液晶表示装置駆動回路審取審取
平成23年(行ケ)第10114号 審決取消請求事件
請求棄却
本件は拒絶査定不服審判不成立審決の取消しを求めた事案です。
争点は相違点の看過と本願発明の認定です。
裁判所の判断は13ページ以下。
1 本判決は、まず、相違点の看過について、「審決は,本願発明における,階調に基づいて「第1データ信号」のパルス幅を変調して「第2データ信号」を出力する点について,甲4にみられるように当該技術分野では周知の技術であり,格別の作用効果を奏するものとはいえないこと,本願発明における,階調に基づいて「第1データ信号」の振幅を変調して「第2データ信号」を出力する点について,当業者において,引用発明及び周知・慣用の技術に基づいて容易に想到し得たことを判断している」と述べた上、「審決における上記の容易想到性の判断は,合成される一方のアナログ信号の幅が他方のアナログ信号の階調に基づいて固有のものとなるか否かで異なることはないから,審決は,形式的には,相違点3を挙げてはいないものの,その構成の相違が容易想到であることを実質的に判断したものと理解できる」ことから「審決には,相違点3については,その理由中で実質的に判断をしているものというべきであり,また,形式的に相違点3の看過があったとみても,その看過が,審決の結論を左右するものとはいえない」と判断しました。
2 本判決は、次に、本願発明の認定について、原告の「補正却下に係る『前記第1データ信号の振幅値とパルス幅値は,前記
入力された第1デジタルデータ信号の階調によって定められ』という記載の有無にかかわらず,第1データ信号について,階調に依存して振幅だけが変化すると認定されるべきではなく,少なくともパルス幅は階調に依存して変化することが認定されるべきである」とする主張,及び「本願発明の『前記入力された第1デジタルデータ信号の階調に基づいて前記第1データ信号の振幅及びパルス幅を変調して第2データ信号を出力する変調部』との構成に関して,第2データ信号の『振幅及びパルス幅』が(たとえそれが第1データ信号に対して固定的な関係であったとしても) 階調に基づいてそれぞれ異なるものである」との主張に対し、「本願発明の特許請求の範囲の記載は,第2,2,(1)のとおりである」と述べた上, 特許請求の範囲の上記構成中の文言の技術的意義について検討するため,発明の詳細な説明の記載を参照」するとの判断枠組みを示し、「本願発明は,「タイミングコントローラー401」から受信したデジタルデータ信号を,「デジタル-アナログ変換部(DAC)402」でアナログ形態のデータ信号に変換して「第1データ信号」を出力し,「変調部403」で「第1データ信号」の振幅及びパルス幅を変調して,「第1データ信号」よりも大きい振幅及び短いパルス幅を有する「第2データ信号」を出力し,さらに,「第1データ信号」と「第2データ信号」とを「混合部404」で混合し,「第1データ信号」と同じパルス幅を有し,「第2データ信号」と同じパルス幅に相応する期間には「第2データ信号」と同じ振幅を有し,残りの期間には「第1データ信号」と同じ振幅を有する「混合されたデータ信号」を「混合部404」から出力して, 液晶パネルのデータラインに供給するものである。そして,本願発明は,「混合されたデータ信号」を使用して液晶実効電圧を,「第1データ信号」と同じ振幅とする前に,「第2データ信号」と同じ振幅に上昇させることにより,液晶実効電圧はより早期に「第1データ信号」と同じ振幅に相応する電圧大きさに到達することができ,液晶分子の応答速度が速くなり,1フレーム内で望む階調を十分に表示可能になるという作用効果を奏するものである」と認定し、「本願発明において,液晶実効電圧は「混合されたデータ信号」の振幅を変化させることにより制御されるから,「デジタル-アナログ変換部(DAC)402」において,「デジタルデータ信号の階調に基づいて『第1データ信号』の振幅が変調されること」を認定することができる」一方、「本願明細書には,「デジタル-アナログ変換部(DAC)402」において,デジタルデータ信号の階調に基づいて「第1データ信号」のパルス幅が変調されることの記載はない。そして,液晶表示装置において, 液晶実効電圧を規定する,所定の振幅及び所定のパルス幅を持たせた矩形波の電圧パルスを生成する際に,階調の変化を矩形波の電圧パルスに反映させる方法としては,パルス振幅変調方法,パルス幅変調方法及び振幅とパルス幅の両方を変化させる変調方法があることは,本願の優先日において,当該技術分野では技術常識であると認められる(甲4)。そして,技術常識に照らすならば,パルス幅を変調させる方法が常に採用されるとは限らないから,本願明細書の記載からは,本願発明において,デジタルデータ信号の階調に基づいて「第1データ信号」の少なくともパルス幅が変調されることが,明確に示されているとはいえない。さらに,本願発明において,デジタルデータ信号の階調に基づいて「第1データ信号」の少なくともパルス幅を変調した上で,「前記第2データ信号は,前記第1データ信号より大きい振幅及び短いパルス幅を有」するようにして,「第2データ信号」のパルス幅が「第1データ信号」の可変パルス幅に対して常に短くなるように,「第2データ信号」のパルス幅を変調することにより,「第1データ信号」のパルス幅が狭くなる場合でも,「第1データ信号」と「第2データ信号」との「混合されたデータ信号」の出力として「第2データ信号」が大部分を占め,階調を表すべき「第1データ信号」がほとんど出力されず,液晶表示装置としての基本的動作が得られない事態(すなわち,出力データ信号に階調が全く反映されない事態。) を回避することができることは,本願明細書に記載されておらず,また,本願明細書の記載から自明であるともいえない」ことから、本願発明において「第1データ信号について,階調に依存して振幅だけが変化すると認定されるべきではなく,少なくともパルス幅は階調に依存して変化することが認定されるべき」とはいえないから,原告の上記の主張は採用できない。そして,原告が主張するように,本願発明において「第2データ信号」の「パルス幅」は,たとえそれが「第1データ信号」に対して固定的な関係であったとしても,階調に基づいて異なるものであるとはいえないから,原告の上記の主張も採用できない」と判断しました。
本判決は、相違点の看過に関する判断と本願発明の認定のオーソドックスな手法をしたものです。
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