Dr. 讃井の集中治療のススメ

集中治療+αの話題をつれづれに

M&Mの書籍が二冊刊行になりました

2013-10-23 01:20:39 | M&M



M&M(Morbidity and mortality:合併症および死亡)カンファレンスに関する本が二冊刊行されました。

 M&Mカンファレンスとは、院内で起こる重大事象、インシデント、アクシデントに関して、1. 何が起こったか、2. なぜ起こったか、3. 今後どうすべきか、を明らかにして、プロトコールやルールの作成・改変や自らの行動変容を通じて診療の質を改善しようとするカンファレンスです。

1. ER症例を通じてM&Mを成功させるまでの道のりを学びたいという方は、志賀 隆先生を始めとする東京ベイ市川・浦安医療センター救急科の皆様が中心となって作られた

エラーを防ごう! 救急M&Mカンファレンス: 成功するM&M導入のためのStep by Step(学研メディカル秀潤社)

2. ICU症例でM&Mの精神、やり方、ピットフォールを学びたいという方は、

M&Mで改善する! ICUの重症患者管理(羊土社)

http://www.amazon.co.jp/Mで改善する-ICUの重症患者管理~何が起きたか-なぜ起きたか-今後どうすべきか-同じエラーをくり返さないために/dp/4758117446/ref=pd_rhf_gw_p_t_2_WB54

をご覧下さい。

 どちらの本も、インシデント・アクシデントや多彩な困難症例が掲載されており、症例を通してM&Mの精神、やり方、ピットフォール、成功させるまでの道のりを学ぶことができますし、新たな医学的知識を増やすことが可能です。急性期が舞台ですが先生がたのさまざまな診療場面に置き換えて読むことができると思います。

 院内でM&Mを始めてみたいという方、途中で頓挫してしまったが復活を目指したい方、単純に症例ベースに勉強したい方にお薦めです。

以下、「M&Mで改善する! ICUの重症患者管理」のまえがきです。

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本書を手に取ってくださったみなさまへ

 随分長いこと集中治療室(ICU)で働いてきました。少なからず、いや多くの、人の死に立ち会って来ました。おそらくダメだろうと半ば諦めていたら回復し、人間の生命力に単純に感動したり、病勢が強すぎて何をやっても反応せず、こんなに人間はあっさり亡くなるのだと呆然とし、医療者としての無力感に苛まれたこともあります。

 救命できた患者さんよりもできなかった患者さんの方が長く記憶に残っています。おそらくみなさんもそうではないでしょうか。患者さんの死に直面する度に、そこに至るまでのプロセスを振り返り、何か異なる転帰をもたらすような介入ができたかどうか思いを巡らせます。みなさんも、もう少し早く介入ができていれば、あのときに違う選択をしていれば、もしかしたら転帰は変わっていたかもしれないと自然に考えますよね。

 ICUの代表的疾患である敗血症、急性呼吸促迫症候群の死亡率は依然として20~30%台と高く、多臓器不全になれば死亡率はうなぎのぼりに上昇します。ギリギリの分岐点に立たされたときに、選択の違いや決断の遅れで異なる転帰をもたらすこともあるのは確かです。しかし、あくまで後ろ向きに振り返り想定した分岐点ですし、異なる道を選択したら果たして結果が異なったかどうか決して明らかにはなりません。

 この「もし……」は、急性期に関わる多くの医師が患者さんの死に当たり自然に行う“振り返り”です。そして死から何か未来につながるものを得ようとします。本書の14例のケースカンファレンスのなかに、そのような患者さんの死や重大事象を未来に活かすべく、もがいている真摯な医療者の態度を垣間みることができます。一人でもがくのではなくチームでもがき、診療を改善しようとする医療者たちです。

 

本書の目的と対象読者

 本書を制作するに当たり2つの目的を設定しました。そして、それに応じた読者を想定しました。

 第一の目的は、M&Mカンファレンスになじみの薄い読者に、M&Mカンファレンスとは一体どのようなものかイメージをもってもらい、自分の部署で行う際のヒントとして活用してもらうというものです。したがって、対象とする読者は、

・医療の安全や質が問われる昨今、M&Mがどのようなモノか知りたい

・実際にM&Mを開催したいが、どのようにやったらよいかわからない

・院内でM&Mを開催したが頓挫した。復活したいができないでいる

 方でしょうか。職種や経験は特に問いません。14例のケースカンファレンスも、急性期で働く医療者以外にもできるだけわかりやすく共感できるように書かれています。

 第二の目的は、他人が経験した重大事象を純粋に教材として自己学習してもらうというものです。したがって対象の読者は

・急性期重症患者診療に関して症例を通して自分の知識を増やしたい

・他人の経験した重大事象から学び、自分の未来の診療に役立てたい

方で、ICUや救急部門で勉強中の若手医師ということになるでしょう。

 前者の“M&M知りたい派”の読者はいずれかのタイミングで「総論:M&Mを始めようM&Mとは何か?」や各ケースカンファレンスの最後に登場するコラム「M&Mを終えてDr. 讃井の一言」をお読みになることをお勧めします。

 一方、後者の“自己学習派”の読者は、総論を飛ばして興味が湧いたケースから気の向くままに読んでください。少し飽きたら箸休めに総論や「Dr. 讃井の一言」を覗いてみてください。臨床に役立つヒントが隠されているのに気づくでしょう。

 本邦でも、病院内の医療安全と質を高める動きが普及してきました。しかし、誤解が多かったり用語が一人歩きしたり、まだまだそのポテンシャルを十分に発揮できているとはいえません。筆者は、M&Mを通して

・失敗を認めそれを公開、共有し、そこから冷静に学び質の改善に結びつける文化を育て、

・医療者、病院システムとして一種の生涯学習を継続し、

・医療の安全と質を高めることに貢献する 

という、いささか不遜な野望をもっています。

 

本書内のカンファレンスについて

 以下にケースカンファレンスを読むに当たっての注意事項をお示しします。

・実際の症例がヒントになっているが細部は大幅に変更してある

・会話は記録や録音を書き取ったものではなく、完全な創作である

・会話に口語らしくない表現や説明的な表現が含まれている

・会話中に、良い会話例、悪い会話例を用いてカンファレンス運営上のヒントをちりばめた

 会話を読んで違和感を感じる読者がいらっしゃるかもしれませんが、文章としての読みやすさを求め、M&Mとはどんなものかをお知らせしたいという意図があっての結果であることをご了解いただければ幸いです。

 最後に、今まで私と一緒に院内や学会レべルで開催したM&Mカンファレンスに協力していただいた関係者のみなさま、寝る間を惜しんで文献を調べスライドを作ってくれた心熱い若きドクターたちに、特に本書のケースカンファレンスを創作してくれた将来有望な若き急性期ドクターたちにこの場を借りて御礼申し上げます。また、羊土社編集部の皆さん、特に職場まで頻繁にご足労願った保坂早苗さん、迅速に製作作業を進めてくれた中林雄高さん、そして今まで勉強させていただいた患者さんおよびその家族に感謝の意を表したいと思います。

 

2013年9月

自治医科大学附属さいたま医療センター 麻酔科・集中治療部

讃井將満


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