平成24年7月19日判決言渡
平成23年(行ケ)第10394号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成24年6月28日
1 本件は,拒絶査定不服審判不成立審決の取消を求める事案です。
2
2-1
本判決は、まず、原告の「引用発明2の目的は,作業ドクタの当て付け角度(撓み量)を管理してアニロックスローラを押圧する押圧力を管理することではなく,作業ドクタの撓み量を管理して「作業ドクタの目下の摩耗を再現可能に検出する」ことであり,本願発明とは目的が異なるものであるから,引用発明2を引用発明1に適用する動機付けが存在しない」旨の主張に対し、「なるほど,引用文献2(甲10)の段落【0008】には,「解決策として与えられるのは,作業ドクタを後調節ねじによってローラに押し付けて,制御不能なドクタブレードのリバウンドまたは押し戻しが回避されるようにすることである。それというのは,ドクタブレードがそのガイド内で後調節ねじによって固定的に規定されたポジションに保持されるからである。しかしながらこの場合,ドクタブレードを場合によっては手によって後調節するために,印刷者が,摩耗に起因するドクタブレードのすり減らしをコントロールすることを可能にするようにしなければならない。」との記載があり,段落【0010】には,「【発明が解決しようとする課題】本発明の課題は,輪転印刷機のインキ装置に設けられたドクタ装置を改良して,簡単な構造を有しており,印刷者にとって,作業ドクタの目下の摩擦を再現可能に検出して作業ドクタの最適な運転ポジションへの追従を簡単にすることが可能であるようなドクタ装置を提供することである。」との記載があり,これらの記載によれば,引用発明2は,摩耗に起因するドクタブレードのすり減らしをコントロールすることを課題としていることが認められる」と認定しつつ、「引用文献2の記載事項(段落【0013】の「作業ドクタは以下に『第1のポジション』と呼ぶポジションに位置することができる。この第1のポジションにおいては,(省略)作業ドクタはアニロックスローラに当て付けられている。」,「作業ドクタは第1のポジションにおいて規定された長さを有し,アニロックスローラの規定の個所に,規定された当て付け角度を成して,規定の当て付け力を伴って当て付けられている。」,段落【0030】の「間隔センサ46,例えば機械的に作用するフィーラが配置されている。このフィーラの検出ヘッド47は,直接的に作業ドクタ2に当て付けられ,作業ドクタ2のポジション変更に追従する」,段落【0031】の「間隔センサ46,例えば機械的に作用するフィーラが作業ドクタ2と常にコンタクト状態にあり,」)によれば,引用発明2において,作業ドクタの目下の摩耗を再現可能に検出するのは,摩耗に起因して変化する,作業ドクタの基体に対する作業ドクタの相対位置の変化を検出し,作業ドクタを第1のポジションに位置させることで,アニロックスローラの規定の個所に,規定された当て付け角度を成して,規定の当て付け力を伴って当て付けるためであることが認められる」と認定した上。「アニロックスローラへの当て付け角度は,作業ドクタの撓み量に対応し,当て付け力は,押圧力に対応する物理量であるから,引用発明2は,作業ドクタの摩耗が原因となって変化することを想定した作業ドクタの撓み量ではあるものの,作業ドクタの撓み量を把握することを課題としていることは明らかである」と述べ、「作業ドクタの撓み量を把握するという目的は,グラビア塗布装置における普遍的な目的であるから,引用発明1においても自明の目的であるといえる」と判断し,「引用発明1と引用発明2とは,その目的を共通にするものであるから,引用発明1に引用発明2を適用する動機付けは存在するといえる」と結論づけました。
2-2
本判決は、次に、「引用発明2の「基体14」は本願発明の「ブレード基台」に相当し,引用発明2の「作業ドクタ2」は本願発明の「ブレード」に相当し,また,本願発明において「同先端縁(ブレードホルダの先端縁 )までの相対距離を測定する」ことと,引用発明2において「作業ドクタ2のポジションを検出する」こととは,ブレード(作業ドクタ2)の先端縁近傍の位置を把握し,もって,ブレード(作業ドクタ2)の撓み量を把握することが目的である点で共通するから,引用発明2の「間隔センサ46」は,本願発明の「傾斜方向測定手段」に相当する。引用発明2では,本願発明においてブレードを支持するブレードホルダのような構成を欠くため,本願発明のように「同先端縁(ブレードホルダの先端縁)までの相対距離を測定するという構成にはなっていないが,ブレードの撓み量を把握するという目的との関係で重要なことは,ブレードの先端縁近傍の位置を測定することであるから,ブレード及びブレードホルダを備えた塗布装置にあっては,ブレードの先端縁を測定するか,ブレードホルダの先端縁を測定するかは,当業者が適宜選択し得ることである。また,グラビアロールの外周面に塗布液が良好な状態で付着するようにするため,作業ドクタの撓み量が適切な範囲になるようにすることは,グラビア塗布装置における普遍的な目的であり,引用発明1においても自明の課題であるから,作業ドクタの当て付け角度(すなわち,撓み量)が適切な範囲になるようにするために作業ドクタの位置を検出するものである引用発明2を引用発明1に適用する動機付けは存在する」と判断し,「引用発明1に引用発明2を適用するとともに,引用発明1のドクター刃支持部13の先端縁までの相対距離を測定するようにして,相違点2に係る本願発明の構成とすることは,当業者が容易に想到し得ることである」と結論づけました。
3 本判決は、作業ドクタの撓み量が適切な範囲になるようにすることは,グラビア塗布装置における普遍的な目的であることを根拠の一つとして容易想到性を肯定したものとして参考になると思われます。
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