Dr. 讃井の集中治療のススメ

集中治療+αの話題をつれづれに

M&Mを始めよう(1)はじめに

2011-06-05 12:03:50 | M&M
せっかくJSEPTICホームページもリニュードしたことだし、ブログは継続して発信することが大切だし[1]、何かネタはないかな、と探しました。何か自分は皆様に有用な情報として発信できるネタを持っているかしら、と見回したら、意外に見つけるのは簡単でした(要は持ちネタが少ない、ということです)。院内外で、継続的に合併症・死亡(morbidity & mortality: M&M)カンファレンスを開催して今年で5年目になるので、これをテーマにしようと思いました。

予定している内容はM&Mの
・定義、歴史、方法、症例検討会との違い、分類、などの総論
・症例を通してそのやり方を学ぶ
・問題点、成功のためのキーワード
を予定しています。

想定した読者は
・単純に急性期医療、とくに重症患者診療に関して症例を通して勉強したい
・単純に他人の失敗、事象を見てそれを生かしたい
・医療安全・質が問われる昨今、 M&Mがどのようなモノか知りたい
・実際にM&Mを開催したいが、どのようにやったらよいかわからない
・院内でM&Mを開催したが頓挫した。復活したいができないでいる
方でしょうか。

この連載の一番の目的は、日本の医療界にも
 “失敗を認めそれを公開、共有し、そこから冷静に学び質の改善に結びつける文化を育てたい”
 “M&Mによって医療者、病院システムとして一種の生涯学習が可能である”
ということを伝えたい、ということになるでしょう。

1999年に、“To err is human”(医療は過誤という呪縛からは決して逃れることができない)という、驚愕の事実が確かなデータを持って公表されたました[2]。「入院させること自体が患者に新たな害を与え、退院後の生活の質を落とすばかりでなく死亡のリスクにさえ満ちている」、「病院ほど患者にとって危険な場所はない」などの耳の痛いコトバが喧伝されました。確かに、この事実は表向きは驚愕の事実に違いないのですが、多くの医療者は、「もしかしたらその通り病院は危険な場所であり、住み心地のよいところではない」と内心気づいていたが、その事実に真剣に目を向けずにいただけなのかもしれません。

このような背景から医療の安全と質に対する意識が高まりました。そのような思想に無垢(マジメ)な日本人も当然感化され、本家(米国)を凌駕する勢いで、全国の病院に雨後のタケノコのごとく医療安全委員会が設立されたました(余談ですが、日本の病院では、診療報酬の改訂があると雨後のタケノコのごとく◯◯部やXXチームができるのは日常茶飯事。お役所のチカラ、カネのチカラは大きいのです)。いずれにしても、実は病院は患者が害を被るリスクで充満しており、改善の余地が大きい。医療の安全と質を追求する社会的要請からは最早逃れられない。これらは疑う必要のない命題なのでしょう。

と、ここまで読んだ方は、ここで言うM&Mって医療安全の話なんだ、と思うかもしれません。いいえ、違います。実際、使い方によってM&Mが医療安全の向上に寄与するところも大ですが、このブログではむしろ医療者個人の知識、資質として改善できる点に比重が多く配分されることになるでしょう(詳細は後ほど)。ですから、“単純に急性期医療、とくに重症患者診療に関して症例を通して勉強したい”方や、“単純に他人の失敗、事象を見てそれを生かしたい” 方、大歓迎です。

最初に三つお断りです。第一に、本ブログに登場する症例は実際の症例がヒントになっていますが、内容は大きく変更してあり、個人情報が特定できないようにしてあります。第二に、このブログ内の情報の転載、転用は自由ですが、当方は一切責任を負いません。第三に、いままで私と一緒に院内、院外で開催したM&Mに協力してくれた多くの関係者のみなさま、とくに症例呈示や考察に関して寝る間を惜しんで手伝ってくれた心熱い若きドクターたちに、この場を借りて感謝申し上げます。

なんかこんなこと書くと、連載終了した気になってしまいますねー。先が思いやられますが、次回はM&Mの定義や歴史について整理したいと思います。

文献:
1. http://blog.goo.ne.jp/druchino
2. Kohn KT,et al, eds. To Err is Human: Building a Safer Health System. Washington, DC: Committee on Quality of Health Care in America, Institute of Medicine, National Academy Press; 1999.

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