2023年1 月 16-20 日、世界経済フォーラム(ダボス会議)がスイスで開かれ、世界各国から政府高官や企業経営者らが参集しました。
今回のテーマは、「分断された世界での協力」でしたが、
そうした中で大きな焦点を当てられたのが「ポリクライシス(polycrisis)」という新たな概念だったと報じられています。
1月の年次総会前の1月11日に公表した『グローバルリスク報告書2023年版』(Global Risks Report 2023)[World Economic Forum 2023]でも、
この言葉が1つの重要なキーワードをなし、これから2年後の、そして10年後の、予想されるクライシスのTOP10を、以下のように示しています。
「ポリクライシス(polycrisis)」とは、もともとフランスの社会学者エドガール・モラン(と共著者のアンヌ・ブリジット・カーン)が、
21世紀を迎えるにあたって、1999年の著書『母国としての地球』(Homeland Earth: A Manifesto for a New Millennium)のなかで用いた造語で、
現代の最も「生きた」問題は、単一の脅威ではなく、
「さまざまな問題、対立、危機、制御不能なプロセスの複雑な相互連帯であり、この惑星の全般的な危機である」と主張し、
これを「ポリクライシス」と名づけたのでした[Morin&Kern 1999,p. 74]。
すると2013年、これを承けて、南アフリカの社会学者マーク・スウィリングが、
ポリクライシスを「単一の原因に還元することを拒む、
グローバルに相互作用する社会経済的、生態学的、文化的、制度的な危機の入れ子集合(nested set)」[Swilling 2013, p.98]と定義し、
それ以降、気候変動、不平等の増大、金融危機の脅威など、グローバルな政治経済が直面する相互関連的な複数の危機を包括的に示すラベルとして
使用するようになったものでした[Swilling 2013; 2019]。
それがコロナ禍の今日、リアルな熱い関心を引くようになったのです。
1980年代以降始まった「トラウマの時代」[津田 2019,pp.17-27]の深まりとともに、
世界はまさに、そうした「ポリクライシスの時代」に突入しつつあるのではないでしょうか。
<文献>
Morin, E. & Kern, A. B., 1999. Homeland Earth: A Manifesto for the New Millenium. Advances in Systems Theory, Complexity, and the Human Sciences. Cresskill, N.J: Hampton Press.
Swilling, M., 2013 Economic Crisis, Long Waves and the Sustainability Transition: An African Perspective, in Environmental Innovation and Societal Transitions, vol.6, pp.96–115.
https://doi.org/10.1016/j.eist.2012.11.001.
———. 2019 Long Waves and the Sustainability Transition, in Handbook of Green Economics, Elsevier, pp.31–51.
https://doi.org/10.1016/B978-0-12-816635-2.00003-1.
津田真人, 2019 『「ポリヴェーガル理論」を読む――からだ・こころ・社会』星和書店。
World Economic Forum,2023 The Global Risks Report 2023 18th edition. Switzerland: Cologny/Geneva.
https://www.weforum.org/reports/global-risks-report-2023/digest
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