要旨
江國香織は女性や子供を主人公とした小説を多く手掛けている。江國の小説の特徴のひとつとして、ひらがなを多用した女性らしくやわらかな文体が挙げられる。本発表では江國香織の長編小説『神様のボート』第1章の文章を長い単位に分け、語種と品詞という観点から江國の文章のひらがな表記の特性について調査した。
調査の結果、和語と漢語においては形容詞・形容動詞、副詞、擬態語・擬声語をひらがな表記する傾向があり、中でも特に副詞をひらがな表記していることがわかった。また、外来語におけるひらがな表記語は「ずぼん」1語のみであったが、別の作品にも同じ表現が見られたことから、これは江國のこだわりであると考えられる。江國は語り手が目にした物事の状態や動作、語り手が耳にした音の表現といった語をひらがな表記することで、語り手の内面にある女性らしいやわらかさや幼さを表現していると考えられる。