Dr. 讃井の集中治療のススメ

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M & Mとは何か:総論1

2012-01-01 00:20:13 | M&M

 

M&Mケース1ディスカッションが続くかと思わせておいて、いったんあらためてM&Mとは何か整理してみたいと思いましたので、まず総論1です。

 Morbidity & Mortality(合併症および死亡: M&M)カンファレンスは、診療の質および安全性を改善する目的で、不幸にして合併症が起きたケース、死亡したケースを同僚間で振り返る事例検討会の一つと言えるでしょうか。もう少し具体的には、事例を通して

(1)何が起きたか

(2)なぜ起きたか

(3)どうすべきであったか

の三つのキーワードを呪文のように唱えながら明らかにし、最終的にプロトコールの導入や診療の改善を図るものと筆者は定義しています(注1)。“失敗を認めそれを共有し、それまでの医療者個人や病院システムとしての判断や行動を修正する文化”が広まればいいのにと思い、ここ5年ほど院内外で活動してきました。

 では、M&Mと症例報告(検討)会はどのように違うのでしょうか。

 症例報告会は、外部公開が原則で、珍しい症例、困難だったが成功した症例を主な題材とし、ディスカッションは、「私たちは世界に珍しいこんな凄いことを行いました」ので「是非同じような経験をしたら試してみてください」という少し(かなり?)自慢の匂いのする、かつ学術的な内容がメインになると言えます。

 一方M&Mは外部非公開を前提とし、日常遭遇する症例の中から「やっちゃった」、「通常起らないとんでもないことが起った」教訓的な症例を題材として、root cause analysis(RCA: 根本要因分析)の手法を用いて体系的に要因を解析し、「そのとき何がどのような順序で起ったのですか」、「なぜそれをしたのですか(あるいはしなかったのですか)」、「どうすればよかったのですか」などの解析を行います。M&Mの究極の目標は、診療をより良くすることであり、決して「誰がそんなとんでもないことしたんだ」、「やったのはきみか」、「きみは明日からもう病院に来なくてよい」的な個人攻撃を決してせず、自由に議論できる雰囲気づくりを心がけ、ディスカッション後にtake home messages(お持ち帰るべき教訓)を持って帰ってもらうだけでなく、後日プロトコールやルールの改訂や作成、さらにその周知徹底を心がけます。

 ただし、事故の起り方として一般的に言われているように、事象は故意に起るものでは極めて稀ですし、単独の過失によって起るものも少なく、たとえば以下の要因が複数重なって起るものです。

 

人的要因/コミュニケーション

人的要因/教育

人的要因/疲労/労働環境

設備・機器の運用

設備・機器の設定

規則/方針/手順

防止策

患者・家族の対応

管理

 

いわゆるスイスチーズ・モデルですね(注2)。自分のM&M歴上もまったく同感です。

 ですから、医療ミスと騒ぎ立てられるべきものは本来的に少数派と思います。すなわち、医療ミスの正確な定義は知りませんが、多くの医療者が当然行うべき(または行ってはならない)標準的な医療行為を、怠った(またはやってしまった)結果、患者さんに不利益がもたらされたもので、明白な因果関係が認められるものと定義するとすれば、そのようなケースはむしろ少数派のようだ、ということです。実際は、それ単独では患者さんに害を及ぼさない程度の小さい過失や怠慢、リスクがあるのは承知で止むにやまれぬ理由があり行った(または行わなかった)結果起った合併症などがいくつも重なって起ることが多いでしょう。

 静かな当直中にブログを書いていたらいつの間にか年を越してしまいました。サンデーモーニング(TBS)の張本さんに“あっぱれ”をもらえるような一年にしたいと思います(日曜朝の寝ぼけた耳には“喝”はつらい)。

 つづく。

 

注1:実はM&Mの正確な定義、型が確立されているわけではありません。できるだけ事実関係をクリアーにしてRCAを行う事故調査委員会に近いもの、症例検討会に近いもの、レジデントと対話をしながらのインターアクティブカンファレンスに近いものなど、施設、目的、好みに合わせて変幻自在であってよいと考えています。

 ただし忘れてはならないのは、(1)何が起きたか、(2)なぜ起きたか、(3)どうすべきであったか、の3つの呪文です。これを忘れてしまうと、“失敗から学ぶ”モードから逸脱してしまいます。失敗は我々に強烈なイメージを与え、学ぶのに最も有用な材料に違いありませんが、同時に人間は忘れやすい動物でもあります。失敗から学ぶだけでなく“失敗しないシステムを作る”ところまで昇華させなければなりません。

 

注2:http://www.niph.go.jp/entrance/pdf_file/chapter5.pdf

 何スライスか重なったスイスチーズの一つのスライスに穴がいくつか開いていても、スライスが重なっていれば、通常はその穴が一直線に結ばれることはないので事故は起らない。事故が起る時にはその穴が一直線に連なった時である、というモデル。有名ですね。

 筆者は米国のサンドイッチチェーン店で始めてサンドイッチを注文する時にどのチーズを選ぶか店員に尋ねられ、雪印プロセスチーズ、カマンベール、ブルーチーズ、雪印ストリングチーズ以外にこんなにチーズの種類があるのかと、気を失いそうになった記憶があります。そもそも、このサンドイッチチェーン店は、パン、ハム、野菜、調味料などすべて自分で選ぶオーダーメイドシステムを採用しており、それらを英単語で店員に伝えなければならない、(鶏肉はムネでもモモでも同じ鶏肉じゃねーか [育ちが悪くてすいません]とか、ターキーとチキンどう違うんだろうと真剣に悩んだり、tomatoやmayonnaiseの発音に自信がない多くの)日本人(紛れもなく私もそうでした)にとっては大変面倒なシステムを採用しています。ただ、半年我慢して通いつづけると、everything(全部入れ)という便利なマジックワードも覚えるので餓死せずにすむようになり、スイスチーズなんか発音通じやすいから、注文できれば初級編クリアーということになります。ちなみにこのチェーン店はSubwayで日本にもできましたが、店員さんはあんまりこちらの我がままを聞いてくれず、さすが“マニュアルお客様対応天国”日本と感心した覚えがあります。

 


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