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知的財産研究室

弁護士高橋淳のブロクです。最高裁HPに掲載される最新判例等の知財に関する話題を取り上げます。

パワーウエーブ審取

2012-08-13 16:49:26 | 最新知財裁判例

平成24年7月19日判決言渡
平成23年(行ケ)第10375号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成24年5月29日
1 本件は,無効審判不成立審決の取消を求める事案です。
2 
2-1 本判決は、商標の類否に関し、まず、外観について、「引用商標は,上段の「POWERWAVE」と下段の「パワーウェーブ」とが全体としてまとまった外観を呈しており,これを全体として本願商標の「POWERWEB」と対比すると,両商標が外観上相違することは明白である。もっとも,引用商標の下段の「パワーウェーブ」は,上段の「POWERWAVE」の読みを表したものと容易に理解することができるから,引用商標に接した取引者,需要者は,上段の「POWERWAVE」のみを記憶に留めるか,あるいは,下段の「パワーウェーブ」よりも上段の「POWERWAVE」をより強く記憶に留めるということも十分に考えられ,また,上段下段とも記憶には留めたとしても,本願商標に接した際に,引用商標の上段のみを想起するということも考えられる。このような場合には,本願商標と引用商標の外観上の類否の判断は,本願商標の「POWERWEB」と,引用商標上段の「POWERWAVE」とを比較対照して行うのが相当である」と述べた上,「「POWERWEB」と「POWERWAVE」とを比較対照すると,両者は,語頭からの6文字「POWERW」を共通にする。しかし,両者を構成する文字数は8文字ないし9文字と比較的少なく,このうちの2文字ないし3文字は全く異なっている。また,「POWERWEB」は,英単語の「power」と「web」に相当する「POWER」と「WEB」の2つの単語を組み合わせたものであり,「POWERWAVE」は,英単語の「power」と「wave」に相当する「POWER」と「WAVE」の2つの単語を組み合わせたものであることは,一般人にとって容易に理解可能であり,「POWER」,「WEB」,「WAVE」のように,一般人にとって観念を容易に想起し得る単語を組み合わせた語について,これを構成する単語に分けてその外観を認識することは通常のことである。加えて,「パワー(power)」を包含するスポーツ用語は各種スポーツの分野で数多く使用されており〔「パワー(power)」は,筋力と筋収縮速度で決定される単位時間当たりの仕事量等を意味するスポーツ用語として普通に使用されている(甲83,88,90,93)。また,「パワー(power)」を語頭に含む言葉は多数あり,スポーツ用語として普通に使用されている(「パワープレー(powerplay)」について,甲21,22,78~83,85,86,88,89,96,「powerlifting(パワーリフティング)」について,甲23,76,79,80,88,90,92,96,その他に「パワー(power)」を含むスポーツ用語が使用されている例として,甲78,81~92,94~96がある。)〕,スポーツ関係の商品に使用される「POWER」の文字の自他商品識別力は,同じくスポーツ関係の商品に使用される「WEB」及び「WAVE」の文字の自他商品識別力よりも強いものとはいえない。なお,「POWER」を語頭に含む登録商標は少なくとも60以上あるから(甲99),第24類「運動用特殊靴,その他の運動具」を指定商品として「POWER」の文字のみからなる登録商標(乙5)が存在することは,この認定の妨げとなるものではない。そして,本願商標と引用商標の指定商品は,いずれもスポーツ関係のものである」と指摘した上,「「POWERWEB」と「POWERWAVE」の類否の判断において,両者がいずれも一般人にとって観念を容易に想起し得る単語を組み合わせた語であることや,スポーツ関係の商品に使用される「POWER」の自他商品識別力と「WEB」及び「WAVE」のそれとの相違を考慮することなく,それぞれを構成する文字の共通性のみを強調することは相当ではなく,「POWER」と組み合わされた「WEB」と「WAVE」の外観上の相違を軽視することはできないというべきである。そして,「POWER」と組み合わされた「WEB」と「WAVE」とは,語頭の「W」を共通にするのみであり,その他の文字及びその配列に共通性はない」と判断し,「「POWERWEB」と「POWERWAVE」とは,外観において相違するというべきである。したがって,本願商標と引用商標とは,外観において相違する」と結論づけました。
2-2
本判決は、次に、観念について、「本願商標からは「力のある網」,「力のある網目」,「力のあるワールドワイドウェブ」程度の観念が生じ,引用商標からは「力のある波」,「力のある波動」程度の観念が生じるから,両商標は観念においても相違する」と判断しました。
2-3 
本判決は、さらに、称呼について、「本願商標からは「パワーウェブ」,「パワーウエブ」,「パワーウエッブ」とった称呼を生じ,引用商標からは「パワーウェーブ」という称呼を生じるから,両商標の称呼上の差異は,「ウェ」に続く長音「ー」の有無のみであるか,あるいは,「ウ」に続く称呼が「エ」又は「エッ」であるか,「ェー」であるかのみである」と認定しつつ,「「POWERWEB」は,「POWER」と「WEB」の2つの単語を組み合わせたものであり,「POWERWAVE」は,「POWER」と「WAVE」の2つの単語を組み合わせたものであることは,一般人にとって容易に理解可能であり,「POWER」,「WEB」,「WAVE」は,いずれも一般人にとって観念を容易に想起し得る単語であること,スポーツ関係の商品に使用される「POWER」の文字の自他商品識別力は,同じくスポーツ関係の商品に使用される「WEB」及び「WAVE」の文字の自他商品識別力よりも強いものとはいえないことからすると,両商標の語調語感は自ずと相異なる」と判断し,「両商標は,称呼上類似はするものの,両商標を聞き分けることは必ずしも困難なことではない」と結論づけました。
2-4
本判決は、続いて、「本願商標と引用商標とは,外観及び観念において相違し,称呼上類似はするものの,両商標を聞き分けることは必ずしも困難なことではないこと,また,取引の実情として,外観や観念よりも称呼によって商品の出所を識別しているなど,称呼上の識別性が外観及び観念上の識別性を上回っているような事情は認められないことに照らせば,両商標は,外観及び観念上の相違が称呼上の類似性を凌駕するものというべきである」と結論づけました。
3 本判決は、取引の実情を考慮し、称呼上の類似性を肯定しつつ、外観及び観念上の相違がこれを凌駕するとして、商標の類否を否定したものとして参考になると思われます。


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