知的財産研究室

弁護士高橋淳のブロクです。最高裁HPに掲載される最新判例等の知財に関する話題を取り上げます。

個別搬送装置審取

2012-03-11 15:54:25 | 最新知財裁判例

個別搬送装置審取
平成23年(行ケ)第10230号 審決取消請求事件(特許)
請求棄却
裁判所の判断は21頁以下
本件は、無効審判不成立審決に対する取消しを求めるものです。
争点は容易想到性の有無です。
1 本判決は、まず、甲1発明について、「甲1発明は,飲食客エリア内を飲食物を載置して循環する無端状の循環搬送路を備える循環型飲食物搬送装置に関し,人手を掛けずに注文飲食物を注文飲食客に手早く且つ確実に送り届けることができる専用の循環注文搬送路を設けた循環型飲食物搬送装置を提供することを目的として,審決が認定したとおり,「飲食店用の循環型飲食物搬送装置1に設けられる,飲食客の注文に応じて飲食物を個別に搬送する吊り下げ式循環注文搬送装置30であって,循環型飲食物搬送装置1の台に設けられた平行な2列の循環搬送路1a,1bの間に立設された支柱25に取り付けられ,且つ2列の循環搬送路1a,1bの両側において循環搬送路1a,1bに沿って設けられる無端状の部材28と,リニアモータにより無端状の部材28内を可動する吊り下げ体Tに設けられ,無端状の部材28に沿って正逆に循環移動する吊り下げ搬送トレー31とを備える飲食客の注文に応じて飲食物を個別に搬送する吊り下げ式循環注文搬送装置30。」という発明である」と認定した上で、以下のとおり原告の主張が採用できないことを淡々と述べています。
2 照明の存否に関する判断の誤り
2-1「『照明』の存在は個別搬送装置の発明の特定のための構成要素とはならない」につき
本判決は、原告の「個別搬送装置における進歩性の判断をする際には,個別搬送装置が取り付けられる別の装置に関する構成の差異を問題にする必要はないというべきであるところ,「照明」は個別搬送装置の構成ではなく,駆動装置に片持ちとしたトレーを支持するための支持板が透光性であることによる作用効果の前提でしかないから,個別搬送装置が取り付けられる循環搬送装置に関する限定要素(照明の存在)は個別搬送装置の発明の特定のための構成要素とはならない」との主張に対し、「本件特許の請求項1の記載からすれば,本件発明1の「循環搬送装置」において,「支柱」が「照明」を保持することは,その構成要件の要素となっていることは明らかである」、「本件発明1において,「支柱」が「照明」を保持することは,その課題解決のために,また,その効果を奏するための技術的意義を有する構成であることが明らか」と判断しました。
2-2 「循環搬送装置が『照明』を備えることは周知慣用技術にすぎない」
につき
本判決は、原告の「甲10文献,甲13文献,甲14文献及び甲18文献に記載された図面を例示として,循環搬送装置に「照明」が取り付けられていることは周知慣用技術である」との主張に対し、「確かに,前記(4)カのとおり,甲18文献の【使用状態参考図2】には,搬送ベルト下方に位置する山形様の図形の中に点線で円形の部材が描かれ,そこには「照明」という字句を伴う引出線が記載されており, 【意匠の説明】にも「『使用状態参考図2』に,搬送ベルト部下方には適宜照明器具等を配設し」と記載されていることから,甲18文献に記載されている部材は「照明」であると認められる」としつつ、「甲10文献,甲13文献及び甲14文献の各図に示される円形の部材については,各文献において符号が付されて説明されているわけではなく,発明の詳細な説明中には円形の部材についての説明は一切ないから,それらが直ちに「照明」であるとは認められない」、「甲18文献の【使用状態参考図2】に記載された照明の図形の形状と甲10文献,甲13文献,甲14文献の各円形の部材の形状とは,必ずしも同様の形状とはいえないばかりでなく,少なくとも,甲1 0文献の【図4】及び【図5】,甲13文献の【図1】記載の円形の部材の形態は,同じく出願人を原告とする乙4文献及び乙6文献の【図3】記載の円形の部材の形状とほぼ同様であるところ,後者は,符号の説明において明示的に「冷媒管」と記載されているから,前者も「冷媒管」である可能性があるというべきであり,その他の図面については特に円形の部材についての説明がなく,それらが「照明」か「冷媒管」等の他の部品かが明らかでない以上,これらの図形を「照明」が記載された周知技術の例示と認めることはできない」と述べた上で、「支柱の上部に照明を備えた循環搬送装置に関し,「照明」の記載があるのは甲18文献のみであるから,原告が提出した文献をもって,循環搬送装置の支柱の上部に「照明」を備えることが周知慣用の技術であるとはいえない」と判断しました。
3 容易想到性の判断の誤り
3-1 「『支持板』の代替性」につき
本判決は、「本件発明1及び2における「支持板上」を移動する「トレー」を備えておらず,また,かかるトレーを支持する「支持板」を構造上必要としていないことは明らかである」から、「甲1発明において,本件発明1及び2のような「支持板」
を設けようとする動機付けが働くと認めることはできない」し、また、「甲2発明は野菜選別装置であって甲2発明の選別装置Bは注文品を個別に搬送する装置ではないから,本件発明1及び2並びに甲1発明とは技術分野を異にするものである。そして,甲2発明のトレイ7は,開閉可能なように構成された底面を開くことで長もの野菜をその下方に用意されている回収箱12に落下供給するものであって,回収箱への長もの野菜の落下を妨げる構造は採り得ないから,本件発明1及び2のようにトレイ7を支持するように板状の部材を設けることは想定できないし,その動機付けがあるとはいえない。 さらに,前記(4)アのとおり,甲4文献に記載された支持構造は,「鮨皿載置板の脱着を容易に行え,清掃が容易で,常に清潔に保持しておける回転式カウンターを提供する」ものであり,そのため,清掃が必要なときには,鮨載置台32をチェーン24上方に容易に取外して周回溝14内を露出しうる」構造とし,また,その具体的構造として,チェーン24にL字形フック34により固定された鮨皿載置台32が流し11に立設された合成樹脂レール42で支持することとしたことが理解できる。一方,本件発明1及び2のトレーは,支持板上を前記フレームに沿って直線状に往復動するものであって,支持板はフレームから水平に延出して前記フレームが設けられた側のレーンの上方においてレーンに沿って配置されるものであるから,甲4文献に記載された支持構造のような周回溝を設けておらず,また,鮨皿載置板を容易に取りはずさねばならないような支持構造を採用する必要性もないものである」から,「甲4文献に記載された支持構造を甲1発明に適用することは想定できず,その動機付けもあるとはいえない」と判断しました。
3-2 「『支持板』の『透光性』」につき
本判決は、原告の「甲2発明においてチェーンと支持レールR間が中空(究極の透光性を備える)であることから,甲1発明に甲2発明を適用しトレーの支持構造に支持板を用いる際に,支持板を透光性とすることは容易であるとか,甲5文献には,回転式飲食台において飲食物を搬送するクレセントチェーンの上方を被覆する載置台を透明にする技術が開示されているから,載置台を通して商品を見やすくするために,トレーの支持構造を構成する支持板を透光性のものとすることは,回転寿司の搬送装置の技術分野においては,特筆すべき事柄ではない」などの主張に対し、「甲1発明においては,循環型飲食物搬送装置1の支柱25が「照明」を保持しているとは認められない。また,吊り下げ式の循環注文搬送装置30を介して循環型飲食物搬送装置1の搬送路(レーン)を照明することを示唆する記載は見出せない」ことから、「甲1発明においては,「照明」との関係で「透光性」を有するものを設けることは想定できないというべきである」と判断しました。
また,甲2発明について,「野菜を回収箱12に落とすために開口部が設けられているのであって,下方へ光を当てる点についてはもともと全く考慮されていないから,甲2発明においてチェーンと支持レールR間が中空(究極の透光性を備える)であるとの原告の主張は「支持板」が「透光性」を有することの想到容易性に関しては無意味な主張というべきである」と判断しました。 
本判決は、原告の詳細な主張を採用せず、容易想到性を否定した事例として参考になるものと思われます。


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