知的財産研究室

弁護士高橋淳のブロクです。最高裁HPに掲載される最新判例等の知財に関する話題を取り上げます。

光照射装置事件判決

2014-12-13 17:19:06 | 最新知財裁判例

1 事件番号等

平成21年(行ケ)第10256号

平成22年05月12日

 

2 事案の概要

 本件は、原告が、無効審判請求不成立審決の取消しを求める事案です。

 

3 特許請求の範囲

(請求項1)

 対向する電極間に少なくとも1枚の誘電体が入っている誘電体バリア放電ランプを複数具備し、該誘電体バリア放電ランプとワークとを相対的に移動させながら該ワークの被処理面に誘電体バリア放電ランプよりの光を照射して当該ワークの処理を行う光照射処理装置であって、/当該誘電体バリア放電ランプのリード線は、当該誘電体バリア放電ランプの長手方向の一方の端部のみから導出され、当該誘電体バリア放電ランプを前記ワークの搬送方向からみたときに、当該誘電体バリア放電ランプが形成する光出射領域は、少なくとも1つの他の誘電体バリア放電ランプが形成する光出射領域と相違し、かつ、当該誘電体バリア放電ランプの長手方向の他方の端部において重なることを特徴とする光照射処理装置

 

4 審決の理由の要旨

本件審決の理由は、要するに、本件発明1、2、3、5及び6は、下記ア及びイの引用例に記載された各発明(以下「引用発明1」及び「引用発明2」)並びに下記ウ及びエの周知例に記載された技術に基づいて容易に想到することができたものではないから、当該発明に係る本件特許を無効にすることはできない、というものである。

 ア 引用例1:特開平8-124536号公報(甲1)

 イ 引用例2:特開平5-300320号公報(甲4)

 ウ 周知例1:特公昭54-31993号公報(甲2)

 エ 周知例2:実願平2-42955号(実開平4-2023号)のマイクロフィルム(甲

 

5  本件発明1と引用発明1との相違点は以下のとおりです。

相違点1:ワークの被処理面に誘電体バリア放電ランプの光を照射して当該ワークの処理を行うものにおいて、本件発明1は、「誘電体バリア放電ランプとワークを相対的に移動させながら」行うものであるのに対して、引用発明1は、そのようなものを備えていない

相違点2:誘電体バリア放電ランプのリード線は、当該誘電体バリア放電ランプの長手方向の一方の端部から導出されるものにおいて、本件発明1は、「誘電体バリア放電ランプをワークの搬送方向からみたときに、当該誘電体バリア放電ランプが形成する光出射領域は、少なくとも1つの他の誘電体バリア放電ランプが形成する光出射領域と相違し、かつ、当該誘電体バリア放電ランプの長手方向の他方の端部において重なる」ものであるのに対して、引用発明1は、そのようなものを備えていない点

 

6 裁判所の判断(相違点2についての判断の誤りについて)

本判決は、原告の「引用発明1そのものではなく、これに周知例1及び2に記載の紫外線照射装置における「周知の基礎的技術」を適用してなる「紫外線照射処理装置X」の技術分野と引用発明2の技術分野との異同を論じるべきであり、引用発明1そのものの技術分野と引用発明2のそれとの異同を問題にする本件審決の判断手法は、誤りである」との主張に対し、概ね、以下のように判断しました。

すなわち、原告は、本件特許無効審判請求において、相違点2に係る構成について、「紫外線照射装置X」に引用発明2を適用することにより容易に想到することができると主張していたものであるところ、当該相違点2の認定は、本件発明1と引用発明1との対比によるものである。そして、原告は、本件訴訟においても、本件審決が、本件発明1と引用発明1との対比によって相違点2を認定した上で、この相違点2について容易想到性を判断した手法自体について、争っているものではない。また、原告は、本件審決による引用発明1の認定についても、争っていない。そうすると、相違点2は、本件発明1と引用発明1との対比によって認定された構成であるから、判断手法として、引用発明1に基づいて、相違点2に係る構成の容易想到性を判断することに不合理な点はない。

原告の主張する「紫外線照射処理装置X」は「周知の基礎的技術」を適用してなるものであるから、引用発明1と「紫外線照射処理装置X」とは同一であると認められないところ、本件発明1と引用発明1との対比による相違点2に係る構成を、引用発明1ではなく「紫外線照射処理装置X」に引用発明2を適用することにより判断すべきものとはいえない。かえって、相違点2の構成について、「紫外線照射処理装置X」に基づいて容易想到性を判断することは、特許法29条2項に規定する「前項各号に揚げる発明」を、相違点2の判断のみにおいて、引用発明1からこれとは同一とはいえない「紫外線照射処理装置X」に変更するものともいうことができる。

したがって、「紫外線照射処理装置X」の技術分野と引用発明2の技術分野との異同を論じるべき理由はなく、「紫外線照射処理装置X」に基づく容易想到の主張は、そもそも、特許無効審判の請求の理由としては、主張自体失当であったといわざるを得ない。

 

7 コメント

発明の進歩性判断は、大まかに言えば、主引例から主引例発明を認定し、これと本願発明又は本件発明とを対比し、相違点を認定した上で、当該相違点が容易に克服することができるか否かを判断するというステップから構成されるものです。

ここで、主引例発明となるためには、主引例に記載されている又は記載されているに等しいことが必要条件となります。

本件においては、主引例から認定できる発明(引用発明1)に対し、「周知の基礎的技術」を適用して得られる「紫外線照射処理装置X」を主引例発明とすることは許されないのは当然のことといえましょう。

 

以上

 


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