平成24年8月9日判決言渡
平成23年(行ケ)第10374号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成24年6月26日
1 本件は,拒絶査定不服審判不成立審決の取消を求めた事案です。
2
2-1 本判決は、容易想到性に関し、「引用発明と甲2文献記載の発明の技術分野,技術内容を対比,検討すると,両発明は,いずれも,風力発電で発生した電力が配電網(電力系統1)に供給される場合に,マイクロコンピュータ(制御装置7)が,周波数変換器(インバータ)を制御することにより,配電網(電力系統1)の電圧の変動を制御しようとするものである。また,電圧調整用のパラメータとして,引用発明ではマイクロコンピュータに力率が入力され,甲2文献記載の発明では制御装置7に無効電力値が入力されており,無効電力が制御の対象とされている。したがって,引用発明と甲2文献記載の発明とは,解決課題において共通する」と述べる一方、「審決が認定した常套手段2は,「電力系統の電圧制御や無効電力の制御を行う技術分野において不感帯を設ける」というものであり,その具体的な制御方法等は,何ら開示がない。また,甲4文献に記載されている不感帯域は,系統母線電圧と無効電力について,目標値V0・Q0の周囲に予め決められた不感帯域を設定し,負荷時タップ切換変圧器LR,電力用コンデンサCs,あるいは分路リアクトルSRの制御を行うことにより,系統母線電圧と無効電力を上記不感帯域に収めるものである(段落【0007】【0009】)」と認定し、「甲4文献記載の事項がいかに技術常識であったとしても,当業者が,甲4文献記載の事項を適用することにより,本願発明における引用発明との相違点2に係る構成,すなわち「(マイクロコントローラが電圧測値および所定のパラメータの値に基づいて,インバータを制御するステップと,を有し,前記電圧測値の変動を制御するよう,インバータを制御する,方法において,本願発明では,マイクロコントローラが電圧測値および所定のパラメータの値に基づいて,「目標位相角を導出し,インバータを制御して位相角φを該目標位相角に設定するステップ」と,前記マイクロコントローラが前記インバータを制御するステップと,を有し,前記インバータを制御するステップは,)前記電圧測値が下方参照電圧Uminと上方参照電圧Umaxとの間に含まれる場合は,前記位相角φの大きさが一定に保たれるよう前記インバータを制御するサブステップと,前記電圧測値が前記上方参照電圧Umaxを上回る場合には,前記電圧測値のさらなる増大に応じて前記位相角φが大きくなるように,又は,前記電圧測値が前記下方参照電圧Uminを下回る場合には,前記電圧測値の減少に応じて前記位相角φが小さくなるように,前記電圧測値が所定の参照電圧を示すようになるまで前記電気ネットワークへ誘導性または容量性の無効電力が供給されるよう,前記インバータ(18)を制御するサブステップと,を含む」との構成に,容易に想到すると解することはできない」と判断しました。
2-2 さらに、本判決は、被告の主張に関連し、「被告は,本訴において新たに,特開平3-122705号公報(乙2)及び特開平10-191570号公報(乙3)を提出する。そして,乙2には,電圧調整器を線路上に設けた系統に設置する静止形無効電力補償装置において,制御目標電圧と交流系統電圧の偏差信号に不感帯を設けることが,乙3には,発電設備と系統電源とを連系し,電圧変動基準により無効電力の制御を行う系統連系システムにおいて,検出した電圧変動量から電圧変動基準を演算して出力する関数回路において,電圧変動が一定値以内では感知しない不感帯を設けることが,それぞれ記載されており,乙2及び乙3には,「ある値(X)が下方参照値と上方参照値との間に含まれる場合は対応する信号(Y)の大きさが一定に保たれるように制御するサブステップと,前記ある値(X)が前記上方参照値を上回る場合には,前記ある値(X)のさらなる増大に応じて前記対応する信号(Y)が大きくなるように,又は前記ある値(X)が前記下方参照値を下回る場合には,前記ある値(X)の減少に応じて前記対応する信号(Y)が小さくなるように制御するサブステップを有する」不感帯を設ける制御が記載されている」と認定しつつも、「上記の不感帯における制御に関する審理,判断が一切されていない,審判手続の審理経緯に照らすならば,本訴訟に至って,上記証拠(乙2,乙3)を考慮に入れた上で,相違点2に係る構成の容易想到性の有無の判断をすることは,相当とはいえない」と判断しました。
3 本判決は、審判手続にて提出されなかった証拠について、これを考慮することは相当ではないとの判断を示した例として参考になるものと思われます。
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