1 平成24年(行ケ)第10017号 審決取消請求事件
2 本件は、拒絶査定不服審判請求不成立審決の取消しを求める事案です。
3 本件の争点は進歩性の有無です。
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4-1 本判決は、本件相違点に係る容易想到性んついて、「本件補正発明と引用発明は,本件補正発明では,封止部材がレーザー又は赤外線を吸収する吸収材を含むフリットであって,フリットと接触する表面は無機膜層であるのに対して,引用発明では,封止部材の構成が明らかでなく,同封止部材と接触する表面は絶縁層である点(本件相違点)において,相違するところ,引用例には,保護層は,多様な形態から構成され得るが,無機物又は有機物で形成されることもあることが記載されているように(【0028】), 有機電界発光表示装置の技術分野において,保護層すなわち絶縁層を無機膜で形成することは,慣用手段にすぎない」と認定し、また、「引用例には,封止層が無機材料で形成される実施例も記載されている(【0043】)。 また,前記(2)のとおり,レーザー又は赤外線を吸収する吸収材を含むフリットは,有機電界発光素子に限らず様々な素子が形成された基板の封止に普通に用いられているものである。さらに,上記のようなフリットで封止する基板としては,シリコン酸化膜や導電膜などが形成された基板も含まれることは周知であるから(乙1【0046】【0047】,乙2【0003】~【0010】),レーザー又は赤外線を吸収する吸収材を含むフリットで封止する基板は,ガラス基板に限られるものではない」と認定し、「引用発明では,封止部材の具体的な構成が特定されていないことからすると,従来から使われている様々な封止部材のうちのいずれかを用いていることは明らかである」ことから、「引用発明において,凹溝部が形成される絶縁層を無機膜で形成するとともに,封止部材として慣用のレーザー又は赤外線を吸収する吸収材を含むフリットを用いることによって,本件相違点に係る本件補正発明の構成とすることは,当業者であれば必要に応じて適宜選択し得るものということができる」と判断し。 「本件補正発明は,引用発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである」と結論づけました。
4-2 原告のガラス基板に直接接触させることを前提としている周知例におけるフリットを,その前提が満たされていない引用発明に用いることは,フリットの組成が,フリット及びガラス基板の照射源からの光の吸収,軟化温度及び熱膨張係数の特性等が考慮されて決定されている周知例に記載された発明の技術的思想に反するから,動機付けは存在しない」との主張に対し、「請求項1は,これらの特性について何ら特定されていない。そうすると,周知例に記載された発明において,フリットの組成を,フリット及びガラス基板の照射源からの光の吸収, 軟化温度及び熱膨張係数の特性等を考慮して決定することは,必須の事項であるとはいえないし,前記(3)アのとおり,レーザー又は赤外線を吸収する吸収材を含むフリットで封止する基板は,ガラス基板に限られるものではない。 そして,前記(3)イのとおり,引用発明の封止部材として,従来から使われている様々な封止部材のうち,レーザー又は赤外線を吸収する吸収材を含むフリットを選択したにすぎないから,引用発明の封止部材として上記のフリットを用いることは,選択の問題であって,そもそも,動機付けの問題ではない」と判断しました。
5 本件は、選択事項と動機付けの問題とが別個の問題であることを示した点において参考になります。
以上
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