1 平成24年(行ケ)第10174号 審決取消請求事件
2 本件は,無効審判請求不成立審決の取消訴訟であり、争点は,進歩性(容易想到性)の有無です。
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3-1 まず、本判決は、「甲第2号証のフルカラーLED投光器は,赤色,緑色,青色の三原色の発光ダイオード(LED)の発光の割合を予め定めて所定の色を発光させることができるプリセットコントローラ(10)や,上記発光の割合を無段階調で調整することができる,例えば円筒形のボリューム状の色相角調整器(12)を具備するものであるが(段落【0007】~【0010】,【0019】~【0023】,図2),審決が説示するとおり,光源の発光波長を連続的に変化させる「発光波長ボリューム部の設定位置に対応する発光状態を直感的に図示する波長スケール部」は記載も示唆もされていない。また,甲第3,第7,第8,第10号証や,甲第17号証(審判甲9),甲第21号証(審判甲6)にも,かかる「波長スケール部」は記載も示唆もない」と認定し、さらに,「甲第4,第5号証は,コンピュータで画像(ファイル)を作成するグラフィックソフトウェアに関する文献であるから,水中で光源から光を照射して集魚する発明である甲1発明とは技術分野が異なる上,光源を避けて魚群がドーナツ状に遠巻きに集まるため,漁獲効率が悪かったという従来の集魚灯の欠点を回避すべく,魚をより多く,より長時間集合させて,漁獲効率の向上を図るという甲第1号証の技術的課題(甲1の1頁右下欄~2頁右上欄)は,甲第4,第5号証には記載も示唆もなく,技術的課題に共通性がない」と認定し。加えて,「甲第1号証には,光源の発光色の変更の操作を容易にするべく,光源の発光波長を連続的に変化させる「発光波長ボリューム部の設定位置に対応する発光状態を直感的に図示する波長スケール部」の構成を採用することに関しては記載も示唆もなく,甲1発明にかかる構成を採用する動機付けがない」と判断し、「当業者において甲第4,第5号証に記載の発明ないし技術的事項を甲1発明に適用することが容易であるとすることはできない」と判断しました。
3-2 本判決は、また,「甲第4,第5号証には,三原色の各色の比率や,明暗の度合いが連続的に変化することで,その内部に配置された色が連続的に変化する様子を視覚的に確認できる図形を用意し,マウスでこの図形の所望の箇所をクリックして選択することにより,上記三原色の各色の比率と明暗の度合いを設定するという,コンピュータソフトウェアであるグラフィックソフトウェアに特有の構成が記載されているにすぎない」ことを根拠として、「コンピュータ装置を離れて,例えば本件明細書の図4のように,左右方向にスライドするつまみの上部に, つまみの位置と対応する発光色を示す,可視光領域のスペクトルを模したスケール(ガイド,目盛り)を設け,上記つまみを上記ガイドに合わせてスライドさせることで,集魚灯の発光色を所望の色に自由に変化させる(本件明細書の段落【004 2】)といった,集魚灯装置と具体的に結び付いた構成には,甲第4,第5号証に記載の発明ないし技術的事項を適用することによっても,当業者が容易に想到することができないというべきである」と判断しました。
3-3
本判決は、さらに、なお書きとして,「本件優先日当時,甲第4,第5号証に記載されているような,三原色の混合割合や明度等に応じて連続的に変化する色を例えば円環や矩形の内部に適宜配置して,所望の色に応じた箇所を選択することにより,意図した色を視覚的に選択する機構を用意することが,集魚灯,水中灯を含む照明器具の技術分野のみならず, 色の調整,選択を行う各種の技術分野においてごくありふれたものであったとまで認めるに足りる証拠はないから,甲第4,第5号証に代表されるような当業者の技術常識,慣用技術を適用すれば,本件優先日当時,当業者において相違点3の解消が容易であったともいうことができない」と認定しました。
4 本判決のなお書きにあるように、本件優先日当時,三原色の混合割合や明度等に応じて連続的に変化する色を例えば円環や矩形の内部に適宜配置して,所望の色に応じた箇所を選択することにより,意図した色を視覚的に選択する機構を用意することが, 色の調整,選択を行う各種の技術分野における横断的な周知技術であったことが立証されれば、結論が変わったかもしれません。本判決は、周知技術の中には、特定の技術分野におけるものもあれば、技術横断的なものもあるということを改めて認識させるものといえます。
以上
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