知的財産研究室

弁護士高橋淳のブロクです。最高裁HPに掲載される最新判例等の知財に関する話題を取り上げます。

偏光素子測定方法審取

2013-01-16 09:14:26 | 最新知財裁判例

1 平成23年(行ケ)第10418号審決取消請求事件
2 本件は、特許無効審決の取消を求めるものであり、その争点は、実施可能性要件及び明確性要件違反の有無です。
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3-1 本判決は、「発明の詳細な説明欄には,防眩層における表面ヘイズ値・内部ヘイズ値は,「透光性拡散剤14と透光性樹脂16との比であるフィラー/バインダー比,溶剤等を調整して得られる」(【0039】),「主として表2におけるP/V比,P及びVの屈折率差,溶剤の種類等により適宜選定することができる」(【0139】)とされ, ①P/V比,②P及びVの屈折率差,③溶剤の種類の3つの組合せによって,適宜選定できると記載されている。しかし,本件明細書には,透光性拡散剤の平均粒径と内部ヘイズ値の関係についての記載はあるものの(【0038】),それ以外に,上記の三つの要素が表面ヘイズ値及び内部ヘイズ値に対し,どのように関係するかの直接的な説明はない。そこで,当業者において,発明の詳細な説明の記載において示された実施例及び比較例に基づいて,三つの要素と表面ヘイズ値・内部ヘイズ値の間の定性的な関係や相関的な関係を把握することができ,その結果,発明の詳細な説明は,発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものと解することができるか否かについて検討をする」とした上で、「表面ヘイズ値と内部ヘイズ値は溶剤の種類による影響が大きいことが推認されるが,溶剤の種類とP/V比が,協働して表面ヘイズ値・内部ヘイズ値の値に影響を与えているのか,それぞれ独立して影響を与えているのかは,全く不明である」「溶剤の種類が,表面ヘイズ値・内部ヘイズ値の双方に影響を与える重要なファクターであり,溶剤には,表面ヘイズ値を増加させ内部ヘイズを減少させる作用を有するものや表面ヘイズ値を減少させ内部ヘイズを増加させる作用を有するもの等,様々な種類があると認識できるが,そのような知見を超えて,いかなる種類の溶剤を用いれば表面ヘイズ値・内部ヘイズ値を所望の数値に設定できるかについて,当業者において認識・理解することはできない」、「表面ヘイズ値・内部ヘイズ値が,P/V比,P及びVの屈折率差,溶剤の種類の3つの要素により,何らかの影響を受けることまでは理解することができるが,これを超えて,三つの要素と表面ヘイズ値・内部ヘイズ値の間の定性的な関係や相関的な関係や三つの要素以外の要素(例えば,溶剤の量,光硬化開始剤の量,硬化特性,粘性,透光性拡散剤の粒径等)によって影響を受けるか否かを認識,理解することはできない」などと判断し、「発明の詳細な説明の記載によれば,本件発明1ないし8,12ないし6について,表面ヘイズ値及び内部ヘイズ値を所定の範囲内のものとするために,どのようなP/V比,P及びVの屈折率差,溶剤の組合せを選択すべきかについて,当業者が当該発明を実施することができる程度に記載されているとはいえない」と結論づけました。

3-2 本判決は、「表面ヘイズ値hs」及び「内部ヘイズ値hi」の測定方法について、「本件特許発明は,防眩フィルムを構成する「透明基材フィルム」,「透光性拡散剤」,「透光性樹脂」の構造等によって特定されるのではなく,主として,防眩フィルムの「表面ヘイズ値hs」及び「内部ヘイズ値hi」の数値範囲によって特定される発明である。したがって,特許請求の範囲の記載が明確であるためには,少なくとも,「表面ヘイズ値hs」及び「内部ヘイズ値hi」の数値の測定方法(求め方)が一義的に確定されることが必須である」と述べ、「「屈折率の異なる透光性拡散剤を含有する透光性樹脂からなる防眩層」における内部ヘイズ値hiの測定方法は,発明の詳細な説明の記載を参照し,かつ出願時における技術常識によっても,明らかとはいえない」と結論づけました。
4 本件は、数値限定発明について、測定方法の重要性を再認識させるものとして意義があると思われます。

以上


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