大学の卒業を控え、4年ぶりに帰省することにした。
何もない田舎町が嫌で、近隣の栄えた町に出たのだが、良い選択だった。
適度に都会。適度に田舎。
それくらいの塩梅が、私にはちょうど良かった。
帰省するに当たって楽しみなことがある。
少し歳の離れた従兄弟、空(そら)だ。
私が故郷を離れる時に10歳だったので、今14歳か。
10歳にして美しい顔立ちの少年だった。
4年経って、さぞ美少年に育ったことだろう。
私の趣味ど真ん中、のはずである。
空に再会するのが、何よりの楽しみだ。
そう、従兄弟は結婚できるのだ。
年下の美少年を、より私好みに教育する。
その下調べが、今回の帰省の主な目的だった。
故郷の方で就職は決まっている。
就職したら、本格的に空との距離を詰めていくつもりだ。
そして、頃合いを見て結婚に・・・。
いや、気が早いか。
どうも気が高ぶっている。
それも仕方のないことなのだが。
「おかえり、茜」
電車を降り、ホームを出たところで母が出迎えてくれた。
「ただいま、お母さん」
実家に帰るのは久し振りだが、母に会うのはそれほどでもなかった。
たまに、今住んでいるアパートへ遊びに来てくれていたのだ。
一緒に駅を出て、街を見回す。
変わらないようでいて、やはり少し変わっていた。
高校時代の記憶は曖昧で、いい加減なものだったが、それでも分かる。
私は早速本題に入ることにした。
「空は元気にしてる?」
母はどこか嬉しそうに
「ええ、元気よぉ。今日も家に来て茜が帰ってくるのを楽しみにしてる」
おお、何と健気な。
可愛らしさで胸がキュンとする。
これはもう、決まったんじゃない?
私の将来、安泰なんじゃない?
駅からは母の車で10分程度。
懐かしの我が家へ帰ってきた。
表札が少しくすんでいて、4年の月日を感じた。
「お姉ちゃん!」
玄関を開けると、そこには髪の長い美少年が――
美少年?
・・・・・・
どっちかっつーと、美少女じゃね?
その美少女(?)は、私を見るなり抱き着いて来た。
ふわりと舞うサラサラの黒髪が、いい匂いを撒き散らしている。
「おかえり、お姉ちゃん!」
「えー・・・と、空?」
「うん、久し振りだから分からなかったでしょ?」
「髪、伸ばしたんだ?」
「そうだよ、これでもう――」
「男の子と間違われることもないよ!」
私の中で、何かが壊れた。
え、ちょっと待って。
空って、あの空だよね?
一緒にカブトムシ取りに行ったり、ゲームで遊んだりした。
男の子の趣味全開の遊びばかりで、非常に微笑ましかったんだけど。
「ねえ空。あなたって男の子――」
「実は女の子だったのでした!」
衝撃のカミングアウト。
動けない私に、抱き着いたままで空は続ける。
「お姉ちゃん、ぼくのこと男の子だと思ってたでしょ」
「・・・思って・・・ました・・・」
「ふふふ、いいんだー。最初は男の子っぽく攻めようと思ってたから」
穏やかじゃない言葉が並ぶ。
そりゃ、男の子にしちゃ背も低めだったし、顔も中性的だったけども。
実は、オンナノコ、でした。
「なんじゃそりゃあああああ!」
私は天を仰ぐ。
おお、神よ。
これは一体どういう仕打ちか。
大学で勉強頑張って、久し振りに想い人に会いに来たら実は女の子って。
「お姉ちゃんは・・・ぼくが女の子だと、いや?」
「いや、では、ない、デス」
「よかった!」
「はは、は、は」
笑い声がロボ化した。
「じゃ、今日は一緒にお風呂入ろうね」
「お風呂!?」
10歳時代の空とも一緒に入ったことないのに!?
いや、あれは空の作戦だった・・・?
自分を美少年と偽り、私の気を引くための・・・?
空がぱっと離れ、今度は手を握る。
「とにかく、中に入って!」
そういえば私はまだ玄関で立ち尽くしているのだった。
どうでもいい。
パニックだ。
私の頭が、情報を処理しきれていない。
「お姉ちゃん、こっちで就職するんでしょ?」
「え? ああ、うん」
「じゃあ、これから毎日仲良くできるね!」
とびきりの美少女スマイルで空が言う。
これは私の世界感が崩れかねない。
そんなことを思った。