和泉の日記。

気が向いたときに、ちょっとだけ。

自己責任

2021-04-22 17:40:27 | 小説。
何だかもう、生きることに疲れてしまった。
死にたいと願うようになってしまった。

体を壊した。
きっかけは勿論仕事だった。
過度の負荷に、体が耐え切れなかったのだろう。
上司にそのように相談すると、

「体調管理は自己責任だろう」

と切って捨てられた。
言葉のアヤ、というわけでもなくそのまま本当に解雇された。
正直、信じられなかった。
働け働け、と散々怒鳴りつけられて。
日常生活もままならない薄給でこき使われて。
挙句、体を壊したらそれは自己責任だという。

これまで、何度も死にたいくらいの目にあった。
仕事が辛い。上手くいかない。
それでも次々と仕事は降ってくる。休む暇などなく。
もがいてもがいて、もがき抜いた。
それでも尚、努力が足りないと言われ続けた。
僕はその言葉に突き動かされるように、働き続けた。
その結果が、これだ。

上司は自己責任だという。
では、上長たる責任はないのだろうか。
部下に適切以上の仕事を割り振ったり、メンテナンスを怠った責任は。

例えば、仕事上での成功はイコール会社の業績となり、上司の手柄となる。
しかし、失敗はどうだ。
上司は部下に責任を押し付け、自分は逃げるばかりだった。
そんな様子を、僕はもう何度も見てきた。
これが、会社の仕組みなのだと思った。
新陳代謝という名目で、罪もない後輩たちがどんどん首を切られていく。
僕は何とかその災厄から逃れるのに必死だった。
そして常套句、

「今の若者は使えない」

――使う側の才覚の問題だろう。
切れないナイフを切れるようにする。
もしくは切れなくても使えるよう工夫する。
それが管理者の仕事だ。
その仕事に対する責任を全うしているか?
しているわけがない。

だから、僕はもう疲れてしまった。

体を壊したのはいい機会だった。
会社を離れ、過去を振り返ると、沸々と怒りが湧いてくる。
僕は体を壊し、心も病んだ。
なのに会社は、すぐに交代人員を入れてそれで終わりだ。
今日もお金儲けに勤しんでいることだろう。
割に合わない。
全然、割に合わない。

死にたい、という思いと相俟って、僕の思考は飛躍する。
どうせ死ぬのなら、一矢報いてやろう。
自己責任と、会社は言った。
ならばその言葉を、そっくりそのまま返してやろう。
僕のような人間を生んだのはダレか。
責任の所在はどこなのか。

朝早く、駅の改札口前で見慣れた顔を見つける。
背後から忍び寄って、一突き。二突き。
拙い医学知識で、致命傷となりそうな部分を徹底的に破壊する。
何が起こったのか分からない、という顔だった。
僕を貶し、怒鳴り、こき使ったあの忌々しい顔とは比べ様もない。

「自己責任、なんでしょう?」

僕は低くそう言って、笑った。

彼は社内でもそこそこのポジションにいた。
若手のような、使い捨ての駒には勤まるまい。
その影響は、決して小さくないはずだ。
しかし彼は、死ぬべくして死んだ。
たとえ僕がやらなくても、いつか誰かが同じようなことをやっただろう。
何と言ったかな。

――そう、リスクマネジメント。

こうなることは、僕みたいな若造でも、分かりきったことだったのだ。
何も分からない若者を洗脳し、自分たちに都合よく働かせて。
不具合があれば、自己責任と一蹴する。
そんなことを繰り返せば、奴隷だって王を討つ。
簡単な話なのだ。
そんな簡単なことを予見できなかった、それは上司の。
会社の。

自己責任でしょう?

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2 コメント

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ブラックで好きです。こういうの (XX)
2021-04-22 18:17:12
皮肉が効いててブラックで好きです。

言葉なんかじゃ凶行は止められない。
ってのがねw

「逆怨みだ」
「なんで俺だけが」
「人のせいにするな」

存分に言いなさいよ。
今更結果は変わらないからw

みたいな。
返信する
Unknown (いずみ)
2021-04-22 21:07:07
感想ありがとうございます。

何か、ありのままを書きすぎて冷静になると恥ずかしいくらいなんですが。
まあ、いつも大体こんなの書いてます。

言葉じゃ凶行は止められないですよねー。
優しい言葉で救われる人もいるかもしれませんが、
そうとも限りませんしね。
返信する

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