知的財産研究室

弁護士高橋淳のブロクです。最高裁HPに掲載される最新判例等の知財に関する話題を取り上げます。

図書保管管理装置事件

2013-01-16 13:59:30 | 最新知財裁判例

1 平成24年(行ケ)第10038号審決取消請求事件
2 本件は、特許無効審判請求不成立審決の取り消しを求めるものです。
3 主たる争点は進歩性の有無です。
4 
4-1 まず、本判決は、4つの公知文献の記載を根拠として、「収容物の寸法別に分類された幅及び高さがそれぞれ異なる複数の棚領域を有する倉庫とそれぞれが収容された棚領域に対応した寸法を有する複数の収容物を収容する複数のコンテナを備えた自動倉庫」が周知技術であると認定した上で、相違点1に係る容易想到性について、「ア甲4発明と上記(2)で認定した周知技術は,コンテナ等に収容物を収容し,このコンテナを,棚等を有する収容場所に格納するものである点で共通する」ことから。「甲4発明に上記周知技術を適用し,相違点1に係る本件訂正発明1の構成を得ることは,当業者が容易になし得たことである」と判断しました。

4-2
また,本判決は、仮に,「本件訂正発明1がフリーロケーション方式を採用したもので,図書のサイズにそれぞれ応じた棚領域及びコンテナを有する書庫( ②の見解)であると解し,書庫の形式をそのように限定したとしても,甲4発明(及び甲1発明)に上記周知技術を適用し,「書庫に用いる棚領域において」採用することについて,すなわち相違点1に係る本件訂正発明1の構成を得ることについて,「図書は,その幅及び高さが複数種類に限定されているため,収容物が図書に限定された場合には,限定のない場合と比較して収容効率が向上するという効果が予想されるが,収容効率を更に向上させるために,荷物の大きさを揃えて,それに対応するコンテナに収容する方がよいことは,当業者が技術常識に照らして容易に予測し得るところであって,図書の場合は,規格上,それが更にA4版,B5版等に特定されたものというべきである」と述べ、さらに、「周知技術は出納効率の向上の点からは適さないものである」との被告の主張に対し、「収容物の出納効率の観点からみると,上記周知技術は,収容物の種類ごとに収容容器を用いるのではなく,収容物の寸法等に応じて収容容器を使い分けるものであるから,複数種類の収容物を収容する場合であっても,当該収容物が同一の収容容器に収容されるものであるならば,当該収容容器を用いるだけで足りる。また,収容物の種類に応じて,収容容器の種類を増やせばスペース効率は向上するが,必ずしも収容物の種類に応じて収容容器の種類を増やす必要はない」と述べ、また、「出納効率を向上させることとともに,収容効率を向上させることは,書棚や倉庫の分野において周知の課題であり(甲48,55),出納効率の点において多少の相違があるとしても,必ずしも周知技術を適用することの阻害要因となるものではない」と判断し、「上記認定の周知技術を甲4発明に適用するに際して,コンテナの種類を複数種類とし,各棚領域に対応した寸法を有する複数の図書を収容するコンテナを得ることは,上記周知技術に基づいて当業者が容易になし得たことである」と結論づけました。

4-3
本判決は、さらに、相違点3の判断の誤りについて、「物品等を載置するパレットなどの容器を取り出す間口に対して,奥行き方向に複数の容器が収容されている場合の容器の取り出し方として,容器を取り出す間口に対して,間口を塞いでいる手前側の容器を取り出してから奥側の容器を取り出すことは,甲第5号証に記載され,審決でも認定しているように,倉庫の分野では慣用的に行われている従来周知の技術的事項である。そして,甲4発明と甲5発明とは,コンテナ等を用いて収容物を棚空間に収容する発明である点で共通するから,この周知の技術的事項を甲4発明に適用することは,当業者が容易になし得たことである」と判断し、被告の「甲4発明は,「貸し出し及び返却時の作業を容易化する」こと,すなわち,出納効率の向上という技術的課題を克服するためになされた発明であるから,出納効率を低下させる甲5発明を適用することは阻害要因がある」との主張に対し、「甲4発明と甲5発明は,上記のとおり,コンテナ等を用いて収容物を棚空間に収容する発明である点で共通しており,その主たる相違は,収容物が図書であるか一般的な荷物であるかの点にあるといえるところ,出納効率を向上させることとともに,収容効率を向上させることは,書棚や倉庫の分野において周知の課題である(甲48,55)。したがって,甲4発明において,収容効率を向上させるために,甲5発明を適用することは,当業者が容易に想到し得た事項であるといえる」と判断しました。

4-4
また、本判決は、本件訂正発明1の作用効果について、「本件訂正発明1において,上記棚領域を有する書庫及びコンテナを採用したこととの関係で得られる「書庫内における図書の収容効率を向上させる」という効果は,当業者が予測できないような格別のものと認めることはできない。全文訂正明細書の段落【0089】には,本件訂正発明1の効果として,収容効率の向上という上記の効果と合わせて,「自動化による図書の取り出し及び返却作業の能率も効果的に向上させ得る」ことが記載されているところ,このうち収容効率の向上という効果は,主として相違点3に係る発明特定事項を採用したことによる効果であるといえる」と述べ、さらに、「仮に,本件訂正発明1において,書庫の寸法及びコンテナの寸法と収容される図書の寸法との間に図書の収容効率を向上させるような関係が特定されていたとしても,この発明特定事項を採用したことによる収容効率の向上と,相違点3に係る発明特定事項を採用したことにより得られる収納効率の向上とは,それぞれ独立して生じるものであるから,その効果の大きさは,それぞれの収容効率の向上から得られる効果を足し併せたものであり,それぞれの発明特定事項から得られる収納効率の向上という効果から当業者が予測できる程度のものでしかなく,相乗効果であるとはいえない」と結論づけました。

5 本件は、周知技術の内容に着目して容易想到性を肯定した事例として参考になると思われます。

以上


コメントを投稿