菊池芽衣からの告白を断った。
彼女が、友人の北川聡道の想い人だったからだ。
それから程なくして、菊池は聡道と付き合うことになった。
なんと菊池の方から告白したという。
聡道は嬉しそうに言っていた。
ここまではいい。
少々引っかかるところがないではないが、聡道の想いは遂げられた。
素敵な恋愛物語だ。
問題は、菊池のそれからの行動だ。
彼女は隠れて僕にこんなことを言ってくる。
「聡道くんと付き合うようになったのよ。
まだ一緒に登下校するだけの仲だけど」
「昨日、帰り道で聡道くんから手を繋いできたわ。
ガラス細工でも扱うかのように、慎重な手付きだった。
優しい人なのね。
彼のいいところをひとつ見つけた気分よ」
「先週末に初めてデートをしたわ。
私の誕生日が近いから、とマフラーをプレゼントしてくれたの。
その後一緒にカフェでお喋りして、帰りは家まで送ってくれたわ。
・・・これは、私の家を知りたかったからかしら?」
「私の方からハグをしたわ。
彼は凄く喜んでいて、震えながら私の肩に手を回してきた。
慣れない力加減が可愛らしかったわね。
初めての彼女が、私みたいな女でいいのかしら、ふふ」
「付き合い始めてだいぶ経つけれど、彼が思い切ってキスをしてきたわ。
彼に似合わず、少し強引だった。
今まで我慢していたのね、色々と。
私も、嫌じゃなかったわ」
「多分、次のデートで初体験をすることになると思うわ。
私の家に家族が誰もいない日を教えたから。
彼ったら、途端に震えて挙動不審になるのよ。
そんなに私が欲しいのね」
僕は何を思えばいいのだろう。
友人と、一度は僕に告白してきた女性との関係の進展を聞かされて。
最初は疑問に思うだけだったのだが、聞いている内に――
奇妙な感覚に襲われるようになった。
友人が取られる、という感覚と。
僕のことを好きだったはずの女性が取られる、という感覚と。
嫉妬のような、興奮のような、不思議な気持ち。
この報告は、僕への復讐なのだろうか。
そんなことを、ふと思った。
色々考えを巡らせるが、もう遅い。
次の報告は――いつだろう。