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知的財産研究室

弁護士高橋淳のブロクです。最高裁HPに掲載される最新判例等の知財に関する話題を取り上げます。

ポリウレタン審取

2012-03-11 14:04:21 | 最新知財裁判例

ポリウレタン審取
平成23年(行ケ)第10191号 審決取消請求事件
請求認容
裁判所の判断は24頁以下
本件は、無効審判不成立審決に対する取消しを求めるものです。
争点は容易想到性の存否です。
本判決は、審決が、「本件訂正発明と甲1記載の対比・検討に当たって,甲1発明は「HCF C-141b」を含有する点が,本件訂正発明との相違点であることを前提とした上でその容易想到性の有無について,「甲第1号証には,確かに,硬質ポリウレタンフォーム用発泡剤を,HCFC-141bから,HFC-245fa,HFC -365mfcなどに代替していく方向性は示されているといえるが,このような方向性を踏まえたものとして,具体的に示されている発泡剤組成物は,その成分として,代替物である『HFC-245fa』及び『HFC-365mfc』とともに『HCFC-141b』を依然として含有するものであって,この発泡剤組成物から,さらに熱的性能,防火性能に優れる『HCFC-141b』を完全に除去することは,当業者が予測できるとはいえない。」,「甲第1号証に具体的に示された発泡剤組成物から『HCFC-141b』成分を除去するとしても,・・・複数の手法があり,どの手法を採れば,「HCFC-141b」の代替物として作用する発泡剤組成物が得られるかについては,当業者といえども,予測できるとはいえない。」,「甲第1号証に・・・具体的に示されている発泡剤組成物は,・・・『HCFC-141b』を依然として含有するものであって,当業者といえども, この発泡剤組成物において,熱的性能,防火性能に優れる『HCFC-141b』を,異性体で構造が酷似しているとはいえ,『HCFC-141a』に置換することは,容易に想到できるとはいえない。」として,甲1に記載された混合気体から,本件訂正発明1,2,4ないし12,14ないし16,19が備える発泡剤成分事項1又は本件訂正発明20が備える発泡剤成分事項2を,当業者といえども容易に想到できないと判断した」のに対し、証拠に基づき事実認定をした上で、「甲1には,HCFC-141bは高い熱的性能及び防火性能を有するが(ア),HCFC-141b等のHCFC類(Hydro Chloro Fluoro Carbon)(水素と塩素とフッ素と炭素を含む化合物)はオゾン層に悪影響を与えるという深刻な欠点を有しており,米国やEUではHCFC-141 b等のHCFC類の廃止スケジュールが定められており(イ,ウ),HCFC類の代替物質としては,HFC-245fa及びHFC-365mfcが最も有望であること(エないしキ)が開示されているといえる。 また,上記(1)エ には,HCFC-141bの全ての用途において置き換えが可能となる分子の候補として,HFC-365mfc,HFC-245fa等があり, 発泡試験の結果,HFC-245faは,調査した熱伝導率,圧縮永久歪み及び連続気泡率の分野において良好な特性があり,HFC-365mfcは,従来の発泡剤よりわずかに劣るものの,より適した界面活性剤を使用すれば結果は向上すると考えられること,同オ,カには,この2種類のHFC類(HFC-365mfc, HFC-245fa)のいずれかを用いて発泡させたポリウレタンフォームは,H CFC-141bを用いたものより熟成が遅い(熟成後の熱伝導率がより高い)と期待でき,放散比較調査から,HFC-245faないしHFC-365mfcで発泡させたフォームの長期熱熟成は,HCFC-141bで発泡させたフォームと少なくとも同程度に良好なはずであることが記載されている。 以上の記載によれば,甲1(甲6-2)には,オゾン層に悪影響を与えるHCF C-141bの代替物質としてHFC-245fa及びHFC-365mfc(特に,HFC-365mfc)を発泡剤としての使用が提案されていることが認められる。なお,HCFC-141bを,その熱的性能,防火性能を理由として,依然として含有させるべきであるとの見解が示されているわけではないと解される。そうすると,甲1(甲6-2)において,HCFC-141bの代替物質としてHFC-245fa及びHFC-365mfcが好ましいとの記載から,混合気体からHCFC-141bを除去し,その代替物としてHFC-245faないしHFC-365mfcを使用した発泡剤組成物を得ることが,当業者に予測できないとした審決の判断は,合理的な理由に基づかないものと解される」と述べ、「甲1に記載された混合気体から,本件訂正発明1,2,4 ないし12,14ないし16,19が備える発泡剤成分事項1又は本件訂正発明2 0が備える発泡剤成分事項2を,当業者といえども容易に想到できないとした審決の判断は誤りである」と判断しました。
なお、本判決は、追加実験に関して、「甲15記載の追加実験データは,本件訂正発明のうち,限定された実施例について,限定された方法により実験された結果にすぎず,このデータのみから本件訂正発明の作用効果を認定することはできない」と判断しました。
本判決は、容易想到性判断の前提となる刊行物の記載の意味の事実認定の重要性を示すものとして参考になるものと思われます。


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