO2。そのCO2を炭素資源と捉えて回収し、有用物質へと再利用する「CO2回収利用技術」の研究が進められている。
 CO2を有用物質へと還元して得られるのは、酸素を1つ取り除いたCOだ。COはヒトをはじめとする生物には有毒物質だが、有機合成におけるカルボニル原料や、アルコール、ガソリンやジェット燃料などの液体炭化水素の原料となる有用な化学原料でもある。

 現在、一般的にCOは、コークスや天然ガスに含まれるメタンガスと水蒸気とを800℃以上の高温で反応させることで製造されている。もし、それがCO2を変換することで作れれば、CO2の排出量を削減しつつ、有機合成の原料や内燃機関の燃料などの原料の製造を同時に達成することが可能となるのではと考えられている。

しかし、CO2をH2と反応させてCOと水(H2O)を製造する「逆水性ガスシフト反応」には従来500℃以上の高温が必要とされており、低温では低い反応率しか得られず、非効率という課題を抱えていた。

 これまで研究チームは、モリブデン酸化物に白金ナノ粒子を担持した触媒が、含酸素化合物から酸素原子を取り除く「脱酸素反応」に優れた触媒となることを突き止めていた。
 そこで今回の研究では、その触媒をCO2の水素化反応に用いることにしたという。
 そして実験の結果、COが高効率かつ選択的に生成されることが発見されたという。

 さらに新たに発見されたのが、その触媒に光を照射すると、還元反応速度が最大で約4倍にまで向上することであったという。
 中でも、厚さ40nmのナノシート状モリブデン酸化物に白金ナノ粒子を固定化した触媒においては、粒子状のモリブデン酸化物を用いた場合と比較して、約1.5倍のCO生成速度が得られたという。
 可視光を含む光照射下では、1.2mmol/g/hの反応速度でCOを生成することに成功したとしている。なお、この触媒において、白金ナノ粒子はH2分子を、モリブデン酸化物はCO2をそれぞれ活性化する役割を担っているという。

 今回開発された触媒を可視光照射下で反応に用いたときのCO生成速度の比較。紫外光、可視光、赤外光をまとめて照射したものが最も値が高い (出所:阪大Webサイト)



 今回開発された触媒のメリットは以下の通りで、研究チームでは実用化に不可欠な基盤要素を兼ね備えているとする。
・調製が簡便である
・分離・回収の容易な固体触媒である
・廃熱を利用可能な低温(140℃付近)でも駆動する
・触媒に可視光を照射することで、反応速度が向上する

 なお、今回の触媒は、再生エネルギーで生成された水素や、再生可能エネルギーの代表である太陽光などと組み合わせることで、CO2を効率的に有用物質のCOへと変換するためのクリーン技術として期待されると研究チームでは説明している。
 また、今回発見された触媒反応は、モリブデン酸化物の「表面プラズモン共鳴効果」に由来していることが実験的に裏付けられており、学術的にも極めて意義の高いものだとしている。


(他にも!)
・名工大、カーボンナノチューブを活用してCO2のCOへの容易な還元を実現

・早大、500℃以下の低温で二酸化炭素を一酸化炭素へと資源化することに成功

・千葉大、二酸化炭素を光の力で燃料に再生するCO2光燃料化の反応経路を解明

・人工光合成へ前進! 京大、CO2の回収・有効活用を実現する光触媒を開発
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