サイバード高裁決定は、サイバード・ホールディングスの株式非公開化(TOBとスクイーズアウト)に際しての全部種類取得条項付株式の取得価格決定申立に対し、TOB価格にプレミアム20%を上乗せして取得価格を決定した。その骨子は以下の3点である。
第1に、「公正な価格」は、「取得日における当該株式の客観的価値」に加え、「強制的取得により失われる今後の株価上昇に対する期待権を評価した価額(プレミアム)」をも考慮して、裁判所の裁量により決定される。
第2に、「株式の客観的価値」は、本件TOB公表前1ヶ月間の市場株価の終値による出来高加重平均値とする。
第3に、プレミアムについては、株式の客観的価値の20%を下回ることはない。
本件については、まず、株式の「公正な価格」を決定することは極めて困難であるとの認識から出発する必要があり、かかる認識を踏まえれば、裁判所がその「裁量」により「公正な価格」を決定することには「謙抑的」であるべきとの結論に至る。すなわち、株式の「公正な価格」を決定する確立した理論がない以上、独立した関係当事者が真摯に交渉した結果決定されたTOB価格を以て、「公正な価格」と考える他ないのである。言い換えれば、裁判所の司法審査は、原則、当該TOB価格が、「独立した関係当事者が真摯に交渉した結果決定されたもの」であるか否かに限定されるべきであり、当該TOB価格が、「独立した関係当事者が真摯に交渉した結果決定されたもの」といえない場合に初めて、裁判所がその裁量により「公正な価格」を決定することになる。
かかる観点から検討すると、本件においては、「交渉型」第三者委員会の設置等を通じた利益相反軽減のための措置が講じられており、また、当該第三者委員会には、弁護士、コンサルティング会社出身者が含まれていたとのことであり、当該TOB価格は、「独立した関係当事者が真摯に交渉した結果決定されたもの」といえるとも思える。
しかし、「交渉型」第三者委員会が現実にどの程度の交渉を行ったかは定かではないし、ファイナンシャルアドバイザー及びリーガルカウンセルともに、対象会社のそれらと同一であった等の事情に加え、第三者委員会の報酬体系も不明である上、「ノー」といえる権限がなかったであろうと推測されることを考慮すると、当該TOB価格は、「独立した関係当事者が真摯に交渉した結果決定されたもの」といえないという認定もあながち不合理とは言いがたい。
いずれにせよ、問題の本質は、サイバード高裁決定及びその他の関連する複数の高裁決定が、株式の「公正な価格」を裁判所がその「裁量」により決定すべき局面を、当該TOB価格が、「独立した関係当事者が真摯に交渉した結果決定されたもの」といえない場合に限定していないように見えることにある。
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