和泉の日記。

気が向いたときに、ちょっとだけ。

教育

2024-06-17 14:19:46 | 小説。
何故この男は人を殺めたのか――?

至極当然な疑問。
動機の解明。
人を殺す程の強い思いとは何なのか。

怨恨にしては、被害者との接点がなさすぎる。
金銭にしては、被害者は何も奪われていない。
着衣の乱れもなく、強姦目的でもない。

たまたますれ違ったから殺した。
そうとしか思えない。

40がらみの男は、この疑問にこう答えている。

「パパが死んだから」

・・・父親の死で錯乱状態にあった、ということだろうか?

「違うよ。パパが死んで、悪いことをしても怒られなくなったからさ」

調べてみると、確かに犯行の前日に男の父親が亡くなっている。
死因は癌。
不審な点は見受けられない。

つまり、本当に、ただ父親に怒られなくなったから?
だから、悪いことをしても咎められることはないと?
逮捕され、裁かれるというのに?

「パパに怒られることに比べたら何でもないよ」

男は無邪気に笑った。
ただ人を殺してみたかっただけ。
今までやらなかったのは、父親に怒られるのが怖かったから。
父親が死んだ今、やりたいことは何でもできる。
手始めに殺人を――と、そういうことだろうか。

父の死によってタガが外れた、ただそれだけのこと。

何のことはない、男は最初から狂っていたのだ。
それを、おそらくは暴力で父は封じていた。
この歳になるまで、倫理観や道徳を持つことがなく。
ただ、悪いことをすると父に叱られる、という指針だけで生きてきた。

ここまで長期間、その狂気を表に出さなかったことこそ奇跡。
父親のこの教育は、果たして成功と言えるのだろうか。
自身が死んで――いなくなってしまえば何も残らない教育。

否、それもやむを得ない程の狂気だった、ということか。

とにかく、この男を放免してはいけない。
できれば死刑に処すべきだ。
それが世のためというものである。

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