Dr. 讃井の集中治療のススメ

集中治療+αの話題をつれづれに

シンポジウム vs プロコン

2011-09-03 07:17:00 | その他

学会のシンポジウムを観察して気づくことがあります。

それは、各演者の意見がだんだん集約される方向に向かうこと。

通常シンポ形式の演者は舞台に立つと、“みんないい子になり”、実際の臨床の現場でやっていることにオブラートをかけ、よそいきの姿を見せがちです。また、どうしても自分の主張、強烈な反対意見も言いにくくなる。これはどうしても致し方ないことですし、そのような場で自分の意見を強烈に主張すると浮いてしまいますし。“空気”の支配力は相当強い。

集約された結論は、実は舞台の演者全員が実際の臨床でやっていることと若干異なる架空の理想(ちょっと気持ち悪いですね)になったりして、何となくみんな違和感を抱きつつ、議論の流れでそうなると、もう“そうなってしまう”。“そうなってしまう”と「変だなー」と思いつつ、舞台は舞台側でそれなりに納得してしまう。

一方、フロアの参加者は、「文献的に見る標準的な見解」、「現在の主流の見解」、「実際どうやっているかの現場情報」を知り、「それを自分の臨床のヒントにしたい」という理由でシンポに参加します。

フロアから見ると、“そうなってしまう”舞台の議論の流れに共感できれば良いが、「自分の臨床のヒントにしたい」内容が含まれていないと、舞台とフロアとの間に透明な垂れ幕が下りたようになってしまう。仮に議論の流れに共感できなくても、自分の共感できる意見の演者を見つけられれば、坐っているのは苦痛でないかもしれません。

その“共感できる演者”を人為的に持ってもらうための一つの方法は、プロコン形式でしょうか。

プロコンは言わば、“見る劇”としても面白いように配役、役作りまで決めて自説擁護、他説攻撃する形式と言えます。これは、題目によって1対1にしてもよいですし(たとえば蘇生輸液に何を使う:晶質液 vs 膠質液)、題目によっては中間派を入れて1対1対1ぐらいにしてもよい(晶質液のみ派 vs 膠質液のみ派 vs 玉虫色派。その方がフロアの安心感を担保することができます)。いずれにしても重要なのは、全体のテーマと主旨を理解して配役になりきることでしょうか。自分が演者としてその配役になったら、実は信じていないことでもそんな素振りは微塵も見せてはいけません。プロレスと一緒です(全国のプロレスファンの方ごめんなさい)。「◯◯先生のご意見のように私もXXと思いますが.....」なんて前置きしないで「◯◯先生のご意見にはまったく同意できません」と前置きできる勇気のある演者を配置するとおもしろい。

このようにしてプロコンがうまくが機能すれば、“舞台とフロアーとの間に透明な垂れ幕”はなくなるでしょう。その成功の第一の要件は、演者の選択だと思います。私達は俳優ではありませんので、信じていないものはどうしても主張しにくく、本音、弱みが露呈してしまう。信じていることを述べられる環境に演者を置いてあげる、ことが簡単です。ときに俳優の素因をもったドクターもいるので、そういう方はユーティリティーが高いと言えます。

第二の要件は、状況設定、ストーリー、シナリオ、台本作成と綿密な打ち合わせ、予行演習。学会の出し物の多くに興味をそそられないのは、テーマ自体に興味を持てないこともありますが、“見る劇”としても手抜きが見えてしまうという理由があるはず。その背景に、打ち合わせの時間が当日の朝だけで、しかもサンドイッチ食べてコーヒー飲んで終わり、という準備不足があるのは否定できない。みなさん忙しいですからね。

第三の要件は、テーマの選択。これはプロコンだけでなく、シンポにも言えることで、プロコン向きのテーマとシンポ向きのテーマがあるのかもしれません。臨床に身近な、結論が得られていない、他の人がどうしているのか知りたい、異論の多いもの(たとえば、◯◯術後の患者の鎮痛の選択:麻薬 vs NSAIDS vs 硬膜外)がプロコン向きと言えますし、あらかじめ予定調和的に結論の予測がつくものや、誰も結論を知らない未開拓なエリアに関する討論(たとえば医学教育、グローバル・ウォーミング)がシンポ向きでしょう。

第四は最も重要かもしれない司会の技量ですか。学会で観察していても「ああ、この先生うまいなー」と感心する先生は少なからずいらっしゃいますね。これは、1~3の要件の欠点を補うきわめて重要なパートです。

パネルディスカッションとシンポジウムはどう違うのか、という疑問もありますが、ここではこれ以上の突っ込みはやめておき、同類ということでお許しください。実際自分ではこれらの違いがよくわかっていません。

フロア,舞台含めて、できるだけ多くの方に満足して帰ってもらいたいと誰しも思うのですが、なかなか難しいところです。


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