Dr. 讃井の集中治療のススメ

集中治療+αの話題をつれづれに

集中治療において意識すべき5つのこと

2014-02-18 13:32:18 | 集中治療

ひさしぶりです。

「集中治療においてすべきでない5つのこと」が提言され、なるほどその通りとうなずかれた方も多いと思います。簡単に訳すと、

1. ルーチーンで不必要な検査はしない

2. 出血していない安定した患者ではヘモグロビン7g/dlを切るまで輸血しない

3. ICU入室前の栄養状態に問題のない患者では最初の7日間は経静脈栄養を行わない

4. 必要がなければ人工呼吸患者に対し深い鎮静を行わない。毎日浅くするよう試みる

5. 回復の見込みがきわめて厳しい状態の場合に、家族や患者に対し緩和的な治療方針の提示をすることなしに生命維持を継続してはならない

ということですが、

 

「集中治療において意識すべき5つのこと」を述べてみたいと思います(ずっと前に確か重症・集中ケアに書いた内容です)。それは、

1.三つの軸を意識する

2.数値、見た目を正常にすることがゴールではない

3.最終的なゴールは何かを意識する

4.疑問を大切にする

5.よく観察する人の意見は常に正しい

ひとつひとつ見て行きましょう。 

 

1. 三つの軸を意識する

 いくつか例を見てみましょう。

症例1:肺炎、敗血症性ショックの入室当日の患者さん。ノルアドレナリンを投与中。「尿量が減ったので利尿薬を使おう」と指示する研修医がいました。しかし、さきほど体位変換で血圧低下が見られたばかりです。

症例2:上肢の骨折手術を受けた全身状態の良い35歳の男性患者さんが、術後当日に乏尿になりました。研修医はラシックス®の指示を出しました。

症例3:肺炎、敗血症性ショックの入室2日目の患者さん。ノルアドレナリンを少しずつ減量中。ARDSになりました。指導医は「FiO21.0、PEEP15cmH2OでSpO2が86%しかない。利尿薬を使ってみようかな。反応が悪ければ血液浄化で除水しないとならないかも」とつぶやいています。

 症例1はショックでノルアドレナリンが必要な状態です。特に肺炎、敗血症性ショックという侵襲を受けてすぐの状態で、まだ血管外に水が逃げていく時期です。したがって、血管内容量が不足しているかもしれません。2~3日経過し、炎症が収まってくると間質に逃げていた水が血管内にもどってくる時期(=利尿期)に入ります。利尿薬により血管内容量がさらに減って腎血流量が下がり、腎機能が悪化してしまうかもしれません。利尿薬を使用する前に血管内容量、腎血流量、腎灌流圧が適切に保たれているか、尿カテーテルに閉塞がないかを確認することが必要です。

 症例2の場合も、手術当日なので、まだ血管外に水が逃げていく時期と考えてよいでしょう。ですから、症例1と同様むやみに利尿薬を投与するのは禁物で、まず血管内容量が十分かどうか確かめる必要があります。しかし、心エコー検査をしたり、心拍出量を測定したり、一回拍出量変動係数をチェックしたり、輸液ボーラス投与をする必要があるでしょうか。患者さんは軽症で全身状態が良いので「飲水を促す」という指示だけでよいかもしれませんよね。

 症例3でも、まだ血圧が安定しないにも関わらず、指導医が利尿薬の投与を考慮しています。重症のARDSで通常の呼吸器によるサポートも限界です。利尿により肺内水分量を減らし少しでも酸素化を良くしたい、というアイデアが頭をよぎります。

 つまり、症例1は、血管内容量を評価した後に利尿薬よりも輸液ボーラス投与をまず考えるべきですし、症例2介入は必要ないでしょうし、症例3では救命のために腎よりも肺を優先して治療しないとならない状況のようです。

 すなわち、重症患者さんの診療にあたる際には、三つの軸

(1)患者さんの全体像軸(重症度、既往歴、併存疾患)

(2)時間軸(侵襲を受けてからどれぐらい経過したか)

(3)重要臓器のトリアージ軸(その時点でどの臓器を優先して保護すべきか)

を念頭において治療に臨む必要があるということです。

 患者さんの重症度によってすぐに治療を開始すべきか、少し待てるかが決まります。また、どのような治療を行うかは心、腎、肺、中枢神経などの既往歴や併存疾患にも影響を受けます。さらに時間軸を意識しながらその時点で「どの臓器に最も余裕がないか、放置すれば命に関わるか」を考え、その臓器を優先したら他の何かを我慢しなければならないことが多いでしょう。同時にすべてのパラメーターを完璧にすることはできない、と考えておく方が自分の精神的にも安定します。

ブログをアップする時間があったら他にやることがあるだろう、という声なき声がなぜか聞こえますので、つづく。


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