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知的財産研究室

弁護士高橋淳のブロクです。最高裁HPに掲載される最新判例等の知財に関する話題を取り上げます。

樹脂分散液審取

2012-03-11 13:48:12 | 最新知財裁判例

樹脂分散液審取
平成23年(行ケ)第10152号 審決取消請求事件
請求認容
裁判所の判断は14頁以下
本件は、拒絶不服審判不成立審決に対する取消しを求めるものです。
争点は容易想到性の存否です。
本判決は、本願発明と引用発明の相違点について、「酸変性塩素化ポリオレフィンを製造するための酸変性の方法が,本願発明では,ポリオレフィンに「無水マレイン酸のみ」を1~5重量%グラフト共重合するという方法であるのに対し,引用発明では「アクリル酸系モノマー」を塩素化ポリオレフィンにグラフト化及び重合させるという方法であるという点で相違する」、「引用発明においては,塩素化ポリオレフィンをアクリル酸系誘導体(判決注:「アクリル酸系ポリマー」や「アクリル酸系樹脂」も同じ意味であると解される。)でグラフト化により修飾する方法は,予備調製したアクリル酸系ポリマーを塩素化ポリオレフィン上にグラフト化しても,アクリル酸系モノマーを塩素化ポリオレフィン上にグラフト化及び重合させてもよいが, いずれにしても,「塩素化ポリオレフィンにグラフト化したアクリル酸系誘導体」は「少なくとも約2000の重量平均分子量を有するものであること」が必要である」と認定した上、「刊行物1には,上記「アクリル酸系誘導体」は「酸価のカルボキシル基を与えるエチレン性の不飽和のカルボン酸またはその無水物」(共重合成分X)及び「アクリル酸系またはメタクリル酸系エステル」(共重合成分Y),さらに任意に「他のエチレン性不飽和モノマー」の共重合体からなっていてもよいと記載されており,「酸価のカルボキシル基を与えるエチレン性の不飽和のカルボン酸またはその無水物」(共重合成分X)の例として「マレイン酸無水物(無水マレイン酸)」があげられている(【0049】段)。しかし,上記記載は,「無水マレイン酸」が「アクリル酸系樹脂」の共重合成分の一つとなり得るということを示していると解されるが,さらに進んで,「アクリル酸系樹脂」が「無水マレイン酸のみ」によることも可能であることを示したものと理解することはできない」と判断しました。
その理由の第1は、「無水マレイン酸のみを本願発明におけるポリオレフィン原料であるポリプロピレンやエチレンプロピレン共重合体にグラフト化した場合,無水マレイン酸はモノマーグラフトする(monomeric grafts 構造が形成される。)との知見が,本願前に頒布された文献に記載されており,ポリプロピレンに関しては,本願後に頒布された文献でも確認されている。さらに,無水マレイン酸をポリオレフィンの一つであるポリエチレンのうち高密度ポリエチレンにグラフト化した場合には, oligomeric grafts 構造が形成されるが,平均重合度が約2の短いオリゴマーグラフトである旨が,本願前に頒布された文献に記載されている。したがって,塩素化ポリオレフィンに無水マレイン酸のみをグラフト化しても,少なくとも約2000の重量平均分子量を有する高い重合度のグラフト鎖が形成されるとは考え難く,「酸価のカルボキシル基を与えるエチレン性の不飽和のカルボン酸またはその無水物」(共重合成分X)の例として「無水マレイン酸」があげられているとしても,刊行物1に接した当業者が,塩素化ポリオレフィンに無水マレイン酸のみをグラフト化して,少なくとも約2000の重量平均分子量を有するグラフト鎖が形成できると考えるとは認め難い」ことであり、理由の第2は、「刊行物1では,塩素化ポリオレフィンにグラフト化及び重合させるグラフト鎖を「アクリル酸系誘導体(アクリル酸系ポリマー,アクリル酸系樹脂)」と記載していることから,これを構成するモノマーとしては,「酸価のカルボキシル基を与えるエチレン性の不飽和のカルボン酸またはその無水物」(共重合成分X)として,当業者の間で「アクリル酸系モノマー」と呼ばれる「アクリル酸」や「メタクリル酸」が使用されるか,当業者の間で「アクリル酸系モノマー」と呼ばれる「アクリル酸系またはメタクリル酸系エステル」(共重合成分Y)に該当するモノマーが使用されるか,又はその両方が使用されることが必要とされると解される。一方, 甲13文献及び甲14の記載によると,無水マレイン酸は,当業者間で「アクリル
酸系モノマー」と呼ばれる化合物とは,構造を異にする」ことから、「刊行物1の記載中に,「酸価のカルボキシル基を与えるエチレン性の
不飽和のカルボン酸またはその無水物」(共重合成分X)の例として「無水マレイン
酸」があげられているとしても,当業者は,無水マレイン酸のみを用いて重合した
ものが,「アクリル酸系誘導体(アクリル酸系ポリマー,アクリル酸系樹脂)」に該
当すると考えるとは認め難い」というものです。
本判決は、当業者間における技術用語(「アクリル酸系モノマー」)の理解等に照らして容易想到性を否定したものであり、容易想到性の判断にあたり当業者の理解の検討が不可欠な場合を示したものとして参考になると思われます。


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