知的財産研究室

弁護士高橋淳のブロクです。最高裁HPに掲載される最新判例等の知財に関する話題を取り上げます。

フルオレン審取

2012-06-14 09:51:14 | 最新知財裁判例

フルオレン審取
平成23年(行ケ)第10225号 審決取消請求事件
請求棄却
本件は無効審判不成立審決の取消しを求めるものです。
争点は,進歩性です。
裁判所の判断は11ページ以下
1 取消事由1(甲1発明に基づく新規性判断の誤り)について
1-1 結論
本判決は、 この点について、原告の「審決が,甲1の実施例1において,冷却時にも攪拌が継続されていたことを前提として,攪拌を停止した甲5及び甲6を甲1の実施例1の追試として不適当とし,攪拌を継続した甲31の3(審決乙1)及び甲37(審決乙6)を実施例1の追試として適当であるとした判断に誤りがある」旨の主張は失当であると判断しました。
1-2 理由
1-2-1 その理由は、「甲1においては,再結晶精製方法の具体的操作方法等について,特に限定はないものの,目的物である結晶析出の際,得られた粗製品に溶媒を加え, 濾液を攪拌しながら徐々に冷却することが推奨されており,実施例1に関し,段落【0026】に,混合溶媒に攪拌,加熱下に溶解させた後,室温まで徐々に冷却して結晶を析出させ,該結晶を濾過した旨記載され,他の実施例でも同様の工程が記載されており,特段,上記の推奨される方法とは異なる方法によることは示唆されていない以上,冷却して結晶を析出させる際にも攪拌を継続したと認めるのが合理的である」というものです。
そして、本判決は、原告の「甲1の段落【0026】に,実施例1においては,冷却工
程において攪拌が停止されていたと解される記載部分がある旨」の主張に対し、「甲1の段落【0021】ないし【0026】には冷却工程において攪拌が停止された旨の記載はなく,むしろ,これらの記載を併せ読むならば,冷却工程においても攪拌が継続されていると解すべきである。 したがって,甲1の実施例1において,冷却時にも攪拌が継続されていたことを前提として,攪拌を停止した甲5及び甲6の追試は甲1の実施例1の追試として不適当と判断し,攪拌を継続した甲31の3(審決乙1)及び甲37(審決乙6)を実施例1の追試として適当なものと判断した審決に誤りはない」と判断しました。。
1-2-2 本判決は、さらに、原告の行った追試に関し、甲16,甲28(原告の実施した追試5-1の内容及び結果)によれば,オイルバスを94.0℃まで昇温してフラスコ内部の液相部温度を90.7℃まで加温し, 内容物を完全溶解させた後,オイルバスを外し,それ以降は空気中にて放冷し,この間,フラスコの内容物の攪拌を継続したこと,再結晶が始まった「濁り始め」は液温55℃付近,自然放熱冷却開始後16分程度であり,「大量析出」は液温45 ℃付近,自然放熱冷却開始後27分程度であること(甲28の図2の黄色の線),得られたBPEFの融点は161.0℃であったことが認められる。 一方,甲31の3,甲34によれば,被告の実施した甲1の実施例1の追試実験において,オイルバスを94.0℃まで昇温してフラスコ内部の液相部温度を90. 7℃まで加温し,内容物を完全溶解させた後,オイルバスを外し,それ以降は空気中にて放冷し,この間,フラスコの内容物の攪拌を継続したこと,放冷を開始した後の時間とフラスコ内部の液相部温度の推移は,19分後/59.9℃,29分後/50.0℃,46分後/40.0℃,50分後/38.6℃(結晶析出開始), 56分後/36.8℃(結晶の大量析出),112分後/30.4℃,352分後/24.8℃であったこと,製造されたBPEFの「示差走査熱分析による融解吸熱最大」は108.4℃であったことが認められる。ところで,結晶析出の際の冷却条件が,多形体の析出にとって重要な条件であることは,本件特許の優先権主張日における技術常識と認められる(甲31の5)。そして,追試5-1と甲31の3の追試実験とは,結晶析出の際の冷却速度において相違し,結晶析出について重要な条件において相違するから,追試5-1の結果が「得られたBPEFの融点は161.0℃であった」というものであったとしても,「製造されたBPEFの『示差走査熱分析による融解吸熱最大』は108.4 ℃であった」との甲31の3の追試実験の結果を覆すものとはいえない。そして, 甲1には結晶析出の際の冷却条件等に関する記載ないし示唆はないから,追試5-1の結果が,本件発明の「示差走査熱分析による融解吸熱最大が160~166℃」との要件を満たすものであったとしても,本件発明が甲1発明と実質的に同一とは認められないというべきである。したがって,追試5-1の結果によっては,甲31の3の追試方法の結果を否定することはできないとした審決の判断に誤りはなく,予断に基づくものともいえない」と判断しました。
2 コメント
本判決は、追試を行う場合の条件設定の重要性を示す一事例として参考になります。


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