信号処理装置審取
平成23年(行ケ)第10267号 審決取消請求事件
請求棄却
本件は無効審判不成立審決の取消しを求めるものです。
争点は,進歩性です。
裁判所の判断は15ページ以下
1 本判決の判断(相違点2について)
1-1 本判決は、この点について、本件発明は,再生の開始位置から所定の部分までは圧縮しないデタを用いることにした引用発明1とは異なり,再生の開始位置から所定の部分についても圧縮したデータをそのまま用いることができるという技術的特徴を有するものということができる」と述べました。
1-2 本判決は、続いて、原告の「引用発明1において,発音遅れを解消する手段として非圧縮データを記憶するものであるから,非圧縮データの記憶手段の容量節約のために,これを圧縮データとし,必要に応じてあらかじめデコードするように構成することは,当業者には当然の事柄である」との主張に対し、「所定の部分にも圧縮データを用いると,発音指示を契機としてデコード処理が開始されることになるため,発音が開始されるまでの時間遅れが生じるという課題があった。引用発明1は,その課題を解決するために,再生の開始位置から所定の部分についてはデータを圧縮しないことにより,既に発音が開始されるまでの時間遅れが生じるという課題を解決することを可能としたものであって,再生の開始位置から所定の部分のデータについて,これを圧縮するという動機付けは存在しない。 また,引用例1には,引用発明1の効果として,楽音信号の所定期間までのディジタル・データの長さは,圧縮処理を施したデータの長さに比べて十分短いため, 圧縮効率を悪化させなくて済むと記載されているから,「非圧縮データの記憶手段の容量節約」のために,圧縮データとする動機付けも存在しない」と判断し、従って,「相違点2の構成について,当業者が当然に想到し得る事項であるということはできない」と結論づけました。
1-3 本判決は、続いて、原告の「引用発明1は,圧縮処理対象が一部であることから,結果的に,所定の開始位置から所定の部分までの先頭データは圧縮されていないデータとして記憶するものにすぎない,本件発明の特徴がデータをデコード処理することにあるとすると,「全て」のデータを圧縮することが本件発明の必須の構成であると解する理由はない,本件発明と引用発明1とは,発音指示が発生した時点で直ちに発音するために,非圧縮データに基づく発音とするという,同一の解決原理に基づくものである」との主張に対し、「本件発明は,楽曲の全体について圧縮データを用いることを前提として,発音が開始されるまでの時間遅れを防止するために,圧縮されている再生の開始位置から所定の部分までをあらかじめデコード処理して対処するのに対し, 引用発明1は,その時間遅れを防止するために,当該部分について,もともとデータを圧縮しないで対処するというものである。圧縮データにより保存された楽曲を発音するためには,圧縮データをデコード処理し,圧縮しないデータとしなければならないことは当然の前提であるが,圧縮しないデータに基づく発音にはそもそもデコード処理をする必要がなく,本件発明と引用発明1とを同一の解決原理に基づくものということはできない。発音遅れを防止するために,圧縮データをあらかじめデコード処理する構成を設けるか,あるいは圧縮しないデータのまま保存しておくかという点こそ,本件発明及び引用発明1のそれぞれの課題解決原理というべきであって,本件発明と引用発明1とは,解決原理が根本的に異なるものというほかなく,単に圧縮処理対象が全部か一部かについて相違するだけという違いではない。原告の主張はいずれも採用できない」と判断しました。
2 コメント
本判決は、進歩性の判断において、「解決課題」を重視する裁判所の近時の傾向を示す一事例として参考になります。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます